クアラルンプル市内のインド人街といえば、ムルデカ・スクエアやマスジッド・ジャメの北東側にあるマスジッド・インディア通りを中心とする界隈のことを言う。
オーディオ関係の店では、当然のごとくインド音楽や映画ソフトを扱い、タバコや雑誌を売るキオスクでは「INDIA TODAY」「OUTLOOK」「FILMFARE」といったインドの雑誌が並んでいるのが嬉しい。さすがにA.R. RAHMANが郊外のシャー・アラムでライヴを行うだけのことはある。
華やかなサーリーやパンジャービーの生地を売る店が目を引く。両替屋に行けば、ルピー札を換金するお客がいるところを見ると、やはり本国との間で人々の出入りも盛んなのだろう。
もちろんインド人ばかりではなく多数のマレー人や中華系の人々の商店等もまた多く混在しているのだが、やはり他の地域に比べるとインド人密度が格段に高い。食べ物、人々の体臭、神々にささげる花輪の香りなどが入り混じり、この界隈にはまぎれもなく濃密な「インド」が匂っている。
ここから南下するとチャイナタウンに入るが、セントラル・マーケットを過ぎたあたりには、マレー半島屈指の名刹(?)シュリー・マハー・マリアマン寺院がある。インド系の善男善女たちがしじゅう出入りしており、門の左右にはジャスミンの花輪を売る露店が並んでいる。すぐ近くに中国寺院があり、アジアの二大文化が仲良く共存しているのである。
旧来のクアラルンプル中央駅はイギリス時代に造られ、その優美な姿は観光名所としても知られてきたが、クアラルンプルの新空港と同じく黒川紀章によって設計された近代的なガラス張りのKL セントラル駅にマレー鉄道のターミナルの座を取って代わられた。
高架鉄道やモノレール等の開通により街の風景はずいぶん変化したが、それまではバスが主体だった市内交通が格段に便利になったことは間違いない。仕事や観光など、何かでこの街に立ち寄ることがあれば、市内中心部にあるこのインド空間までちょっと足を伸ばしてみるのもいいだろう。