草の根パワーで建てた鉄道駅

大地に果てしなく伸びる鉄路。両側にこれまた果てしなく続く農村風景を眺めているといつしか車窓風景から見える舗装道路や家並みの密度が高くなってきて町に入ってきたことがわかる。列車は次第に速度を落として、物売りの呼び声や赤いシャツのポーターたちが行き来する長いプラットフォームに停車する。そしてしばらくすると『ガタン』と車両が揺れて列車は静々と再び前に進み始める。そしてさきほどまで目にしていたのと同じようなどこまでも広がる景色とそこに点在する民家や小さな集落を目にしながら長い長い時間を過ごすことになる。そんなときにふと思うのは、この人たちは鉄路のすぐ脇に暮らしていながらも、いざ鉄道を利用しようと思ったらずいぶん遠くにある駅まで足を伸ばさなくてはならないのだなということ。
工業化・商業化の進展とともに人口も拡大を続けてきたインド。蒸気機関車からディーゼル機関車へ、そして一部地域では電化されるなど車両その他鉄道施設は近代化を進めてきたにもかかわらず、ラージダーニーやシャターブディーといった時代が下ってから導入された特別急行を除けば、通常のexpressやmailといった急行列車が大都市間を結ぶのにかかる時間はそれほど短縮されていないようだ。しかしそれには理由がある。駅が増えているからだ。おそらく日本で『高速道路を走らせる』『新幹線を引っ張る』といった事柄が利益誘導型の政治家たちの道具となってきたように、インドでも『地域に鉄道駅を造る』という事業は、地元を票田とするリーダーたちの目に見える大きな実績にもなるのだろう。それでもまだまだ『駅が足りない』ことは、この国の物理的な広さと人口分布の広がりを象徴しているといえる。
いつだか何かのメディアで、ビハール州やU.P.州などの田舎に『Halt』と呼ばれる臨時停車スポットが非合法に乱立されていることを書いた記事を目にした記憶がある。それらの多くが『正規のもの』に似せた名前であったり、地域で広く知られた聖者の名前を被せたものであったりすることが多いとのことだ。中でも圧巻は現在の鉄道大臣であり、ビハール州首相でもあったことがあるラールー・プラサード・ヤーダヴの妻の名前(彼女自身も前ビハール州首相)を付けた『Rabri Halt』まで出現したのだそうだ。これらの不法Haltは逐次鉄道当局により撤去されているとのこと。
しかしこれらを必要としているのは、レールは敷かれていても列車が停まる肝心の駅がない地域の人々。『駅が欲しい』という願いはあれども、政治的な後ろ盾がなければそうした声はなかなか届かないのだろう。
そんな中、自分たちで駅を建ててしまった村人たちがいるという話には驚いた。デリー・ジャイプル間にあるシェカーワーティー地方のジュンジュヌ地区にある四つの村で人々が協力しあって80万ルピーの資金を捻出し、レンガを積み上げてプラットフォーム、ベンチ、水道、チケット売り場から成る小さな駅を建ててしまったのだというから驚きだ。バルワントプラー・チェーラースィー駅は開業から1年半経過し、毎日4本の列車が停車しているという。資金集めや建設作業といった労苦もさることながら、天下の国鉄にこれを正規の停車駅として当局に認めさせた行動力と手腕もたいしたものだ。インド農村版『プロジェクトX』といったところだろうか。特に用事があるわけではないのだが、機会があればぜひこの駅に降り立ってみたい。建設にかかわった村人たちに尋ねてみれば、実に興味深い話をうかがうことができそうだ。
राजस्थान में रेलवे का एक ‘जनता स्टेशन’ (BBC Hindi)

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