我想う、ゆえに本あり

従来の狭くて暗い書店から、明るく広い新しいタイプの書店へ!?
 インド全国、主要都市に8店舗の支店を展開している大型書店「CROSSWORD」。入り口をはいったところで、警備員にカバンを預けて番号札をもらうところまではほかのお店と同じだが、そこから先がずいぶん違う。
 薄暗い店内に書籍が雑然と積まれていたり、書棚から一冊抜くと後ろにも本が並んでいたり、あれこれ物色しているうちに自分の手も服も本と同じく埃にまみれてしまうようなこともない。
 明るいフロアーに、きれいにディスプレイされた豊富な蔵書。気に入ったものを手にとり、店内のイスやソファに腰掛けて、ゆっくりページをめくりながら選ぶことができるのだ。通路スペースも広くとってあるのも開放感があっていい。清掃が行き届いておりトイレもピカピカだ。
 一般書店なので専門書の類はあまり見当たらないが、とにかく快適。従来のものとは一線を画す新しいタイプの書店である。
 インドは出版活動が盛んである。この国に関する様ざまな分野の本が英語で出版されているため、現地の言葉を学ばなくても、容易に知の大海に漕ぎだせる。欧米の小説など読み物はインドでもすぐに出版されて価格も安いので、本の虫にとってはありがたい国だ。
 ひとつ残念なのは、そうした「資源」が豊富なわりにアウトレットはかなり貧弱であること。都会の富裕な地域ではこうした「快適な書店」が少しずつ登場してきているものの、本屋の数自体は人口の割にずいぶん少ない。大きな街を離れるとキオスク程度のものしかないという、かなりお寒い状況である。


 多言語・多文化社会インドでは、歴史的な経緯もあり、一般的にヒンディー語を含めた地元語の出版物より、英語の書籍の方がメジャーでより知的なものというイメージがある。ただし、英語の文章をちゃんと理解し、読書も楽しめる人となると、およそ十億人という膨大な人口の中のひとにぎり。しかも、彼らの多くは都市部に暮らしているのだから、読者層はおのずと限られてくる。
 英語はインド全国に、共通の知識や情報を行き渡らせる大きな役割を果たしていることは間違いない。だが同時に都市部の知識層とそれ以外の人びとの間での「言葉の壁」による知の不均衡配分、ローカル言語による出版活動の限界という現状をも生みだしている。ありとあらゆる分野の書物が一つの言語で出版されている日本とは対象的だ。
 本屋や書籍もまずは「需要ありき」である。「快適な書店」の存在は、街の文化水準の高さを象徴するかのようだが、同時に都市部とそれ以外の部分の人びとの生活レベルの違いを如実に反映しているとも言えるだろう。

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