日本でインド系放送の輪広がる


 昨年から日本で東京のMOLA TVと大阪のHUMTUM TVがインド、パーキスターン、バングラーデーシュのテレビ番組をウェブ上で配信するサービス(番組配信事業において両社は提携関係にあり、契約パッケージ内容・料金ともに同一)を行なっており、この一年ほどで取り扱いチャンネル数が次第に増えてきた。
 当初はヒンディー番組のみであったが、今ではパンジャービー、グジャラーティー、マラーティー、ベンガーリー、ウルドゥーと放送言語のバリエーションも広がっている。BTV(バングラーデーシュ)、PTV(パーキスターン)に加えて、南アジアのさらに他の国の放送をラインナップに加える予定もあるのだ。各現地語による放送番組をそのままウェブ上で流す、いわばケーブルテレビのインターネット版といえるだろう。
 この盛況を受けて、新たな会社がこの業界に新たに参入する動きが出てきている。IP電話を利用した安いプリペイドカード国際電話の取り扱い、国際線航空券の販売、自動車の輸出などを手がける株式会社ユアチョイスコーポレーションである。
 この手のサービスの広がりはADSLや光ケーブルによる大容量回線の普及を背景にしたものであることはいうまでもない。ZEE TV等の各放送局により国ごとに指定の番組配信取扱業者があり、これらの業者が番組を流すのは日本国内のみであること、番組で使用されるのはどれも現地の言葉であるため顧客の大部分が日本在住の南アジア系の人々であるため、日本における彼らの人口規模の相当な拡大が感じられる。
 契約者の大部分を占める南アジア系世帯の中で、番組視聴時間が最も長いのは主婦であるといわれる。在日の南アジア系の人々の中に占める勤労者は男性が圧倒的に多い。彼らは日中ずっと仕事で出払っており夕方の帰宅時間も決して早くはない。そのためあまりテレビを見る時間はない。だが夫の赴任についてきた奥さんたちの多くは専業主婦で小さな子供がいるケースも多いので家にいる時間が長くなる。そのためこうしたサービスが必要とされるのだ。結局のところネット経由のインド系テレビ番組の普及のカギを握るのは主婦らと小さな子供たちなのかもしれない。
 80年代末のバブルの頃から日本の街角では南アジア系の人々の姿が急増したのだが、当時は短期滞在において日本との間に査証の相互免除の取り決めがあったパーキスターン、バングラーデーシュ(そしてイラン)の人たちが工場や建築現場などで働いていたが、ほとんど例外なく単身で日本に来ていた。
 やがて日本の景気の悪化とヴィザ取得の義務付けと審査の厳格化により、彼らの数は次第に減少していくのとちょうど入れ替わるように増えてきたのがIT関連の業界で働くインド人エンジニアたち。やはり彼らもまた比較的若い年齢層の人たちが多いが、前者と大きく違うのは合法的な在留資格を持ち、いわゆる3Kの職場とはまったく違う環境での業務に従事するエリート的な立場であることはもちろんのこと。しかし日本での生活面でも大きく違う面がある。若い層が多いことから単身者も決して少なくないものの、奥さんや子供を伴って来ている人が非常に多いことである。日中多くの時間を家の中で過ごすことが多い彼らにとってこそ母国の放送がリアルタイムで受信できることのメリットは大きい。
 
 もちろんインドだけではなく、東南アジアや南米など各国の放送がネット経由で流れるようになっている昨今。在日の外国人等を相手に小さな会社が番組のパッケージを細々と切り売りする状況にも変化が現れるのではなかろうか。大手通信系会社が一手に複数の国々からなる大量のチャンネルを扱おうと試みることがあるかもしれないし、各国での大容量通信回線の普及が進めば、外国のそうした業者が日本国内に拠点を構えることなく、直接切り込んで来ることもあるのかもしれない。
 いうまでもなく、現在インド系テレビプログラムを日本国内で配信する業者たちは、各放送局と正規の契約を交わしたエージェントであり、放送されるコンテンツについては著作権等の関係も含めて法的に守られていることから、他社が勝手な真似をすることは許されない。それでも第三者によるプログラムの二次利用や再配信、そして『海賊放送局』など、いろいろ出てきそうな予感はする。
 かつて海外のテレビ放送受信といえば、巨大なパラボラアンテナを設置して海外のテレビ局による衛星放送を受信なんていう大掛かりでマニアックなものであったが、ここのところ急速に手軽で簡単なものになってきている。時代はずいぶん変わったものだとつくづく思う。こと通信や放送について、世界は本当に小さくなったものだとつくづく思う。

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