トラ保護区にトラの姿なし・・・

トラの親子
ここ数年来、インドのトラ保護区内で、肝心のトラが激減、はてまた絶滅・・・といったニュースはしばしば目にしていたが、ここにきて再び残念なニュースが伝えられている。
Indian tiger park ‘has no tigers’ (BBC South Asia)
昨年7月にトラ絶滅が明らかとなったラージャスターンのサリスカー国立公園に続き、『トラが絶滅したトラ保護区』とは、マディャ・プラデーシュ州のパンナ国立公園ならびにサンジャイ国立公園。前者は3年前には24頭、後者は1990年代後半に15頭の生存が確認されていたという。
パンナ国立公園のほうは評判が高かったようで、2007年にはインド政府から『ツーリスト・フレンドリーな国立公園』として表彰を受けている。同公園のウェブサイトではトラの姿や足跡などがあしらわれているのが皮肉である。
もっとも上記の記事によれば、パンナ国立公園では近隣のトラ保護区からすでに2頭のメスのトラを移住させており、今後オス、メス各2頭ずつ運び入れる予定であるとのことで、現時点でトラがまったくいなくなっているということではないようだ。パンナ国立公園に先立って主人公不在となったサリスカー国立公園も同様にランタンボール国立公園からトラを移送して再定着を図っている。
自国の固有種のトラの保護を目的して、インド政府が1973年に立ち上げた『プロジェクト・タイガー』のもと、現在全国で40あまりのトラ保護区が展開している。先述のパンナ国立公園にしてみても、森林の保護状態についても高い評価が与えられているようで、環境は決して悪くないようだが、最大の問題はやはり密漁ということになるようだ。
だいぶ前に他の国立公園内をチャーターしたジープで夜間に見物に回ったことがあるが、様々な夜行性動物を目にした後、暗がりから突然大きな動物が二本足歩行でヌーッと出て来て『でかいサルだぁ!』とたまげたことがある。
よくよく見るとそれは人間で、密漁を監視する公園内のレンジャーであるとのこと。詰所を拠点に広大な敷地内を24時間体制で見回りを続けているということで、待遇もあまり良くないであろう彼らの奮闘には頭の下がる思いがした。しかし密猟者たちとの共謀といった形での汚職は少なくないとの話も他のところで聞いてはいた。
だが密漁の横行の背景には、観賞用としての頭部や毛皮はもちろん、歯や骨なども漢方薬の材料として高値で取り引きされるという需要があるがゆえのこと。日本をはじめとする東アジアの国々もインドのトラの個体数激減に対する責任がないとは言い切れない。それがゆえに上野動物園のトラ舎入口付近にもインドにおけるトラの密猟と私たちが実は繋がりを持つものであることを訴えるポスターが貼られているのである。
トラ保護区での個体数激減という、国立公園における現象面のみ伝えているインドおよび内外のメディアには、密漁されたトラの利用と売買の状況、姿を変え『製品』と化して各国の市場へと流れるルートについても、ニュースの受け手にわかりやすく、具体性を持って伝えてくれないものだろうか。
トラに限ったことではないが、密漁等のために世界各地で絶滅が危惧されている種の保存は、現地当局の努力のみならずその動物ないしはそれから生じる製品が売買されるマーケットを極力縮小させる努力、つまり『トラ製品』の末端の購買層となりかねない私たち市民に対する啓蒙活動もまた大切であることは言うまでもない。

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