求めよ、さらば与えられん

 世にも厳しい法がある。家もなく無一文の人たちによる自らのサバイバルを賭けた「物乞い」という行為が犯罪となる。その根拠となるのは1959年にボンベイ州(当時)で制定された「ボンベイ物乞防止条例」(Bombay Prevention of Begging Act, 1959)で、1961年3月からデリー首都圏でも適用されている。
 これによれば、乞食を行う目的で公共の場(鉄道車内等を含む)や私的空間に入ること、身体の不具合を見せるなどしてお金を求める行為が禁止されている。
 だが事前に当局から許可を得ているものは取締りの対象とならないことが記されており、これは募金等の慈善行為を指すのであろう。
 この条例では施しを求めるいかなる行為、たとえば歌唱、踊り、占い、演技、物品の販売等を禁じているため、本来の乞食だけではなく大道芸人や路上で新聞などを売り歩く少年たちさえも、この条例を口実にした取り締まりの対象となり得る。 
 違反者の処罰については、初犯は3年以下の禁固、再犯は10年以下の禁固ということになっている。また乞食行為の「使役者」に対しても、1年以上3年以下の懲役が定められている。
 2002年にはこの条例が改定され、これを読んでいるあなたも罰せられる可能性が出てきた。「乞食に施しを与えることにより、スムーズな交通の流れを妨げる」ことに対して、100ルピーのペナルティーを課すことができるようになったからだ。
 本来はこの条例、物乞いの禁止とそれにかかわる人々の保護と自立支援を目的にすることをうたっており、乞食行為に対する処罰とともに、行政側がこうした人々の保護と収容、教育と就労支援の付与、その目的が遂行されるための施設を運営することが明記されており、必要とあれば病気等の治療も与えられることになっているのだが、路上の現実を見ればまさに机上の空論であろう。


 しかし条文の中にうたわれている理想と現実との乖離があまりに大きい・・・というよりも、当局にとっては便利なツールなのかもしれない。ふだんはこの条例にもとづく厳しい摘発が行われているわけではないようだが、何か大きな催し物の開催や国賓が来印する際など、必要とあればまさにこのおかげで特定の地域に居ついている乞食たちを一斉検挙して強制的に移動させるといった恣意的な運用だって可能だし、そもそも条文に書かれている禁止行為についてもかなり拡大解釈できよう。行政側にとって「好ましくない」ものを必要に応じて広く取り締まることができることになるのだ。
 昔、デリーでアジア大会が開催されたとき、日本の皇太子がインドを訪れたときなどに、当局により路上生活者がまとめてどこかに移されたなどというウワサがあったようだが、まったく根拠のない話ではないのかもしれない。
(以下、とても古い記事ながら参考まで)
Govt to change law on identifying beggars (Netguruindia)
Poverty as crime (Frontline)
Delhi traffic rule hurts old custom: giving alms (The Christian Science Monitor)

「求めよ、さらば与えられん」への1件のフィードバック

  1. ボンベイとデリー限定とはいえ都市が表面的に綺麗にはなりましょうがつまらなくなりますね。インドの奥行きのある芸能に黄色信号?というほどでは無いにしろ経済発展で先進国病は拡がるでしょうね。
    いずれにせよ弱いものいじめでは在りますね〜。注意深く見回せば我が国も似たようなことがここかしこに、、、。ああ無情、、、。

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