遠くなった街「カルカッタ」

 エアインディアの東京〜カルカッタ(コルカタ)直行便がなくなって久しい。かつて旅人たちの間でポピュラーだった「デリーIN/カルカッタOUT」は、まさに同航空によるインド観光の代名詞みたいなもので、北インドの主要観光スポットをカバーするのに便利な路線であった。かくいう私も初めてインドを訪れたときにこれを利用した。デリーから東方向へ旅行する人たちは、たいてい似たような場所を訪れるため、道中に何度も同じ顔と出会ったものだ。


 インドの各大都市が、90年代からの経済成長とともに台頭したにもかかわらず、カルカッタはいまや斜陽の街というイメージがある。東京便が廃止になるのは、やむを得なかったのだろう。が、その影響で、西ベンガルやオリッサなどインド東部を旅する人が少なくなってしまったのは残念である。そういえば、私自身、だいぶ長いことカルカッタの地を踏んでいない。時間のたっぷりあるバックパッカーはともかく、忙しい日本人たちにとって、カルカッタはずいぶん遠い街になったのかもしれない。
 東京からデリーへと向かう機内、隣に乗り合わせたインド人青年はカルカッタに帰郷する途中だった。
「明日の朝、6時半の飛行機を予約しているんだ。この飛行機の最終目的地のボンベイからね」
バンコクを過ぎてしばらく経つと、機内アナウンスがインド領空に入ったことを知らせていた。
「まもなく当機はカルカッタ上空を通過します。右手下方には…」
私たちが窓の外に目をやると、眼下には星を散らしたような灯火の海が広がっていた。
「ウチは多分、あのあたりなんだけれどもなぁ」
青年は街の火の一部を指差して、そうボヤいている。
 彼はこれから、一旦アラビア海の港街まで出てから、ベンガル湾へ流れ込むフーグリー河沿いの故郷まで戻るのだから大変である。たったいま空の下に見えた彼の故郷は実に遠いのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください