公共の宿

独立以来、経済の分野で国家の主導する部分が非常に大きかったインド。90年代以降、思い切った改革路線への転換により、今では毎年高い成長率を記録するようになったインドだが、石油・天然ガス公社のONGCや肥料会社FCI、航空機を製造するHAL、戦車のBEM、レーダーや無線機などを造るBELといった軍事関連企業といった国の基幹を支える国営企業以外にも政府系企業はまだまだ多い。
政府が業務そのものに直接関与すべきものか疑問だが、観光部門でもそうした公営企業が目立つ。旅の終わりに中央政府や州政府経営のエンポリアムで買物をする人は少なくないだろう。品物の値段は全体的に高めでも、装身具に衣類、金属細工に木彫などひととおりのアイテムは揃っている。店員たちは無理に買わせようとプレッシャーをかけることもないし、お客は「ボラれているのではないか?」などと疑心暗鬼にかられることもなく安心だ。価格交渉などで貴重な時間を取られることもなく、とかく急ぎ足の人たちにはありがたい存在には違いない。
首都デリーには全国各州政府によるエンポリアムが出店しているが、自州の名産品を内外にアピールするのに格好の場所であろう。
また各州政府運営による観光開発公社があり、これらが主催するツアーや経営するホテルや付随するレストランも各地にある。クラスは中級から上といった具合で、概ね立地は良いし設備も整っていることから、民間のホテルと大いに競合してしまうようだ。
日本ではこういう政府系の施設は、「民業圧迫だ」ということになりそうだが、ここでは地域振興のきっかけの創出、民間に対する事業モデルの提示、行政による雇用確保が狙いとなっているのだと思う。
新しく注目されるようになったスポットに、いち早く宿泊施設やツアーのアレンジ等を行うエージェントを用意して地域経済をリードしていくのは大いに意味があることだろう。
だがこうしたホテルは建てたときがベストで、時間が経つとともに施設もサービスも劣化が進むという傾向はどこに行っても共通している。地域を訪れる観光客が少なく利用者の少ないホテルともなると荒れ放題で目も当てられない。
公営宿泊施設には活用されないムダなスペースが多く、設計時点からあまり真剣に取り組んでいないように思われるところが少なくない。もちろんこれは現場のみの責任というわけではなく、事業主体である公社やそれを監督する官庁の姿勢をも問われるべきものでもある。
堕落の結果として官業と民業がうまく共存していけるのかもしれないが、すると政府系のホテルは本当に必要なのかよくわからなくなる。こうした施設を本当に必要としているのは、「予算消化」と「実績」を必要とするお役所自身なのだろうか?という気がしないでもない。

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