1,00,000 Rsの格安国民車 “NANO”

NANO
フォードからイギリスの高級車ブランド、ジャガーとランドローバーを買収交渉中のターター・モータース。およびこのたび正式発表となった価格10万ルピー車の開発も進めている。最高級クラスのブランド車から、これまで自家用車が高嶺の花だった層の人々をターゲットとする格安車まで、従来生産している他の自家用タイプのクルマ、バスやトラックといった大型商用車をも含め、実に幅広いレンジのさまざまなモデルが揃う総合自動車メーカーとなる。
デリーで開催されている2008 Auto Expoで、そのターター・モータースの格安小型車NANOが目玉となっている。エアコン、パワーウィンドウ、パワーステアリングなしのシンプルな造り(エアコンは別途装備可能)のこのクルマがどうして注目を浴びるのかといえば、インドのみならず世界各地で爆発的に普及するかもしれない潜在力を秘めた世界戦略車であるからだ。
今年後半から発売される予定のNANOは、どこか既視感をおぼえるクルマだ。そう、日本の軽自動車を思わせるものがある。全長3.1m、幅1.5m、高さ1.6m。排気量624ccで33馬力の4ドア車。後にディーゼルエンジンの車種も投入する予定とか。おそらく日本独自の軽自動車やクルマ社会における位置づけなどを非常に深く研究したうえで開発されたものではないかと思う。これを『インド版軽自動車』と言ってしまっては新鮮味がなくなってしまうが、NANOの武器はその超低価格ぶりにある。たったのエーク・ラーク(10万)Rsなのだ。


正直なところオートリクシャーが四輪になったようなものが出てくるのではないかとタカをくくっていたのだが、まったく予想に反してこんなに見事なものが発表されて恐れ入った。実車がショールームに並び、街を走り回る姿を早く見たいと思う。
このところルピー高の時勢にあっても、日本円換算で約28万円とはとてもリーズナブルだ。これまで小型車が20万から30万ルピー台で販売されているのと比べてずいぶん安いではないか。これで誰もが購入できるようになったとはいわないが、近年のローンの普及も手伝って、憧れの自動車を手に入れることができる層がグンと増えるだろう。もちろん従前からクルマを所有していた家庭でのセカンドカー、サードカーとしての大きな需要も見込める。
このたびの格安車の発表について、日本を含めた国外さまざまなメディアで広く伝えられており、インドの地元資本および外資系を含めた複数のメーカーもこの新しいタイプのクルマの開発に意欲を見せている。長くインドを代表する小型車であったマルチ自体がインド政府の国民車構想により、小型にして低廉な価格な自家用車の普及を図ろうと、当時の政府が主導のもとで日本のスズキ自動車と合弁で1981年に創業したものである。
その後90年代以降の経済改革とそれに続いての急成長により、インドの道路にさまざまなクラスの多彩な車種がひしめくようになった。ここ20年ほどの間で、自転車に乗っていた人たちがバイクやスクーターに、そうした二輪車を乗り回していた人たちが自動車へと、壮大な規模で乗り物のアップグレードが行なわれたように見える。そこで今度は民間の地元資本の先導で自家用車のさらなる需要の掘り起こしが始まる。
そこが拡大を続ける巨大市場であるがゆえに、これまでは存在しなかった新たな需要が見込める超格安車に期待や注目が集まるわけだが、そのインパクトはインド国内市場と操業する各メーカーのみならず、広く世界へと波及していく可能性を秘めている。このタイプのクルマの需要はユニバーサルであるからだ。多くの途上国や中進国などで、この新しいコンセプトの自家用車が歓迎されないはずはないし、先進国においても、現地の安全基準等を満たすことができれば、先述のとおりセカンドカーとして、あるいはバイクに変わる手軽な足として注目を呼ぶだろう。
まさに今、世界はインド発の新たなモータリゼーション前夜なのかもしれない。バイクや従来の小型車の価格等から勘案しても、One Lakhという値段がちょうどいいところを突いている。自国を含めた第三世界を広く巻き込み、日々の生活には困らないものの、マイカー所有まではちょっと手が届かないという膨大な人口をターゲットにした、第二の自動車ブームだ。
対象たる所得層の人口が厚く、加えて人口ピラミッドが若年層に大きく偏り消費意欲に満ちたインドだからこそ、この新しい潮流の先導役にふさわしい。インドにおけるOne Lakh Car市場の覇者となる者が、今後世界に広がる新しいカテゴリーのマーケットをリードする存在となっていくのではないだろうか。まさにグローバルな展開を目指すターターの世界戦略の先鋒を担うモデルである。もちろん同様の車種開発を検討する他社にとっても、その視野にあるのはインド国内市場だけではなく、国境を越えた世界への浸透だ。
従来、大型商用車の分野において、中東やアフリカといった地域で、ターターやアショーク・レイランドなどのバスやトラックは一定の存在感を示してきた。NANOやこれに続く格安小型車は、自動車生産拠点としてのインドを、インドの自動車メーカーの潜在力を、これまで馴染みの薄かった地域に対しても強くアピールすることになる。
もちろんお膝元のインドはもちろん、今後このタイプのクルマの大きな需要が見込まれる国々の行政当局にとって、主に都市部で年々ひどくなる大気汚染や渋滞等の種々問題にさらなる負荷がかかることとなり、悩みの種が増えることにもつながるのだが。非常に小ぶりなフォルムやNANOというミニマムなネーミングとは裏腹に、今後世間で喧々諤々の大議論を呼ぶクルマが登場したようだ。
Tata Motors unveils the People’s Car (Tata Motors)

「1,00,000 Rsの格安国民車 “NANO”」への4件のフィードバック

  1. インドに居る身としては、これでまた渋滞がひどくなるだろうこと、ついでに鼻毛がボーボーになるだろうことのほうが気になります。インド人には、でもそんなのかんけーなーいって調子で普及するんでしょうね。

  2. これまで想定されていなかった購買層を掘り起こすことになることから、すでにさまざまな国や地域から引き合いがあるようです。
    先駆者として注目されるターターに加えて、他メーカーも開発に乗り出すようですから、ごく近い将来、世界各地でこのタイプのクルマを目にする日が来るのかもしれません。
    でもいま以上に道路に自動車があふれるようになったら、いったいどうなるのか気になりますねぇ。

  3. はじめてコメントさせていただきます。
    タタ・ナノのニュースは、ちょうどインドの「今」を勉強している最中に飛びこんできまして、大変刺激をうけました。
    TBさせていただきました。ご確認いただければありがたいです。

  4. どうもありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

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