オートリクシャー・スター・クラブ 1 デリーの路上の星たち

食事を終えて、友人とオートを拾おうとしていたときのことである。ちょっと派手なデコレーションのオートリクシャーがスルスルと目の前に滑り込んできたのは。行き先を告げると、運転手はメーターをスタートさせた。暑いのにずいぶんカチッとした姿をしているのが少々気になる。息苦しくないのだろうか。しばらく行ったあたりで、おもむろに私たちに何やら分厚いノートを差し出す。
何だろう?アーグラーやジャイプルといった世界的に有名な観光地では、何だかよくわからない各国のツーリストによる手書きのレコメンデーションが書かれた帳面を利用客に見せびらかそうとする運転手がいたりするが、デリーの閑静な住宅街でこんなのは初めて見た。運転手が指でトントンと指して示す先には、きちんとプリントされた一枚のリーフレットが挟まれていた。
オートリクシャー・スター・クラブへようこそ!


「オートリクシャー・スター・クラブへようこそ」とかかれたその紙片には、以下の四つの誓いみたいなものが書かれている。
・行き先によって乗車拒否することはありません。
・客席に座るなりメーターを作動させます。料金をめぐって駆け引きをしようとしません。
・丁重な態度で応対いたします。
・ご利用が快適なものであるように、車両のメンテナンスには細心の注意を払います。
またその下には、利用者からのフィードバック先としての電話番号およびメールアドレスが書かれている。スィーター・ラームと名乗る運転手によれば、この『オートリクシャー・スター・クラブ』なるものは、他の5人の運転手とともに今年1月に結成されたものだという。
「これまではオート運転手の接客態度やサービスの内容が悪く、ときには国の恥とでもいうべき輩も少なくありませんでした。私たちは、この状況を変えようとしています。今後、多くの運転手たちが私たちの運動に加わることでしょう」
朴訥と話す運転手氏は、いかにも誠実そうな人物だ。オートの幌の内側に目をやると、英字紙とヒンディー語紙の写真入り記事がラミネートされたものが貼られている。彼自身が取材を受けた記事なのだそうだ。
新聞記事
「もし差し支えなければ、何かご感想を書き込んでください。私たちは、オートリクシャーの質とサービスの向上を図るため、利用客の声を行政に届けるべく、こうした形で広く意見を募っているのです」
好感が持てたので、目的地に着いてから私なりの感想を書き込んでおいた。乗り込む際には「何かの広告かな?」とほとんど気にかけなかったが、車両から降りて改めて眺めてみると、ずいぶん派手な装飾に目を見張る。
「私たちみんな誠心誠意で協力し合えば、デリーを変えられる ——– 真面目な運転手 スィーター・ラーム」と、運転手本人のメッセージがオートの後部にデカデカと彼自身の写真入りでディスプレイされていた。

「利用する方々が、一目で私たちの車両だとわかるよう、特別なデザインを施してあります。私たちの主張を文字で目にすることができます。私たち運転手も、お客さんたちがオートリクシャー・スター・クラブの者だとすぐわかるよう、この制服を着用しているんです」
スィーター・ラームさん
少々はにかみながらも、そう言って胸を張るスィーター・ラームさんは、デリーの路上に燦然と輝く希望の星なのかもしれない。果たしてこの試みが次第に輪を広げていくのか、それとも人知れずいつの間にか消滅してしまうのかわからないが、今後の進展が気にかかる、オートリクシャー・スター・クラブである。

フロント・ウィンドウシールド上にもオートリクシャー・スター・クラブのロゴが

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