プリペイド・タクシー

 

(挿入画像は記事中の出来事とは関係ありません)

ふと思い出したのだが、深夜近くのコールカーターの空港から市内へのプリペイドのタクシーで感心しないことがあった。 

プリペイドのカウンターで、サダル・ストリートまで240 Rsの料金を支払い、チケットをもらうと、なぜか当のクルマの番号が書かれていない。「行けば係の者が手配します」との返事なので、まあいいかと外に出る。確かにそういう男性がいるが、クルマの番号を書き込むことなく「この人が運転手です」と言う。 

険悪な雰囲気の運転手の横にはこれまた感じのよくない若いチンピラみたいな若い男。「プリペイドだと運転手を選べないから嫌だな」と思った矢先、このチンピラは空港敷地を出て大通りに入ったところで、クルマ左側の窓から大きく身を乗り出して、道路脇に駐車しているタクシー運転手たちに「ニューマーケットまで100ターカー(西ベンガル州ではルピーのことをしばしばターカーと呼ぶ)で行くか?」と声をかけまくっている。 

もちろん状況からして、彼がニューマーケットまで行きたいわけではなく、そのエリアまで行くお客を『買わないか?』ということだろう。さてどうなるのか?空港から数百メートルのところから市内中心部まで100 Rsという破格の料金で行くクルマはあるのだろうか? 

何台かは150 Rsだの120 Rsだのという返事をしていたが、やがて100 RsでOKというクルマが現れた。私の乗っているタクシーの運転手は、案の定「ブレーキが壊れた。ここから先のクルマの料金は出すから乗り換えろ」となどとのたまう。 

プリペイドの240Rsのうち、おそらく30~40Rs前後がカウンターの取り分であると仮定して、運転手には200~210Rs前後が渡るのだと思う。ほとんど走行することなく、空港敷地を出たところで他の運転手に100 Rs渡して引き継がせ、自分たちは空港タクシー乗り場にトンボ帰りして他の客を乗せるのだろう。 

これが可能なのは、客の行先が繁華街かその付近であることに加えて、空港近くで客待ちしている他の運転手が「ガソリン代くらいでも出ればお客のいそうなところに移動したい」と思う時間帯であることだろう。もしかするとシフトの時間も関係しているのかもしれない。 

空港からニューマーケット(私が向かおうとしていたのはそのすぐ近くのサダル・ストリート)まで100 Rsというのは、通常あり得ない金額であるが、この男自身がタクシー運転手であるがゆえに「繁華街での客待ちのために移動させるお駄賃」として受け入れられるギリギリの金額であろうと心得ているのだろう。 

加えてプリペイドのブースでチケットを売る男、タクシー溜りで運転手にお客を手配する男もこれにつるんでいるのかもしれない。 

運転手に「お前が連れて行け」と言い張ってみたところで仕方ない。最初からそういうつもりで走らせているので、そのまま走らせてもロクなことがないだろう。また彼には「ブレーキが故障した」という大義名分もある。 

なぜならば最初の運転手はそういう人間なので、「このクルマで行く」と固執して行ったとしても、ロクなことがないことは明らかだからである。やれやれ、これではプリペイドの意味がないではないか。 

だが乗り換えたところで、当初の運転手から渡された100 Rsという極端に低い金額で空港からサダル・ストリートまで行くということになった他の運転手が、道中であるいは着いてからガタガタと煩いことを言い出す可能性もある。 

最初の運転手は私が手にしているお客用のスリップ(プリペイドのタクシー料金の領収書)を渡せという。クレームを付けられないようにということだろう。前述のとおり、これにクルマのナンバーは書かれていないのだが。しばらく不愉快なやりとりが続いたが、もう夜も遅いので、こんなことで貴重な時間を取られたくないため、最後はこれを相手に渡して出発。やれやれ・・・。 

幸いであったのは、乗り継いだタクシーの運転手が至極まともな人物であったことだ。彼によると、私が想像したとおりの条件下でこうした姑息なことをする空港発のタクシー運転手はかなりあるのだそうだ。 

「ほんの1キロ走っただけで100 Rs以上を手にして、他の運転手には残りの行程をわずか100 Rsで走らせるのだからひどいもんです。ああいう輩がいるからコールカーターのタクシーのイメージが悪くなってしまって困ります」

朴訥とした話し方の真面目そうな中年運転手であった。

ともあれ彼自身もそうしたタクシーが通りかかる沿道で客待ちしていたのは、都合のよい場所に多少なりとものお金を手にして移動できることを期待していたようではある。 

以前、無線タクシーと題して、近年インドの大きな街でのサービスが広がっている無線タクシーのことを取り上げてみたが、従前からのタクシーの在り様からして、新手の「まともなタクシー」はインドのサービス業の中で最も高い伸びが期待できるもののひとつであるといっては大げさすぎるだろうか。

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