嵐と水害

1959年に大きな被害をもたらした『伊勢湾台風並み』の大型台風が日本に接近しているのだそうだ。
「伊勢湾」並み台風18号、近畿の一部暴風域に (YOMIURI ONLINE)
台風18号あすにも近畿上陸 伊勢湾台風並み (産經関西)
伊勢湾台風並みというのはいささかオーバーな表現かもしれないが、控えめな表現でもここ10年で最大の台風ということになっているようだ。また予想されるコースが50年前の伊勢湾台風のものと重なることからも、とりわけ当時被害が甚大であった名古屋近郊南部に広がる干拓地を含む低地での高潮による被害も懸念されているようだ。
台風18号、東海あす朝直撃も 風速過去10年で最大 (中日新聞)
今後、台風の進路となることが予想されている各地で明日、学校を休校する決定が相次いでいる。相当強い風雨となることを懸念してのことである。
気象予報士の森田正光氏らによる『チーム森田の”天気で斬る”』によれば、最大瞬間風速58.9メートル(観測史上3位)で、最大風速39.1メートル(観測史上5位)とのことである。最低気圧955.9ヘクトパスカル。これは、本日未明に台風18号が約70キロまで接近した南大東島で観測された数値であるそうだ。


近年稀に見る大型台風であることに加えて、その強い勢力を保ったまま日本本土に上陸するものと見られることから、一層の警戒が呼びかけられている。ひょっとすると歴史的な台風として人々に記憶されるような災禍をもたらす可能性があるのかもしれないので、通過が予想されているコース付近にお住まいの方は特に充分注意していただきたい。
1959年の9月26日に和歌山県の潮岬に上陸後、特に紀伊半島と東海地方で大きな被害をもたらした伊勢湾台風の災禍から50年とのことで、特に被害の大きかった地方のメディア等では、ここしばらく大きな特集が組まれていたようだ。
この台風における被害を取り上げた書籍も刊行されており、このほど以下の書籍を読んでみた。伊勢湾台風の災禍を、特に甚大な被害を蒙った村を軸に描き出した力作である。
『伊勢湾台風 水害前線の村』岡邦行 著 ゆいぽおと 発行
ISBN-10: 4877584250
おおまかな内容については、以下の書評を参照願いたい。
【書評】『伊勢湾台風 水害前線の村』岡邦行著 (MSN産経ニュース)
この書籍で取り上げられている飛島村は、名古屋市に隣接しているが、江戸時代中期に由来する干拓により得られた地域に位置する。戦後の高度経済成長期を迎えるまでは、農業と漁業を生業とする村で、低地であるがゆえの度重なる水害に悩まされてきた歴史を持つ。
今でこそ西部臨海工業地帯を擁し、4,500人ほどの村民人口の2倍以上、10,000人を超える人々がここに誘致された企業で仕事に従事するために通勤するという、人の出入りが異例に高い村となっている。
そうした背景が、少ない人口に比してあまりにアンバランスな膨大な税収をもたらしており、今年度の一般会計は79億円を超えるということで、日本一豊かな自治体なのだそうだ。
かといって、この村の将来は明るいものではなく、元々が干拓地であり、全域が海抜ゼロメートル地帯であり、中にはマイナス2メートルの地域もあるとのことで、デルタ地帯に広がる国・地域や南太平洋の島のように、地球温暖化による海面上昇による消滅の危機に晒されている。
愛知県を直撃する台風は多くないものの、半世紀前の伊勢湾台風の際には、満潮の時刻と重なったこともあり、台風という超大型低気圧による海面を引き上げる作用のため、5メートルを越える高潮が押し寄せたという。このような事態が再度発生すれば、ふたたび当時のように村全体が長期間にわたって水没することが懸念されているという。
南アジアのモンスーン末期ともなると、しばしば想像を超える被害のニュースが飛び交う。今年は南インドで大きな水害が起きている。モンスーン以外の突発的なものでは、昨年、バーングラーデーシュを襲ったスィドル、ミャンマーのデルタ地帯に壊滅的な被害をもたらしたナルギスといった大型サイクロンも記憶に新しい。
こうした被害には、記録的な豪雨という原因とともに、そうした状況下において、往々にして水害を招きやすい地理的な要因もある。不幸にしてそうした災害が発生してしまった際の救助活動やその後の復興援助についても、いろいろ問題が指摘されることも少なくない。
『備えあれば憂いなし』とは言うものの、個々の人々の備えや心構えだけではどうにもならないのが天災である。自然がもたらした災害に、行政の不手際や怠慢からくる『人災』までも加えて、さらなる不幸を招かないようにしなくてはならない。
国はどこであれ、政府の存在意義の最たるものは『国民の生命と財産を守ること』であるはず。行政に対する期待値は様々であっても、政治プロパガンダや目先の利益のみをチラつかせた人気取り政策に誤魔化されることなく、きちんとした見識を持つ人々を私たち市民の代表として政治の場に送り出すことを心がけたい。
風土やお国柄は違っても、民主主義というシステムのメリット・デメリットはどこにあっても同じようなもの。
さて、本日10月7日水曜日、もうすぐ日付が変わって台風上陸が予想されている8日になろうとしている。どんな一日になるのだろうか。『伊勢湾台風並み』という報道がメディアによる取り越し苦労となり、誰もが晴れやかな気分で、爽やかな台風一過の澄み切った青空を見上げることができるよう願いたい。

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