ネパールは『中国の時代』を迎えるのか?

1年ほど前に『ネパールにも鉄道の時代がやってくるのか?』と題して、中国がネパールでの鉄道建設計画に深く関与していることについて書いた。南進を画策する中国は、インドの周辺国に対して鉄道建設計画を含めた援助を行なうことにより、自国との乗り入れを含めた国家間のリンクを強め、これらの国々を影響下に置こうとしている。 

そうした中で顕著なものは、パーキスターンにおけるグワーダル港、スリランカにおけるハンバントタ港の開発、ネパールにおける水力発電所の建設計画であったりする。 

今やGDP世界第2位に躍り出た中国。豊富な資金、技術力と労働力で積極的に国外への影響力を高めようとしており、南アジアで突出した存在感を示してきたインドに対し、長期的な視野から着々と包囲網を築き上げつつある。すでに中国は、ネパールにおいてインドに次ぐ第2位の投資国にもなっている。 

その中国にとって、自国占領下にあるチベットとの境を接し、伝統的にインドと深くかかわってきたネパールは、地理的に南アジアの入り口に位置しており、対インド的にもとりわけ重要な戦略拠点となる。中国から見ると、まさにネパールは現代の『グレート・ゲーム』の舞台であるようだ。ちょうど19世紀の中央アジアがイギリスとロシアの間で国益と覇権を賭けた駆け引きの舞台であったように。 

2011年に予定されているチベット亡命政府の総選挙における首相と国会議員の候補者を選定するための予備選挙が10月3日に行われた。現在、亡命チベット人の人口はおよそ15万人であるとされ、そのうち8.9万人が18歳以上の選挙権を持つ有権者であるとされる。 

インド国内を含めた世界50カ所で投票が実施された。インド在住の有権者のうち実際に投票を行なったのは20%程度であったとされるが、オリッサ州のチベット人居住地プンツォクリンでは、驚くべきことに投票率が94.39%という非常に高いものであったということだ。

インドの隣国ネパールでも亡命チベット人人口は2万人を数える規模の大きなものであるが、投票終了1時間ほど前にネパール当局による妨害により、事実上無効となってしまった。事件当日、投票所から投票箱を持ち去る警察官たちの姿を収めた動画がYoutubeで公開されている。 

Nepal police confiscated Tibetan ballot box (Youtube) 

この出来事には伏線がある。かねてより中国からネパール国内で中国の『内政』に干渉する活動を禁じるようにと圧力がかかっていたが、今年9月中旬に中国のハイレベルの代表団がネパールを訪問した際、ネパールから『ひとつの中国』ポリシーを取り付けていたようだ。 

ここで言う『ひとつの中国』とはもちろん、台湾の存在に関わる『両岸問題』よりも、主としてチベットの扱いに対するものであることは明らかだ。 

ネパールがこのように『中国に従順』な姿勢を見せるということは、インドにしてみても決して看過できるものではない。ときに関係がギクシャクすることもあっても、兄弟のような関係にあったネパールが、たぶらかされて仲の悪い隣人の家に婿養子に出てしまい、実家に顔も出さないような具合になってしまっては・・・というよりも、場合によっては『もうひとつのパーキスターン』として、インド自身のセキュリティに関わる問題に発展する可能性もある。 

地理的にインドと中国の狭間でうまくバランスを取ってきたネパールにとっても、対中国の依存度を深めることは、長期的な視野から果たして得策なのであろうか。 

我が身を振り返れば、日本もバブル以降、それ以前からの中国の開放政策と相まって、積極的に企業等が中国大陸に進出していき、私たちの生活の中で『中国』は片時も欠かすことのできない存在となった。 

同時に中国に対する日本からの投資額の大きさは、そのものが中国に質に取られているようなものでもある。尖閣諸島問題においても顕著であったように、レアメタル類の調達先が中国に依存しきっている日本に対して、北京がこれらを輸出することを禁じる動きを見せると、経済界が瞬時に悲鳴を上げるようになってしまっている。 

現在の中国のネパールに対する寛大で気前の良い姿勢は、決して善意から出ているものではなく、将来の南アジアで権勢を振るうことに対する先行投資であり、友好の名のもとに進める計算ずくめの国家戦略である。 

対中国依存度が高まり、インドの側に戻ることができないところまで行き着いてしまった暁には、新たな華夷秩序に組み込まれた内陸国ネパールは他に頼る相手もなく、経済カードをちらつかせて恫喝する暴君の素顔を露わにした中国を相手に呻吟することになるのではないかと危惧するのは私だけではないだろう。 

Nepal police disrupt Tibetan elections in Kathmandu (Phayul.com) 

The China factor in Nepal (INDIAN DEFENCE REVIEW) 

China takes over Nepal  (INDIAN DEFENCE REVIEW)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください