Sangini Women’s Co-operative Society bank

半年ほど前のもので恐縮だが、こんなニュースがある。
London Gets Influx of Indian Tourists as Japanese Stay Home (Bloomberg.com)
2006年中のロンドンでの日本人観光客の支出総額が1億2300万ポンド、これに対してインド人観光客の支出が1億3900万ポンドと前者を上回ったそうだ。またこの年に同地を訪れた観光客の人数も日本人が23万人、インド人が21万人と拮抗している。
インド経済の好調さを感じさせてくれるのは、インドの都市だけではない。世界各地の様々なスポットで、インド人観光客の姿が多くなっていることもまさにその証であろう。
何もインドに限ったことではないが、右肩上がりの成長を続ける中、皆が等しく豊かになることができるわけではない。資格や学歴、能力や才能、あるいは親から引き継いだ家業などもなく、社会の底辺に生きる人たちはどうしても取り残されてしまいがちである。
インドの赤線地帯で働く女性たちもそうした部類に含まれる。あちこちに赤線地帯はあるが、とりわけムンバイーのカーマティープラーは内外に広くその名を知られている。全国各地あるいはネパールのような周辺国から出てきてこの生業で生活している人たち。この稼業に手を染めるようになった理由は人それぞれだろうが、ほとんどの場合これを望んでしているわけではなく、やむを得ず、他に選択の余地もなく日々これで稼いでいる。売春は一大産業となっており、一説によるインド全国で200万人もの娼婦がいるとも言われる。
娼婦として働く人たちも大変だが、家族とりわけ小さな子供がいるとなれば、彼女たちの両肩にかかってくる責任はとても大きい。You TubeでKamathipuraを検索してみるといくつかの映像が引っかかってくるが、園中にこの地域の学校を紹介したものがあった。古い建物の2階に入っているこの教室は公立学校ではなくプライベートなものだが、私立学校というよりも『寺子屋』みたいなもののようだ。おそらく地域で働く娼婦たちの子供たちも多く通っているのではないかと思う。
そのカーマティープラーで、娼婦たちが運営する銀行、Sangini Women’s Co-operative Society bankが成功しているという記事を目にした。
Sex workers’ bank builds dreams in Mumbai (Express India)
娼婦たちの多くは身分や身元を証明するものを持っていないので銀行に口座を開くことが難しい。しかしながら、彼女たち自身にも引退後のために貯金したり、子供の教育のため、人によっては他の商売を始める元手や家の建築資金を貯めたりといったニーズがある。貯蓄とは反対に、病気や身内の結婚といった物入りの際に、まっとうな利息で必要なお金を用立ててくれるローンも必要だ。
仕事や生活のスタイル上、組合を作るなどして結束しにくい娼婦たちだが、National Network of Sex Workersのような連帯組織があるようで、売春という職業の合法化とこれに従事する人たちの権利擁護を求めて活動しているようだ。だが果たして彼女たちが金融機関を立ち上げてこれを自ら運営していくだけのノウハウを持っているのかどうか疑問に思う人は多いだろう。上のリンク先記事を読み進んでいくと、その背景がわかる。この銀行は、PSI (Population Services International)というアメリカのワシントンを本拠地とするNGOの助けによって運営されているのだそうだ。
このケースについては、たまたま援助母体は外国の組織であるが、インド自身がNGO大国と呼ばれるほど、様々な社会活動を行なう地場のNGOは、その種類・数ともに豊富だ。もちろんこの国の政治的な自由度がとても高いため、こうした団体を結成しやすいということもあるだろうし、政党活動が盛んなこの国で、数多い政治組織の関連団体として社会の各方面で活動しているものも少なくない。
弱い立場にある人たちが力を合わせて自立の道を探るというのは非常に意義深いことである。娼婦たちによる新しい自助努力の試みが今後他の地域にも広がり、大勢の娼婦とその家族たちの生活改善の大きな助けとなれば喜ばしいことである。

「Sangini Women’s Co-operative Society bank」への2件のフィードバック

  1. Slumdog Millionaire を見て気になっていたのですが、インドの娼婦の実態、寺子屋の背景がわかりました。

  2. 「ひとびとの暮らし」「社会のしくみ」が非常に多層的であるがゆえに、いつもながらインドという国の重さを感じます。

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