再訪 2 消費社会と旅行ブーム

賑わうバーザール
 なぜオールチャーは観光資源に恵まれながらも、90年代に入るまでは寂しい農村だったのか。
 それは、この国にある無数の観光地の中から、バイタリティと好奇心に溢れる裕福なミドルクラスにこの地が「開拓」されるまで待たなくてはならなかった、という一言につきると思う。
 90年代からの急速な経済成長により、ニューリッチが出現。自由化は市場に多様化と品質の向上をもたらし、本格的な「消費文化」を定着させた。当然ライフスタイルが変化し、人びとの関心は「余暇をいかに楽しむか」ということに向かった。旅行ブームの到来である。彼らはありきたりの場所だけでは飽き足らず、常に目新しいスポットを探し求めるようになった。
 オールチャーにも、その機をとらえ観光化を推し進めるべく、本腰を入れてプロモートした仕掛け人がいたはずだ。それは旅行業界か、あるいは州政府だろう。
 安旅行者には最低限の情報さえ与えれば充分だ。『ロンリープラネット』『地球の歩き方』のようなガイドブックに掲載されれば向こうから勝手にやってくる。旅人が訪れるようにれば、質素なゲストハウスもポツポツできる。清潔な食事さえもままならない寒村の不便な面も「インドにいるだけでシアワセ」な若いバックパッカーたちにとっては苦にならない。だが彼らはあまりお金を使わないので、地元にとっても行政側にしてみても、あまりオイシイ話ではない。
 地元に富をもたらしてくれるリッチなお客を呼ぶとなるとやり方は違ってくる。民間企業、政府関係機関が、きちんとしたレベルのホテルやレストランを整備してはじめて、彼らが家族連れで安心して泊ることができる場所になる。近郊の街から日帰りで訪れるにしても、ちゃんとした清潔なレストランがなければ敬遠されてしまうことだろう。


オールチャー
 上から下までいろんな訪問客が増えれば、景気良い噂を聞きつけて「これは商売になるぞ」と観光業へ投資する者が現れるだろう。地元の雇用機会は一気に増大し、外の土地からも雇用を求めて人が集まる。
 お土産の「手工芸品」はよく売れるようになり、その製作者、流通業者、小売業の人たちの懐を潤すことになる。地元にホントにあったのかどうか疑わしいペインティング、絞り染め、刺繍、そして「出来たて」のアンティークなどなど、イカサマめいた品物もふくめ、様ざまな品が店頭に並ぶようになる。
 これまで「仕事」といえば田畑を耕すくらいしかなかった村に、見たこともない大きな「業界」が出現したのだからすごい話だ。なにせ相手は外国人や都会のリッチな人びと。それまでの日常生活では想像もできなかった額のお金がやりとりされる。人びとは知恵を競い合って金儲けにいそしみ、彼らの中で成功した者たちは「消費文化」の一翼を担う存在となっていく…。
 観光地の発展のありさまを要約するとこんな感じだろう。このプロセスは現在も進行中だ。
<つづく>

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