天まで届くか? ボビー・ジンダル

Bobby Jindal
今年10月、アメリカのルイジアナ州知事選挙で得票率54%という圧倒的な支持を得て見事当選して、来年1月からの就任が決定した共和党のボビー・ジンダル。アジア系アメリカ人のなかで、インド系は中国系、フィリピン系に次いで第三位。総人口の中に占める割合は0.6%に過ぎないとはいえ、シリコンバレーで活躍する実業家たちの中にインド出身者たちの名前がズラリと並んでいるとともに、その他医者や弁護士といった高度な知的職業に従事する人々の割合が高いとされるのが特徴だ。高学歴で富裕層が多く低所得層が少ないといわれる。
極めてアメリカ的なものの中にもインド人との縁が深いものは決して珍しくない。たとえば高性能な音響機器を製造するアメリカ企業Boseもまたインド系アメリカ人にして、アマル・ゴーパール・ボースが起業したものである。彼の父、ノーニー・ゴーパール・ボースは、インド独立の志士で政治活動により投獄経験があり、当時のイギリス官憲の追及を逃れるため渡米した。
在米インド系人口は、高い教育水準と所得レベルを持つ有力なマイノリティ・コミュニティながらも、政界への進出はさほど盛んでないとされてきたが、ここにきて保守的な南部のルイジアナ州知事選で選出され、全米初のインド系知事、同州における135年ぶりの非白人知事となったのがインド系二世のボビー・ジンダル。ちなみにルイジアナ州で始めて白人以外の知事となった人物とは、P.B.S.ピンチバックという人物で、白人農場主と彼の元奴隷であった黒人との間に生まれたとされる。在任期間は1872年12月半ばから翌83年1月半ばまで、わずかひと月あまりと短いものであった。
ボビー・ジンダルは1971年生まれの36歳。インドのパンジャーブ州からの移民の息子として、ルイジアナ州のバトンルージュで生まれた。父の故郷に祖父母が生きていたころは、繰り返しインドを訪れていたという。元々はヒンドゥーながらも中学生のころクリスチャンに改宗。ブラウン大学卒業後、イギリスのオックスフォード大学に留学して政治学修士号を取得。同じくインド系アメリカ人スプリヤーとの間に三人の子供たちがある。
彼は突然降って沸いたように表舞台に登場したわけではない。大学院修了後、20代前半で同州保健局の責任者、20代後半で同州立大学の統括責任者、そしてブッシュ政権発足時の厚生次官補に抜擢されるなど、非常に優秀な行政官として手腕を発揮してきた。また4年前初めて同州知事選に出馬。一次投票は首位で通過したものの、二位につけたブランコ氏との決選投票で僅差の敗北を喫するなど、常に人々の耳目を集めてきた人物である。一昨年9月に大きな被害をもたらしたハリケーン、カトリーナへの対応への批判からブランコ知事が再出馬をあきらめたこと、民主党の票田であった都市部の黒人有権者たちの多くが今でも他州に避難したまま戻ってきていないことなども、共和党の彼に有利な結果を引き出すことになった。
彼の州知事当選を、昨今のアジア系アメリカ人の台頭の一例、インド系アメリカ人の政治進出のシンボルという見方もできるかもしれないが、その実彼のスタンスや支持者層は、インド系の人々の利益を代表するものではないし、いわんや広く他のマイノリティや社会的弱者の利害をも代弁するものではない。南部でも特に保守色が強い、いわゆるデイープ・サウスに位置するルイジアナ州で、伝統的な白人保守層の価値観の代弁者として人々から票を集めたのが奇しくも非白人のアジア系候補者のボビー・ジンダルその人なのだ。肌の色や人種の違いを超えたオーソドックスな保守派として異色な存在だといえる。
しかしながら出自にとらわれない広範な支持とまだ36歳という若さは、これまで彼が発揮してきた確かな行政手腕と合わせて今後も目が離せない。ひょっとするとこの人物は、将来米国政界の頂点、ひいては世界政治を左右する高みにまで上り詰めるのではないか?という予感がするのは私だけではないだろう。
Bobby Jindal GOVERNOR (ボビー・ジンダル公式サイト)

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