いまもどこかで

 祖父の家にあった古い雑誌のページをめくっていると、こんな記事が目に付いた。
<毎晩くり返されていることのひとつに、乗車拒否がある。そのころタクシーに乗ろうとすると、メーターの何倍もださなければ、行ってくれないというのである。お客は腹を立てる。新聞やテレビもそういう運転手なりタクシー会社を非難する。警察はときどきおもい出したように、一斉取締りとやらをやる。
 乗車拒否はたしかにほめられたことではない。しかし繁華街の夜11時前後あたりは、おびただしいバー、キャバレーや料理屋がいっせいに店をしめる時間である。べつにそういうところで飲んで悪いわけではないが、飲みたらずに別の盛り場まで行こうという客だったら、そう目くじらをたてないで、たまにはメーターの何倍分かをチップとしてはずんでやってもよさそうなものである>
 一体どこの国のことかと思えば1960年代の東京銀座の話であった。黄色く変色したページは、およそ40年もの歳月の経過を物語っている。
 いまもインドの街角で繰り返されている光景。日本では私たちの世代の記憶にないものだが、かといってそんな遠い昔話でもないようだ。

「いまもどこかで」への1件のフィードバック

  1. 永井荷風の「つゆのあとさき」という小説に、カフェーの女給が円タクを三十銭まで値切ろうとするという話が出てきます。1931年脱稿ということなので、もちろん知らない話なのですが、インドに行ったことがあるおかげで、なにやら状況が想像できるような・・。

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