ヘリテージなホテル 2 スリランカのコロニアルホテル

NEW ORIENTAL HOTEL
 インドの宮殿ホテルとくれば、隣国スリランカではコロニアルホテルが特徴的だと私は勝手に信じている。
 もちろんインドにもコロニアルホテルは多いのだが、有名どころとなるとタージグループのような大資本の傘下になっているものが多いようだ。そのため新たに手が入りすぎたがゆえに本来「味」が失われていたり、運営やサービスが標準化されていて魅力に欠けていたりする・・・と書きたいところだが、実は高くてあまり利用したことがないので大きなことは言えない。
 スリランカのコロニアルホテルの代表格として、ゴール( Galle ) のかつてオランダによって築かれた要塞の中を走るチャーチストリートにそびえる、約三百年前のオランダ時代に建てられたニューオリエンタルホテルを挙げたい。現存する同国最古ホテルということもあり、その歴史的価値は大きく、レトロぶりも他を圧倒している。
 いかにも植民地建築らしく、天井が非常に高く、開け放たれた窓からは同じくコロニアルな建物が立ち並ぶ眺めも素晴らしかった。 室内の様子が往時とあまり変わらない(?)と思われるのもまた魅力のひとつ。使い込まれた板張りの床、長く大きな蚊帳を吊るフレーム付きで脚が非常に長いベッド、調度品もずいぶん年代モノのようであった。ひょっとするとベッドシーツやマットレスも・・・(?)
 まるで時間が止まったようなたたずまいと合わせて、古い絵や写真でしか見ることのできない昔の「セイロン」を眺めているような気がした。
 グラウンドフロアーのカフェテリアで昼食を取った。室内のありさま、裸足のウェイターとそのユニフォーム、スープ、ソーセージにパンの味といい長い伝統(あるいは世紀を越えた旧態依然)を感じさせ、目に映るものすべてが次第にセピア色に染まっていくような思いがした。
 惜しむらくは、建物がかなり老朽化していることと、メンテナンスが足りないことであった。実を言うと、私は宿泊費が高くて敬遠したのではなく、もっと快適なところに泊まりたかっただけである。遠目には風格に満ちているが内部は野戦病院のようで、本来大きな潜在力を秘めたホテルであるはずだけに、「伝統ある安宿」化していたのはとても残念であった。
 だが知名度が高く立地条件も素晴らしい超優良物件が長いこと放置されているはずはなかった。 実は昨年12月15日には、大幅な改修工事を終えてピカピカになったニューオリエンタルホテルが、西洋人女性のマネジメントのもとで再オープンしているのだ。しかしわずか11日後、12月26日に発生した津波の大きな被害を受けたゴールの町、このホテルは高台にあるため難を逃れたもの、しばらくの間は被災者たちの収容施設となっていたそうだ。出足はつまずいたが、今後人気沸騰することは想像に難くない。


 コロニアルホテルとして最も高い人気を誇るのは、98年1月に付近の仏歯寺爆破事件でひどくやられてしばらく閉鎖していたものの不死鳥のごとく復活したクイーンズホテル、や高原の爽やかな空気と鮮やかな緑したたるヌワラエリヤのグランドホテルだろう。
 前者は仏歯寺やキャンディ湖といった観光名所が目と鼻の先という絶好のロケーションを誇り、後者は少し足を伸ばせば、セイロンティーの産地として広く知られる茶園を見物することができるうえ、夏の日中でもセーターが必要なくらい涼しい。夜ともなるとホテルの客室には暖房が入るほど寒くなるほどだ。あたりではインドのヒルステーションでも見かけるようなイギリス風木造建築が見られ、おそらく茶園や観光で財を成した人たちの広大な敷地の見事な邸宅が点在する。山あいの景観と合わせてスコットランドを想わせるものがあり、ともすれば南アジアにいることを忘れてしまいそうだ。
 コロンボ市内にはゴールフェイスホテルという伝統あるホテルがあり、道路を挟んだ向かいに建つホリデイインとは対照的な独自の味わいを醸し出している。
 フォート地区、港の正面にはグランドオリエンタルホテルがある。イギリスのセイロン支配の中心地、しかもその玄関口にあたるところにあるのだから、この建物はこれまで多くの歴史を間近に見てきたことだろう。港を見下ろす側にあり、フィリピンの独立の志士ホセ・リサールが泊まったというスイートルームは、このホテルの売りになっている。
 ここはにぎやかな商業地だが、かつてスリランカの植民地支配の中心地であったため、あたりには多くのコロニアルな建物でいっぱいだ。しかし大統領宮殿や警察署といった政府の主要施設も集中しているためテロに対する警戒が厳重である。日没以降この地区へクルマを乗り入れることのできる道路一か所を除いて封鎖される。そこで厳しい検問があるため、夜間はオートやタクシーの運転手たちが乗り入れを嫌がるのは難点である。
 スリランカのこうしたコロニアルホテルは、モダンな高級ホテルに比較すれば料金は相当リーズナブルなうえに、落ち着いた雰囲気と重厚な歴史の重みがある。インドの隣国スリランカを訪れたならば、ぜひいくつか利用されることをお勧めする。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください