新型パソコン@10,000RS

 インド発の新しいPCの流れが生まれる予感(?)がする。このほどバンガロールのエンコア・ソフトウェア社は、リナックスのOSを搭載した1万ルピー(約2万4千円)で購入できる低価格パソコンを発表した。これまでパソコンの購買層として想定されていない人々をターゲットにする製品だ。
 開発関係者によれば、一般ユーザーの必要以上に多機能にして高性能なパソコンは「西洋の使い捨て文化の象徴」だといい、マイクロソフトのウインドウズとインテルのCPUによる、いわゆるウィンテル支配の呪縛からの解放さえも目指す意欲作とのことで、これまでになかった新しいPC環境創造への意欲が感じられる。
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 ノート型のMobilisが2機種、そしてデスクトップ型のSofCompは1機種の計3タイプが用意されており、どれもコンパクトで最軽量機種は重量500グラムと軽量。予定価格は1万〜1万2千ルピー(およそ2万4千円から2万9千円)だ。生産・販売が拡大するにつれて価格が下がることが期待されている。
 スペックは現在一般的なパソコン環境に比較すると相当低い。200/400 MHz のCPUで128 MBの SDRAMというから、いうまでもなくウインドウズXPが動作できる環境ではない。プログラムがインストールされるローカルディスクはわずか512 MBしかない。また作成したデータ保存のためのハードディスクドライブは用意されていないとのことで、フラッシュメモリーあるいは外付けのハードディスク他のストレージを利用することになる。またCDドライブも付いていないので、これも必要に応じて外付けするしかない。日ごろPC関連誌上でとりあげられるハイエンドモデルとは正反対の「ローエンド」モデルなのだ。
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 ターゲットは低所得層(1人当たりGNI 540ドルの国で2万円台は大金だが)でも、いわゆる「ニッチ市場」というわけではない。ITを基幹産業としてとらえる政府による「国民に広くパソコンを普及させる」という方針により、インドの科学工業調査委員会がこのパソコンの開発にかかわってきたからだ。クルマでいえば80年代に日本のスズキ自動車との合弁で生産を開始した「国民車」としてのマルチにたとえてもいいかもしれない。
 それだけではない。低価格ながらも必要な機能だけに特化した極めて実用的な造りに徹していることから、他の途上国の市場への浸透をも狙う国際的な戦略モデルなのだ。
 ワープロ、表計算、プレゼンテーション、電子メール、ウェブ閲覧、メディア再生、データベースその他のアプリケーションソフトを利用できるし、多言語サポート機能にも力を注いでいる。ヒンディー、カンナダ、マラーティーの各言語に対応しており、タミル、テルグも開発中だ。デジタルデバイドを生む背景には、所得水準だけではなく言葉の問題もあることへの配慮も盛り込んだということだろう。
 低価格にしては長時間持続するバッテリー(6時間)、オプションでソーラーバッテリーも用意されるなど、送電状態の良くない田舎での使用に配慮されている。OSはリナックスだが、搭載されるアプリケーションソフトは国産だという。
 こんな廉価モデルなのにMobilisにはGPSレシーバーが装備され、オプションでGPRSワイヤレスモデムもついてくるというから面白い。
 この試みが成功すれば、従来のパソコンとは規格が違う低価格パソコン市場に外資を含めた他社も参入してくるのかもしれないし、途上国だけではなく先進国でも「この程度で充分」と関心を示す人たちが出てくるかもしれない。
 資源を大量消費しながら爆発的に進化しつづけるPC環境がある一方、それとはまた違った流れが出現する可能性がある。IT大国ながらも国民の間での知と財の不均衡な配分に悩むインドらしいスタンダードの提唱ともいえる。
 ただ気になるのは既存のパソコン環境との互換性もさることながら、1万ルピーという価格はスペックや装備の面から見れば決して「激安」ではなく、むしろ値段相応とも思える。 
 パソコン市場の拡大とユーザーの大幅な増加により、どこの国でもハード、ソフトともに低価格化がかなりの速度で進んでいることから、需要の隙間を埋める過渡期的な商品として終わってしまう可能性もある。極端にいえばウインドウズの中古マシンと市中に出回る海賊版ソフトで構築された環境と比較した場合、優位性は「合法性」以外どこにあるというのだろうか。
 ともあれ5月10日に発表されたMobilisとSofComp、生産開始まであと2、3か月ほどかかる見込みという。購入する予定はないが、どんなマシンなのか興味のあるところだ。
Up for grabs: PCs for Rs 10,000 (Times of India)

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