サッカー インド大善戦!

 10月11日、バンガロールのスタジアムで君が代に続いてジャナ・ガナ・マナの演奏がなされた後、インド時間午後5時40分、日本時間にして夜9時10分にAFCアジアカップ予選A組インド対日本の試合がキックオフされた。
 すでに本大会行きが決まっている日本にとっては消化試合に過ぎず、今回の大会ではすでに後に続くものがないインドにとってもこの試合で具体的に得られるものは特にない。それでもインドにとっては世界レベルのチームとの対戦は決して多くない貴重な機会である。特に若手の選手にとっては自らの実力を自国のサッカー協会や所属クラブにアピールする絶好のチャンスだ。開催地がバンガロールということもあり、自国ファンの目の前でインドがどこまで頑張ることができるのか大いに期待されるゲームだ。
・・・とはいうものの、スタンドには空席が目立つ。サッカー熱の高いカルナータカで戦う自国代表の試合がこんなものであるのはちょっと寂しい。
 前半の日本は2点を挙げたとはいうものの、明らかに格下(FIFAランクを書く)のチームのペースに合わせてしまい、持ち味のスピード感を欠く退屈な試合をしていたと言わざるを得なかった。ただしこの両得点を挙げたガンバ大阪の播戸の気持ちの入ったガッツあふれる姿勢は良かった。風貌、体格といいプレーのスタイルといい、若いころのインドのエース、ブーティヤーを彷彿とさせるものがある。
 そのいっぽうインドはといえば、FWのバイチュン・ブーティヤーはインド、いや南アジアを代表する名手とはいえ、前線に張っている彼にいくつかのいいボールが渡っても、やはり相手が日本くらいのレベルになると特に目立たないごくフツーの選手となってしまうのはやはり盛りを過ぎたためもあったのかもしれない。全般に技術・戦術のレベルの差が大きいため個々の選手に気持ちの余裕がないのだろうが、せっかくフリーでボールをキープしていても平凡なミスにより失ってしまうシーンが目立つのは残念だった。
 だがインドは思い切り引いて守りを固めてカウンター一発を狙う・・・という形でくるだろうという大方の予想に反して、中盤の高いところから果敢にプレスをかけてくる積極的なスタンス、だからといって簡単に裏を取られることない守りの固さは大いに評価できるだろう。
 個々の選手としては中盤のマンジートはなかなかいい仕事をしていたし、ステーヴンも卓越した技術を見せてくれた。ディフェンダーのプラディープが自陣深いところから時おり前線へ繰り出す長いパスも魅力的だった。 誤解のないように付け加えておきたいが、FIFA世界ランクの評価ほどにはインド選手の個人技のレベルは決して低くないのである。


 後半は37分に中村が日本の3点目となる鋭いミドルシュートをインドゴールに放つまでの間、堂々かつ優勢に試合を進めるインドの姿に目を疑った。FIFAランキングにして47位(日本)と136位(インド)という大きな差のある両者の対戦とは思えないほどの出来であった。思えば5月に北アイルランド人のボブ・ホートン監督が就任後のインド代表の試合を目にしていないが、さすがは中国代表とウズベキスタン代表で監督を務めた名将だけのことはある。今のインド代表は断然違う。
 チームが乗ってきて個々のプレーにも余裕が出てきたのがこの時間帯であった。ディフェンスのプラディープがスピードに乗ってオーバーラップしてきてのシュート、ブーティヤーがゴール前で味方からもらった浮き球を振り向きざまにボレーで狙ったかと思えば、その後にはオーバーヘッドでのシュートを試みるシーンもあった。この間、インドの攻撃は決して単発のものではなく、巧みなコンビネーションでつないで日本のディフェンスを崩してのなかなか見ごたえのあるものが見られた。フィジカル面でも強さを発揮したインド相手に故障者や足がつったりする選手が続出し、日本にとっては苦しい時間帯となっていた。
・・・といろいろ書いてみると、まるでインドが日本を凌駕するような試合展開をしていたかのように聞こえてしまうかもしれないが、やはり『3対0』のスコアどおりのゲームではあった。今回もこのアジアカップで優勝を目指す日本としては大いに課題を残す試合ではあったが、点差以上に日本を苦しめたインドにとっては大いに実りあるものであったのではないだろうか。試合を観ている多くの人々も『インドはあなどれないな・・・』という印象を受けたのではないだろうか。
 もちろんこれでインドのサッカーが突然見違えるように強くなるとは思えない。まだまだ選手層が薄く、競技人口の裾野も小さいため、今の代表にたまたま質の高い選手がそろっていたとしても、後の続くものがなければ成長は見込めないはずだ。欧州やラテンアメリカにおけるサッカー、アメリカにおける野球やバスケットボール・・・とまではいかなくても、日本や韓国におけるJリーグやKリーグとして国民的な支持を受ける娯楽といった地位にまで昇りつめなければ、なかなか国際的な大会で活躍できるようなレベルに達することはないのだ(サッカー不毛の地と呼ばれながらもワールドカップに複数回出場しているアメリカは唯一の例外だろう)それでもインドのレベルは格段に上がったことを感じさせてくれるのが今日の試合だった。
 予想以上にインドの出来が良かったために、青いユニフォーム(この日ホームの試合のインドが青、アウェイの日本が白)のほうに大きく気持ちが入ってしまった。選手たちが素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたいっぽう、不甲斐なかったのはこの試合のマネジメントだ。前半終了近くに二基の照明塔が突然停電して試合中断。(ホテルならばここでババババッと自家発電機が回り始めるところか?)一基は復旧したもののもうひとつは消えたままで試合再開。これによって前半は5分という長いロスタイムが付いた。
 後半の34分、再び照明が一基消えて暗くなったかと思えば、試合終了間際に突然茶色い野犬がピッチに飛び出してきて2回も試合が中断された。以前コルカタでも長い停電があったが、今回のバンガロールでこれでは世界に名だたるインドIT産業中心地の名が泣く。
 強豪日本相手に一歩も引かず勇敢に戦い、FIFAランキングでは推し量ることのできないインド代表チームの高いポテンシャルを突きつけた好ゲームであったにもかかわらず、『なんだか変テコなことばかり起きる妙な試合だったなあ〜』と、試合そのものの印象を大幅に薄めてしまうことになりかねない。会場関係者には大いに反省してもらいたいと思う。
 サッカーの国際試合ひとつでこれでは、2010年にデリーで開催が予定されているコモンウェルス大会のほうは大丈夫なのだろうか?

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