富士フィルムのFinePix X100

父親の世代が使っていたような、昔のカメラを見て『こんなカメラを持ち歩いてみたい』と思ったことはないだろうか。中古カメラ屋覗いてみて、素敵なカタチをしたクラシックカメラに惹かれたことはないだろうか。

一種の憧憬を抱くことはあっても、それを購入して日常的に使うかどうかといえばまた別の話である。写真といえばデジタルが当たり前になって久しい。 今の時代、フィルムなどという面倒くさいもの、ランニングコストが高くて、現像や焼付けなど手間ヒマのかかるアナログカメラなど、そうそう手を出す気はしない。

だがそうした昔のカメラのフォルム、操作感や質感をそのままにデジタル化したものがあったら、どんなに楽しいことだろうか、と夢想したことのある人は多いはず。

外見がちょっと昔風、ややクラシック的であることをイメージしたカメラあるいはそのケースなどはこれまでけっこうあった。あるいはトイカメラの類でレトロ調のものもいくつか出ていた。しかし見た目が本当にクラシックカメラみたいで、それでいて性能も抜群といった、趣味と実用性を両立させたモデルは見たことがなかった。

このたび発売される夢のようなカメラ、富士フィルムから発売されるFinePix X100は、特定の機種のボディの復刻というわけではないし、デジタルカメラとして意味を成さないフィルムの巻上げレバーのダミーが付いていることはない。アルミ削り出しのダイヤル類、マグネシウム合金ボディと高い質感で、昭和のカメラ、昔の写真機といった感じの外観がよく再現されている。もちろんレンズは非沈胴式の単焦点である。

ダイヤルによるマニュアルな操作は、昔風でありながらも実は直感的で分かりやすいものだ。クラシックをコンセプトにしたモデル以外にもアナログ的なダイヤルを備えるような流れが出てくることもあるかもしれない。

センサーはAPS-Cサイズ。他のコンパクトデジカメとは大きく違うアップマーケットなモデルだ。画角は35mm換算で35mmという『伝統的』なアングルである。しかし開放値はかなり明るめの2.0だ。

クラシカルなフォルムの再現に不可欠であるとともに、ボディサイズにややゆとりがあるためだろう。光学ファインダーと電子ファインダーを切り替えて使うことができるようになっている。

古風な外観ながらも、もちろん骨董品ではなくガンガン使い倒すためにある量産カメラだ。詳細な特徴や機能・性能については専門のサイトがいくつもあるため、ここでは敢えて取り上げてみることはないが、カメラの本質部分以外にもなかなか気の利いた味付けがなされている。たとえば、フィルムメーカーらしく、フィルムシミュレーションモードという機能が付いており、Provia, Astia, Velvia等のフィルムの特徴を再現した表現を選択することができるのは面白い。

実質35mmという使い易い画角とはいえ、レンズ交換式ではないので、これ一台で何でも・・・というわけにはいかない。ボディのカサのみで言えば、ソニーの一眼カメラのEマウントタイプのもの、パナソニックあるいはオリンパスのマイクロフォーサーズといった小ぶりなカメラと同等といったところだ。価格と実用面に限れば、他に多くの選択肢が考えられるのだが、他に替えられない趣味性という点で、唯一無二の稀有なカメラだ。

このカメラのマーケットは決して小さくはないだろう。APS-Cサイズの大型センサーを使用しているにもかかわらず、特殊なコンセプトのために汎用性と拡張性を大きく犠牲にしているため、他のシステムと組み合わせるという需要はないはずだ。

同様に現在使っているカメラの代替としての可能性もほぼないだろう。クラシックなフォルムはもちろんのこと、23mm単焦点というモデルは現在販売されているコンパクトデジカメの中にないし、固定式レンズであるため一眼タイプのレンズ交換式カメラと競合するものでもない。

そのため、このカメラを購入する人たちは、他のカメラに替えることのできない、このカメラであってこその需要を感じたうえでのことに違いない。 それでも予想される販売価格が11万円強と、極端に趣味性の高いモデルとしては価格を低めに抑えてあるように見えても、今どきのデジカメの値段の相場に照らすとかなり高価で拡張性もない。X100の需要とはそれ独自のものであり、とりあえず手元に持っているカメラやレンズ類一式で満足しているのとは別の方面の物欲をかきたてるものである。

つまり先述のクラシックカメラに対する、世代によって違うが『愛着』であったり『憧憬』であったりするのだが、そうした潜在的な需要を喚起する稀有なモデルということができるだろう。

機能・機能自体はデジタルなので陳腐化するのが早いことは間違いない。それでも愛着を抱いて末長く使える世界初?のデジタルカメラなのではないか?と思わせるものがある。

FinePix X100の発売日は3月5日だ。

※コーラープト 3は後日掲載します。

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