シローンの中華料理屋

雑踏を歩いているとヘタな手書きの漢字の看板が目に入った。小さな中華料理屋である。入口には電話ブースが設置してあり人の出入りは多いようだ。
メニューを広げてみるとマンチュリアンやチョプスィーなどインドでおなじみのシンプルなメニューが並んでいる。しかしやたらと『本格的』に思えてしまうのは、肉料理の大半がポークであるためだろうか。メガーラヤの主要民族のひとつであり、この地域で人口が多いカースィー族は豚肉をよく消費するため、市中で流通する量も多い。ここの店の経営者はカースィー族ではなく中国系だという。壁に掲げられた先祖の祠も店内の装飾も、かなり粗末ながらもいかにも華人といった雰囲気を醸し出している。
経営者家族は何代もこの土地で商売しているのだそうだ。市内はいくつかこうした食堂を見かけるし、華人人口もいくばくかあるようだ。それでも父祖伝来の言葉や文化などを守り伝えることができるほどの規模ではないようで、店の看板に『中華』を掲げている以外は、ほとんど現地化しているような気がする。経営者家族の娘がレジに立っていたので尋ねてみたが、華語の読み書きはもちろん会話もできないというし、先祖が中国のどのあたりから来たのかということについてもあまりよく知らないらしい。
シローンに根付いた中華系移民には、そもそもこの土地とどういう縁があったのだろうか。ここは昔からそんな重要な土地ではなかったはずだし、それほど儲かる土地であったこともないだろう。近年、「これからは東北州だ」と国内各地から人々が集まってきているので、こうした波に乗って昔からインドにいる中国系住民がやって来るのならばまだ理解できなくもないのだが。
何を食べようかと迷った挙句、注文したのは『ポークカレー』だ。わざわざ中華料理屋に入ってカレーとはどんなものかと思ったが、予想したものとはずいぶん違ったものであった。運ばれてきたのは分厚い三枚肉をターメリックその他の香辛料でごく軽く色づけ香り付けした料理であった。インド風『東坡肉』とでも形容できようか、長時間調理してトロトロになった赤身と不要な脂肪分が落ちてゼラチン質の中に旨みを閉じ込めた絶品。まさにほっぺたが落ちるような美味しさを楽しむことができた。
他にもいくつかの中華レストランで食事をしてみたが、どこもこのように現地化(?)してハイブリッドな味がする料理は少なくないようだが、ポークという中華料理必須の食材がふんだんに出回る土地だけあり、何を食べても非常に満足度の高いものであった。

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