ラージャージー国立公園

AAJ TAKのニュースをつけてみると、火事のニュースが映し出されていた。テレビで放映されたクリップの多くはウェブサイトでも公開されているので、下記リンクをご参照願いたい。
हरिद्वार के जंगलों में लगी आग
(AAJ TAK)
※ハリドワールのジャングルで森林火災
ウッタラーカンド州のハリドワールでは、1月14日に始まり、4月28日まで続くクンブ・メーラーが開かれているが、数日前から近隣地域で発生した森林火災が続いており、昨日4月9日には、山の中にあるマーター・チャンディー・デーヴィー寺付近まで接近したとのこと。まだ延焼は続いており、今後の進展が心配されているということだ。
だが、このニュースには付随するオマケもついていた。ハリドワールの近くにあるラージャージー国立公園で、西洋人たちがギターを弾いて歌っている様子だ。数日前から100人以上の外国人旅行者たちが園内に居ついて自炊しながら、飲めや歌えやの騒ぎを繰り広げているという。
のどかな情景とは裏腹に『ヒッピー風の外国人たちが違法な『ジャングルに侵入した西洋人たち』『チラムを回しながら大騒ぎ』といった字幕とともに、国立公園での彼らの振る舞いについてのナレーションも流れてくる。
ウェブ上にアップされている映像にもいくつかモザイク処理がなされている部分があるが、テレビで見たニュースでは、おそらく全裸らしき人物の局部にボカシがかけられたと思われる映像もあった。
हरिद्वार: राजाजी नेशनल पार्क में घुसे विदेशी (AAJ TAK)
※ハリドワール:ラージャージー国立公園に侵入した外国人たち
当人たちは、屈託のない表情で和やかに過ごしていたり、にこやかにインタビューに応じたりなどしているので、まさかこうした否定的な報道がなされるものとは思わなかったようだ。
国立公園でこのような形で滞在したり、煮炊きをしたりすることは違法である。警察は彼らを退去させようと試みたものの、うまくいかなかったようだ。この『ヒッピーたち』については、たまたま近くの地域で森林火災が起きたことがきっかけで取り上げられることになったようだ。もちろん彼らが失火でも起こさないかということも懸念もあってのことである。
昔からゴアをはじめとするインドのいくつかの地域では、こうしたヒッピーまがいの人たちが我がもの顔で振舞うスポットは知られていたが、内陸の国立公園でそんな場所があるとは知らなかった。1月から進行中のクンブ・メーラーがきっかけとなったのであろうことは想像に難くない。
今の時代、メールアドレスを持たない人はいないし、旅行者の間でも現地のSIMカードを入れた携帯電話は普及している。最初は数人程度の集まりが、『何かオモシロそうなことやってるゾ!』と口コミからネットを通じて情報が広まったり、あるいはどこかのビーチなどで知り合った人と携帯電話で連絡したりといった具合に、ゾロゾロ集まってきたものと思われる。
集まっている当人たちの脳天気さとは裏腹のメディアの取り上げかたの辛辣さに、ヒマラヤの奥に隠された西洋人ヒッピーたちの解放区という舞台設定の映画Charasを思い出してしまった。彼らは『(地元の人々が)ナイスな人たち』だの『美しい土地だ』などとしゃべっているが、自分たちの感覚がユニバースなものでないことを自覚しなくてはならないだろう。
ニュース映像では、森林の中にいくばくか景色の開けた部分があるように見受けられたが、具体的にどんな土地なのかはよくわからなかった。100人もの外国人旅行者が集まるということは、それなりに交通のアクセスや食料品・日用品なども手に入るなどといった、そこそこ便が良く、かつ過ごしやすいところなのではないかと想像される。公園当局や地元警察等は、彼らの排除もさることながら、その場所が今後も同様の人たちが集まることを懸念しているのではないのだろうかとも思う。
だがヒッピーであれ、その対極にある金満ツーリストであれ、外国から訪れる観光客を受け入れるということは、それなりの摩擦が生じるものであることも事実だ。感覚や常識にズレがある人々が次から次へと新たにやってくるのだから、いかに各方面から啓蒙に努めてみたところで、観光業から上がる収益を見込む以上は、俗に『観光公害』と呼ばれる現象が起きることは、ある程度仕方ないともいえるし、今後も似たような事例は続くはずだ。
程度にもよるが、より深刻な害悪については厳罰で臨むべきであろうし、外国人の側も訪問先の法律についての理解と尊重を求められる。
たとえば4月に入ってから、中国で覚醒剤の密輸にかかわった日本人に対する極刑の執行について、考えさせられることは多い。
中国、さらに日本人3人の死刑執行 いずれも麻薬密輸罪 (asahi.com)
死刑制度の是非、現地での取調べの方法や裁判の進行等に関する不備についての指摘もなされてはいるものの、国ごとに社会の事情は異なり、言うまでもなく独立したひとつの国家である。旅行であれ商用その等であれ、その国を訪れる人は現地の法制度を尊重しなくてはならず、『知らなかった』では済まされない。
この関係の報道で、外から眺めると麻薬に対して厳格なイメージが定着した中国だが、人々の間でかなり広くいろいろなドラッグが普及しているという背景があり、常用者たちに対する罰則は比較的ゆるく、本人たちの更正を目指す方向に力点が置かれているようだ。
蛇足ながら、覚醒剤ではないが大麻については、中国にもインドのマナーリー周辺のような地域がある。もちろん中国でも大麻を吸うことは違法であるが、雲南省の大理やその周辺では大麻が沢山自生している。
昔、大理を訪れたとき、ドミトリーに宿泊している長期滞在の外国人客たちが、摘み取ってきた大麻を部屋の壁に乾燥させては吸引しているのをしばしば見かけた。彼らは『質はともかく、タダなんですよ』などと言う男は、中国で大麻が合法なのか違法なのかも知らなかった。
今でもそんなおおっぴらなのかどうかは知らないが、聞くところによると大理には大麻が沢山あるという事情はあまり変わらないようだが、近年はそれなりに取り締まりがなされたり、逮捕される外国人なども出てきたりもしているらしい。
良くも悪くも、ひとたび旅行者たちの間で、彼らを惹きつける魅力(?)が喧伝されてしまうと、それを目的にやってくる人たちが長きに渡って続く。口コミはもちろんのことながら、ガイドブックであれ週刊誌等であれ、ひとたびメディアに取り上げられて話題になると、それを孫引きしたような記事がいろんなものに掲載されて衆人の知るところとなる。
景気、治安状況に左右されやすいことに加えて、ここが観光業の難しい点のひとつかもしれない。ラージャージー国立公園界隈はヒッピーの解放区ではないし、大理を訪れる人々の多くは大麻が目的というわけではないのだが、そうした風評がさらにこうした人々を引き寄せる誘因となり、こうした人々がそれなりの規模になってくると、彼らを目当てにした商売人たちも集まるようになってくる。
もっともラージャージー国立公園のほうは、国の管理下にあるエリアであり、先の報道がなされたことから、適切な処置がなされて、こうした滞在の仕方が定着することはないだろう。だが土地の人々にとって思わぬ方向にいってしまっている『観光地』の例は、色々な国で決して少なくない。

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