人気のコトバ

world.jpg
 9月18日付の朝日新聞によると、教育特区の認可を受けて「中国語専攻」のコースを設置している高校をはじめとして、現在中国語教育に取り組む高等学校は日本全国で475校もあるのだとか。また文部科学省の調査によれば全国で4万2千人の高校生たちが、英語以外の外国語を何らかの形で学んでいるのだという。
 現在、日本の高等学校で行なわれている英語以外の外国語授業の上位10言語は以下のとおりだそうだ。
1.中国語
2.フランス語
3.韓国・朝鮮語
4.ドイツ語
5.スペイン語
6.ロシア語
7.イタリア語
8.ポルトガル語
9.インドネシア語
10.エスペラント語


 最上位の中国語や第3位につけている韓国語については、言うまでもなく近隣国であり経済的な結びつきも強いがゆえである。使用される文字がローマ字であり、しかも発音や文法ともにシンプルであることから、とっつきやすいインドネシア語は第九位と健闘しているが、その他はすべて欧州語である。やはり言葉とは使うためにあるものであり、また日本で学ぶにあたってはその教材等の入手が容易であることが大切だ。初歩程度をかじった程度では実用にならないにしても、まさに「千里の道も一歩から」である。またこうして学んだ生徒たちの中でさらに上の段階を目指す者の数は決して少なくないことだろうから、間口が広がることは良いことである。
 大きな書店の外国語学習テキストの書棚を眺めて、その充実ぶりはだいたいこの順番になっているようなので、これを日本人に人気の外国語ベスト10と言い換えてもほぼ間違いないだろう。
 ところで外国語を学ぶ動機とは何だろうか。将来就く職業等のことを考えて、という経済的な動機もあれば、純粋に個人的な興味ということもあるだろう。国内に住む日本の高校生が英語以外の外国語を学ぶとすれば、このふたつのうちどちらかというのが一般的だろう。
 多民族からなる多言語社会であれば、特に主要言語以外を母語としている場合は幼いころから有無を言わずに他の言葉を身につけなくてはならないだろう。しかし彼らとて言葉が自国の外で話される「外国語」となれば、さほど変わらないと思われる。
 この年頃の生徒たちが、「将来」のために好きでもない国の言葉を学ぶこともあるかもしれないが、純粋に個人的な興味で学ぶ言葉となれば「憧れの国のコトバ」ということになるだろう。そのいずれにしてもその国あるいは民族固有の文化や価値観を知ることにつながる。
 歴史的な経緯から、話者人口の地域を越えた広がりと通用度を持つ英語、スペイン語、フランス語については、「民族語」の範囲を超越したニュートラルな性格も併せ持つが、それでも言語を学ぶということは、同時にその言語を話す文化圏の中心にある人々の文化や物の考え方などについて学ぶことにもなるのは想像に難くない。
 これらを踏まえたうえで主要言語の話者人口順位を見てみよう。
1.中国語 (約13億人)
2.アラビア語 (約4億2000万人)
3.ヒンディー語 (約3億6600万人)
4.英語 (約3億4100万人)
5.スペイン語 (約3億2200万〜3億5800万人)
6.ベンガル語 (約2億700万人)
7.ポルトガル語 (約1億7600万人)
8.ロシア語 (約1億6700万人)
9.日本語 (約1億2500万人)
10.ドイツ語 (約1億人)
11.フランス語 (7800万人)
12.韓国・朝鮮語 (7800万人)
 話者人口の部分については新旧のデータが混在している部分があるので精度を欠くが、おおよその数字と順位はまあこんなものであろう。この中で、さきほどの外国語学習上位10位内に入っていないのは、アラビア語、ヒンディー語、ベンガル語である。
 ヒンディー語はアラビア語に次いで第3位につけているが、言語的にまったく「別個」のものと切り離しにくく、1億400万人の話者人口を持つとされるウルドゥー語(上記の話者人口上位10以内に含まれていないのは何故だろう?)もあえて加えてしまえば、ヒンディー/ウルドゥー語が第2位に浮上する。また第6位にあるベンガル語もまた2億以上の巨大な話者人口を抱えており、決して無視することのできない勢力だ。
 インドの言葉が日本人高校生の学習対象として弱いところは、現地での英語通用度が高く、ビジネスのコトバも主にその英語であるためであろう。一般に新しい言語を覚えるということは、とても面倒くさい作業である。この地域の語学あるいは地域学等を専攻するといった明確な目的、あるいは結婚等により現地に末永く居住するなどといった理由を持つ人を除けば、多くが「あぁ、それじゃ英語でいいです」ということになるのは無理もない。今後インドをはじめとする南アジアが市場として、また生産基地としてさらに熱い注目を浴びるようになっても、地域の言葉を学習する動機としてはかなり弱いのではないだろうか。
 インドでは英語による出版物が非常に多いため、英語を通じてインドを知ったり、その国や人々と関わりを持ったりすることができるソースやチャンネルがとても多い。しかしそれがゆえに、国外の人々がインドのコトバを通じてその文化背景や価値観に触れる機会を少なくしているという側面だってあるだろう。
 すると日本の一般の人々がインドの言葉を学習する場合、主な動機は実益よりもむしろ「純粋にして強い憧れ」が突出しているものと思われる。近年ITその他ビジネスの分野で着実に接近している日印関係だが、将来日本の高校生たちがインドの豊かな言語世界を「ああ、面白そうだな」と感じるような環境が生まれてくれば、インドは日本人の「好きな国」上位にランクされて、両国の関係もさらに身近なものになっているのではないだろうか。
 コトバの学ぶ人々の数は、それが話されている国・地域との「距離感」を如実に示していると思う。

「人気のコトバ」への1件のフィードバック

  1. 私の友人、ヒンディーがぺらぺらなのですが、いくら流暢に話しても英語で返答するインド人もいるそうで。
    それでついに飽きてしまい、今では英語しか使わなくなってしまったそうです

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください