越境フットボーラー

2000年代に入ってから、欧州のトップリーグで活躍する日本人サッカー選手がずいぶん増えた。日本代表クラスは言うに及ばず、日本の高校サッカーからJリーグを経ることなく、イングランドのアーセナルに加入した宮市亮選手のような例もある。

彼はイングランドの査証取得の問題から、オランダのフェイエノールトに期限付き移籍、アーセナルに復帰後に再び期限付き移籍でボルトンにてプレーしている。日本人プレーヤー海外組の中で、今後が最も期待される選手のひとりだ。

欧州のトップリーグでプレーする日本人選手の話題がいろいろ取り沙汰される中で、アジア各国のリーグで活躍する選手もまた少なくない。昨年、「MNL (Myanmar National League)に日本人選手」と題して取り上げた伊藤壇選手は、その中で最も知られているプレーヤーだろう。

それらを含めた海外組の中で、一般的に自国のJリーグよりも格下とされているリーグで活躍している選手の動向は、日本にはあまり伝わってこないため、他にはどんな選手がいるのか、どういう環境でプレーしているのかといったことについては、ちょっと見当もつかないという人が大多数かと思う。

今年1月に発行された「越境フットボーラー」という本では、そうした選手たちの生き様が描かれている。

書名:越境フットボーラー

著者:佐藤俊

発行:角川書店

ISBN:978-4-04-110074-5

巻頭で取り上げられている、先述の伊藤壇選手は、1年1か国と決めて、アジアでこれまで12か国・16チーム目のネパールのMMC (Manang Marshyangdi Club)に在籍している。昨年は、ミャンマーのラカプラ・ユナイテッドFCにて、一昨年はインドのゴアを本拠地とするチャーチル・ブラザーズSCでプレーしていた。これまでほとんど代理人を使わずに、自ら現地に乗り込んで「道場破り」スタイルで道を切り開いてきた猛者だ。

日本でJリーグに在籍したことがなく、高校フットサル部出身で、ペルーや欧州のマイナーなリーグで武者修行の末に、アルバニアでプロ選手になった中村元樹選手、日本サッカー界のいわゆる黄金世代に名を連ねた酒井友之選手は、インドネシアでプレーを続けている。JFLで戦力外通告を受けた星出悠選手は、トリニダード・トバゴで活躍した後、現在はフィリピンでプロサッカー選手生活をしている。

日本のファンの注目を一身に集めることはないが、諸国のチームを渡り歩く選手たちの波乱に富んだサッカー人生は、チャレンジ精神と日々の精進、度胸と強烈なプロ意識の賜物だろう。非常に興味深く読ませてもらった。

この本で取り上げられている4人以外にも、アジア各地でプレーする日本人は多い。インドのIリーグでも和泉新選手末岡龍二選手といったプレーヤーが在籍している。

ところで、シンガポールのSリーグにありながらも、所属選手が全員日本人のアルビレックス新潟・シンガポールのような例を除けば、海外のリーグで、現在最も日本人プレーヤーの層が厚いのは、タイ・プレミアリーグだろう。

今年1月に引退した財前宣之選手は、U17、U19時代には同世代の中田英俊よりも評価が高い時期もあったほど才能に恵まれたプレーヤーであったことを記憶している人は多いだろう。非凡な才能に恵まれながらも度重なる大きなケガに苦しみ、2009年にJリーグを離れた後、2010年にタイ・プレミアリーグのムアントン・ユナイテッドに加入。2011年に移籍したBECテロ・サーサナFCで選手生活を終えた。

タイのサッカー界における日本人選手の貢献度もなかなかものものであるようだ。昨年のベストイレブンに2名の日本人選手が名を連ねている。

タイ・プレミアリーグ2011 ベストイレブンに日本人2名選出!(wakusaka.com)

先月には、ジュビロ磐田のDF本田選手がタイのクラブチームに移籍するというニュースもあった。

磐田のDF本田、タイ・リーグへ移籍 (sanspo.com)

日本でサッカーが国民的なスポーツとして定着して久しい。国内での競技人口の拡大とともに、経済成長目覚ましいアジア各国(残念ながら日本はその例外だが・・・)で隆盛する各地のリーグにて、プロとして活躍の場を求める日本人選手は今後さらに増えていくことだろう。ちょうど草創期のJリーグに欧州や南米からやってきた往年の名プレーヤーたち、まだ若く野心的な選手たちがキャリアアップのために上陸してきたように。

今まさにその歴史が形作られつつあり、現在そうした国々のリーグで活躍する選手たちは、その先駆者たちであるといえる。自国内では無名だった日本人選手が、アジアのリーグから日本のJリーグに逆上陸して名を上げる日もやってくるかもしれない。

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