久しぶりにプリーを訪れてみた。
『広々とした浜にはいくつか海の家みたいな簡単な食堂があって、背後にはまた簡素な宿がいくつか。その裏手の道路向こうにはいくつか池があったっけ?』
『そんな宿の少し向こうから漁村になっていて、道沿いには小さく質素な店がいくつかあったなぁ。夕方、陽が暮れるとすっかり真っ暗になって、夜空に輝く満天の星がきれいだった・・・』
以前滞在したときの浜辺の閑散とした、しかしのんびりした様子を思い出していた。ブバネーシュワルの空港からプリーに向かうタクシーの車内でのことである。
「プリーではどこに泊まるんですか?」と運転手。
「海沿いの道で宿がいくつもあるところ。何て言ったっけ?」と私。
「CTロードでしょう?どのホテルですか?」
どこに泊まるか決めていないが、とりあえず浜辺の通りの真ん中あたりにある宿の名前を挙げておいた。すでに日が沈んですっかり暗くなっているので、どこを走っているのかわからないが、とりあえずプリーの街中に入っているようだ。
どこかでクルマは左折してしばらく直進。レストラン、両替屋、多くのホテル等が並ぶ賑やかな繁華街に出た。
「CTロードに着きましたが、何というホテルでしたか?」と運転手がこちらを振り向く。
「えっ?ここなの?」と驚く私。
何かの間違いじゃないかと言いたいところだが、確かにそうなのだろう。
「ずいぶん変わったんだね」と言葉が出かかるがやめておく。そもそも私が前回プリーに来たのはもう20年近く前のことだ。20歳そこそこと思われる運転手は、その頃生まれたばかりで母親の足元をヨチヨチ歩いていたはず。
宿の部屋に荷物を置いてから外に出る。もうすっかり夜になっているが、人通りは多いし街灯や店などからの灯で明るい。かつて外国人バックパッカー以外が宿泊することがあまりなかったこの界隈だが、大小沢山のホテルが出来ていて行き交う観光客の大半はインドの人たち。家族連れや仲間連れといった人々が多い。
外国人客に人気だというベーカリーに行ってみる。店で焼いたパンや洋菓子類が売りで、その他洋食を中心とした食事なども出来るようだ。 通りから大きなガラス窓越しに見える店内の席は一杯のようだったが、裏手の元々庭だったらしいスペースにも席がしつらえてある。コンクリートの土間に座るようになっている。
テーブルひとつ向こうの席に座っているちょっと崩れた感じの西洋人カップルが紙巻きタバコをモゾモゾといじっている。ライターをカチッと鳴らす音からしばらく遅れて漂ってきたのは、やっぱりカナビスのにおい。
そういえば通りにはバーング・ショップと書かれた店も見かけた。ずいぶん賑やかになったが、こういうところは昔と変わらない。
<続く>