お茶の風景

 西ベンガル州のシリーグリーからバスで東へ走る。この州には、ここらのような丘陵地、ダージリンあたりのような山岳地、カルカッタやその周辺のように大河の沖積平野からなる低地、国立公園のスンダルバンで知られるマングローブ地帯もあり、地形・気候ともに実にバリエーションに富む面白い土地だ。
 インドという国は、しばしば「ひとつの世界である」と表現されるが、西ベンガル州はまさにそのインド世界の縮図であるかのような気がする。さらに隣国のバングラデシュも含めてベンガル地方として眺めてみれば、その広がりの大きさは実に驚嘆すべきものがある。もちろんひとつの「世界」を感じさせる深みと広がりを持つ地域はベンガルだけではなく、他にも数々あるのがこの国の偉大なところである。


 それほど広がりを持つ国であるためか、ヒンディー語によるロードアトラスを眺めてみると、シリーグリーという地名の表記について本によってこれまたいろいろある。
 特にヒンディーベルトを出ると、デーヴァーガリー文字による地名の綴りにかなり揺れが見られるのは、地元のコトバとの違いから生じるブレなのかもしれない。
 ともあれシリーグリーを出てからはなだらかな丘陵地が続く。そして道の両側には美しい茶畑がどこまでも続いている。
 どこの国にあっても、お茶の産地の気候や地形にはかなり共通するものがある。豊かな陽光、豊かな水、マイルドな気候と昼夜のほどよい寒暖の差だ。茶畑のきれいな眺めはともかく人の身体にも優しくて居心地も良いものだ。
 このあたりで採れるお茶は何と呼ばれているのだろうか?とふと思った。シリーグリー茶、あるいはこのあたりのディストリクト名を被せたジャルパイグリー茶なんていうのは聞かない。ひょっとすると北ベンガルで生産される茶を総称してダージリン茶としているのかなとも想像してみたが、実際のところどうなのだろうか?
 どこまで行っても茶畑が続き、沿道から見える「○○エステート」「××エステート」といった茶園の看板が変わり、単調な風景の中で所有者がそれぞれ違うことを主張している。
 茶摘みのシーズンにはネパールはもちろん、すぐ南のバングラデシュからも季節労働者たちが仕事を求めて大勢やってくることと思われる。
 シリーグリーを出るときに買っておいた新聞を開いてみると、近ごろ地域で問題になっているという大がかりな「茶葉泥棒」の記事が載っているのは、いかにも「お茶の世界」らしいところ。車窓から眺めている茶畑の風景は、さらにアッサム方面へと果てしなく続いているのだろう。

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