アールシ事件から9年

2008年にデリー近郊で発生した不可解なアールシ殺人事件は世間を大いに揺るがす急展開を見せた。

非常に醜悪かつ第三者にとっても不愉快な事件(事件のおおまかな内容はリンク先のとおり)であったが、最終的に被害者の両親であるタルワール夫妻による「名誉殺人」であると結論付けられ、夫妻は終身刑となったところで決着したものと誰もが思っていたはずだ。

ところが今月16日に夫妻はUP州の刑務所から釈放されることとなり、デリー近郊の身内のところに身を寄せている。CBIまで乗り出して大掛かりな捜査が行われた事件だが、その取り調べに問題があったこと、証拠不充分などがその背景にある。この事件発生時、一見、何不自由なく、幸せそのものに見えた家庭で起きた惨劇であることに世論は同情的だった。

だが、時間の経過ともに明るみになった新事実により、タルワール夫妻が犯人らしいという展開となると、エスカレートする報道とともに、視聴者もニュースの取材などを相手に、自分なりの分析などをベラベラと喋るようになり、公共の電波もそうした戯言を垂れ流すという、実に醜いものとなっていった。

同様にこれをテーマにした書籍や映画も世に出るなど、大変な反響に驚いた人は少なくない。警察に前後左右を固められて出廷するラージェーシュ・タルワール(アールシの父親)が、野次馬の中から飛び出してきた男に刀で顔を切りつけられる事件も起きるなど、法の裁きによらない私刑(メディアによる私刑、個人による私刑)を容認する空気というのもまたインド的であった。

ちょうどこの頃、地理的にデリー首都圏に近いパンジャーブ州で、凄惨な「名誉殺人」の事件が立て続けに報じられていたこともあり、モダンな街区に暮らす都市型中産階級の家庭でもそうしたことが起きたということが、なおさらのこと世間の耳目を集めたのだろう。

警察、司法、メディア、市民にリンチを加えられた形となったタルワール夫妻だが、本当に無実であったとすればどうなのだろうか。

大切な一人娘を失い、夫妻自身が勤勉(夫妻ともに開業歯科医)により積み上げてきた財産、信用、名誉を失って老境に差し掛かろうとしている。事件発生当時まで暮らしていた屋敷も裁判費用捻出のために売却している。

事件そのものだけではなく、メディアや社会の反応など、いろいろと考えさせられることの多かったアールシ事件だったが、まだこれで終わりというわけではないかもしれない。

Aarushi Talwar: India parents walk free after murder acquittal (BBC)

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