天空を駆ける人たち

ともに『世界最高所』を謳うマラソン大会がある。
EVEREST MARATHON
TENZING HILARY EVEREST MARATHON
1987年から開催されている前者は、エヴェレスト・ベースキャンプ近くのゴーラク・シェープ(海抜5,184m)スタートするのに対し、2003年に開始された後者はエヴェレスト・ベースキャンプ(海抜5,364m)がレース開始地点であるため、現在はこちらが『最高所マラソン』ということになるのだろうか。どちらもゴールはシェルパの里としても、トレッキングの拠点として、シーズンには多数の観光客が集まる場所としても知られるナームチェー・バーザール(海抜3,446m)だ。
ルートはほぼ共通しているが、前者はゴールにやや近い地点から出発するため、ゴールの手前で少し迂回して距離を稼ぐ形になっている。
EVEREST MARATHONのルート
TENZING HILARY EVEREST MARATHONのルート
どちらも42.195kmの距離をカバーするフルマラソンだが、後者についてはハーフマラソンという選択も用意されている。
それにしても、ゴール地点のナームチェー・バーザールにしてみたところで、海抜3,400mある。近くのシャンボチェ空港に飛行機で着いた場合、しばらく頭痛などの高度障害に悩まされる人は少なくないだろう。
このくらいの標高でふと頭に片隅に浮かぶのは、ボリビアの首都ラパスにあるエスタディオ・エルナンド・シレスというサッカースタジアム。サッカーに関心のある方ならば記憶されていると思うが、昔から幾多の国際試合が行なわれてきた会場であり、地元ボリビアは世界に名だたる強豪チームを迎えても、高度という通常の地の利以上の大きなハンデを相手に与えて、ホーム試合での強さを発揮してきた。
だが2007年のちょうど今ごろの時期、FIFAが『海抜2,500を越える高地にある競技場を国際試合会場として認めない』旨の発表をしたところ、ボリビアやエクアドルといった、それぞれ首都がそれを越える高地にある国々が猛烈な反発を示した。
その後FIFAは高度制限に関する見解を、2,500mから3,000mに引き上げた。これによりエクアドル首都のキト(海抜2,850m)の高度はカバーされるものの、ボリビアのラパスはそれよりもはるか雲の上にある。
その後も大統領も直々に関与しての国を挙げての抗議行動は続き、紆余曲折の末になんとか2010年に南アフリカで開催されるワールドカップ予選会場として認められたという経緯がある。
南米の国とはいえ、代表チームレベルとしてはワールドカップ出場経験はあるものの、三流国にしか過ぎないボリビアだが、エスタディオ・エルナンド・シレスにおいては、幾多の奇跡を実現してきた。世界に冠たるサッカー王国ブラジルの代表チームを打ち負かしたり、古くは1963年のコパ・アメリカで地元ボリビアが優勝した舞台でもある。
今年4月1日には、この会場でワールドカップ南米地区予選の対アルゼンチン戦が行なわれ、ワールドカップ本大会でブラジル同様に優勝候補筆頭クラスの予想を与えられるアルゼンチンを6-1という信じられない大差で破るという伝説を築いた。これが奇跡であるにせよ、伝説であるにせよ、その背後にあるのは『高度』という外部から来た人間にとっての大きな障壁だ。
話は世界最高所マラソンに戻る。参加者たちは、レースの半月ほど前にネパール入りし、その直後から高度順応のプロセスに入る。TENZING HILARY EVEREST MARATHONのウェブサイトには、その日程が記されている。
カトマンズからルクラまで飛行機で入り、その後トレッキングをしながら徐々に高度を上げて行くわけだが、この間に高山病で一時下山して再調整したり、諦めてリタイヤしたりする人が出てくる。高所に強い、弱いは平地での体力と相関関係はなく、高所行きを繰り返せば強くなるというものでもないようだ。あくまでも持って生まれた体質によるものらしいので、高山が苦手な人には如何ともしがたい。
すでに今年のレースが5月29日に実施されたTENZING HILARY EVEREST MARATHONについては、結果が掲載されている。
1位はPhurba Tamangという人物だが、2位を30分近く引き離して、3時間40分余りという驚異的なタイムでゴールインしている。参加者の国籍を見ると、地元ネパールと隣国インド以外では、欧州、北米、オセアニアからの出場が多いが、日本から加わった人はいないようだ。2年前の大会の結果が掲載されているEVEREST MARATHONも同様だ。
こちらの次回のレースは今年の12月に予定されており、高度順応を含めたスケジュール費用規則申込要項等は、すでにウェブ上で公開されている。
各地で開催される通常のマラソン大会では飽き足らない方は、応募を検討されてみてはいかがだろうか?

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