閉じられるカムベイ湾

 中国の三峡ダムほどの規模ではないにしても、インドでもやはり壮大な土木工事の計画がある。近ごろ、マスコミ各誌で取り上げられている「カルパサール・プロジェクト」だ。
グジャラート地図。青い部分がダムとなる予定の地域。
 グジャラートの半島部(サウラーシュトラ地方)の東側に位置するカムベイ(カンバート)湾には、ナルマダ河やサーバルマティ河といった大河が流れ込んでいるが、この湾の北部をアラビア海から仕切ってダムにしてしまおうという大工事である。主な目的は湾内の淡水化により、旱魃が常態化しているこの地方の水不足の解消と、同様に不足している電力供給を補うための水力発電タービンの設置。それだけではない。この「仕切り」部分の上に鉄道や道路を通し、グジャラートのサウラーシュトラ地方からムンバイまでの距離が225キロ近くなるという大きなオマケまで付いてくる。


 環境に与える影響への危惧があるのはもちろんだが、同時に政府には、人々に充分な水や電力を供給しなくてはならないという使命がある。特に前者は深刻なだけに、なんとも悩ましいところに違いない。私たちの日本だって、これまで経済発展と引き換えに失ってきたものが相当あったはず…。
 環境問題以外にも「閉じられた湾内の港町は?」「淡水化されたら、漁民たちは?」という疑問が浮かんでくる。海で生計を立てている地元の人々のことだけでも、とても大きな問題となることだろう。
 今後どういうことになるのかよくわからないが、より良い明日を迎えるために、メリットとデメリットの狭間で人間の叡智が試されることになることだけは確かだ。
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「閉じられるカムベイ湾」への2件のフィードバック

  1.   カムベイ湾のダム建設に加えて、ナルマダ川における巨大ダム計画についてもぜひ注目してください。
    五大聖河の一つナルマダはガンガーやヤムナーと並ぶインドで最も重要な巡礼地であり、多くの先住民族が暮らすその河川一帯は古くから美しい伝統と宗教文化に守られてきました。そのナルマダに無謀ともいえる巨大ダムを作る計画が進められていて、すでに多くの村は水に沈み、アディバシ〔先住民族〕は強制退去させられています。
    日本ではまださほど取り上げられていませんが、欧米をはじめ世界各国でこのナルマダ‐ダムプロジェクトに反対する抗議運動が繰り広げられていて、もちろんインドでもナルマダの住民を中心に非暴力な抵抗が続いています。
    多くの国々は近代化や貧困への援助だと大儀を掲げていますが、”電気がつくようになって、ナルマダの本当の美しさが壊されてしまった”と嘆く地元住人がいることを知ってもらいたいです。
    −参考−
    ・Rivers! Japan : インド・ナルマダダム問題
    http://fenv.jp/20030331/topics/19990729a_nvdp.htm
    ・「開発」の名のもとに ダム開発の現状
    http://www.kobe-c.ac.jp/~a-kawamu/pages/lectures/lectures2000/IR2000-2/IR_report/I98361.html
    ・インドの聖地:ナルマダ
    http://www.bhagavati.de/site067.htm

  2.   このダム計画については、NARMADA DAMMED (Dilip D’Souza著・Penguin Books)等々の本も出ていますね。
    「難しい」のひとことで片付けてしまっては、現実に目をつぶることになってしまうのでしょうね。
    こうしたプロジェクトの需要(についても議論があるかと思いますが)があるものの、その現場となる地元ではその開発行為が「収奪」となってしまうことは看過できないことですね。

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