ジープで進む田舎道

ニール・マハルの船着場から先ほどバスを降りたところに戻り、しばらく道なりに進むとモーター・スタンドがあり、何台かのバスと多数の乗り合いジープが停車していた。ここからウダイプルに行くクルマがあるのかどうか尋ねてみると、まさにこの中の一台のジープ(スモウではなく本当のジープ)がそちらへと出発しようとしていた。満員に見えるがまだ客を積み込もう・・・いやクルマの側面や後部に幾人か『つかまらせよう』としているところだった。私にはちょっと無理そうなので、次のクルマに一番乗りして運転手の隣席を確保して待つことにした。
客引きの大声に呼び込まれてお客が次々に集まってくる。ふと気づけば私が座る前の席には運転手を含めて4人、中列と後列にも4人ずつ、後部のステップに立つ者が3人、左右のドアにも幾人か貼り付いているが人数はよくわからず、屋根の上に2人。かなりの過積載ではある。加えて彼らが町で購入して各々自宅に持ち帰る野菜、米、足を縛ったニワトリなどが乗客たちの足元に転がっている。私の隣の男性は購入したばかりのダンボール箱に入ったテレビ(?)を抱えているため非常に圧迫感がある。目の前がフロントガラスで景色が見えて気が紛れるのは幸いではある。


そんなわけで身体的にはちょっときつかったがウダイプルへの道はなかなか面白かった。バスの場合は国道44号線というちゃんとした道路を行くようだが、ジープはこのあたりの村々と町を結ぶ役目を果たしているため、大型車両が通ることのできない小道を行くので農村風景を楽しむことができるのだ。道路は意外にもちゃんと舗装されていた。また途中で傷んだ部分を修復する工事をしているところも目にした。このあたりは低地なのでそうでなければ雨季にはまったく通行できなくなってしまうことだろうから、日本で言えば山の中の二輪車専用の林道みたいな道でしかないので、ジープならばこの道幅をなんとか通行できるとはいえ、対向車(同じ乗り合いジープ)がやってくると行き違うのが一仕事だ。道幅がやや広くなっている部分、あるいは道沿いの民家の敷地内に大きく車体を寄せることができる場所まで、どちらかが大きく後退して道を譲らなくてはならない。そんな具合でも地域の住民にとっては、これこそ唯一最寄りの大きな町へと続く道。とても大切なライフラインであることは想像に難くない。
乗り合いジープは、人々にとってバスの役割を果たしている。同乗の他のお客たちの出入りは頻繁で、村々で人々は家の前に出て自分が向う方向へと行くジープが来るのをじっと待っている。ちょっと大きめ村になると『バス停』然としたコンクリートでできた東屋があったりする。
たいていどこの村でも、集落の入口あたりにカーリー女神の祠がある。トリプラー州に来てからアガルタラー周辺では本当にカーリー女神の寺や祠が多い。やはりベンガル文科圏という感じだ。
竹で編んだ塀と壁から成る平屋の家々。バングラーデーシュの農村風景と変わらない景色の中をジープは抜けていく。現在私のジープが進む方向とは逆向き、つまり西に行けば、さきほど出発したニール・マハルから20キロ余りのところにバングラーデーシュのクミッラがある。
町から村に帰る人、村から村へと移動する人、村から町に出る人・・・田舎の人々を大勢乗せてジープはバンバン跳ねながらクネクネとした小道をひたひたと進んでいく。数多くの集落とともに広がる田園風景が美しい。
非常に混雑していながらも、狭い地域に暮らす人々で顔見知りも多いためか、誰か新たに乗ってくると『よう、お前さん!』と声をかける乗客あり、窮屈な中でもそれなりに他の乗客を慮っての譲り合いもあり、なかなかいい雰囲気でもあった。
ウダイプルへ移動することのみが目的であったが、はからずも小一時間の乗り合いジープの旅は実にほのぼのとしてゆったりとした農村風景満喫することができて良かった。今日訪れた中ではなによりもこのジープの旅が最大の収穫である。
やや残念なのは車内が窒息しそうなほど混雑していたため、とてもカメラを取り出して撮影する気にはなれなかったので、写真が一枚も残っていないことである。
外国人向けに、このあたりで『農村一日ツアー』なんていう企画モノがあったらけっこう評判いいかもしれない。
ニール・マハルからの乗り合いジープで農村風景を満喫して(他の乗客たちには何の変哲もない日常風景であることは言うまでもないが)ジープはウダイプルの町に着いた。町中にアマル・サーガルの他ふたつの大きな池がある。そのほとりに建ついくつかの寺院の姿と相まって美しい景観が広がっている。けっこう大きな町で宿泊施設らしきものもいくつか見かけた。時間があれば、ここで一泊してみるのもいいのではないかと思う。私は先を急ぐので、客待ちをしていたリクシャーに乗り、もうひとつのモーター・スタンドへと向う。ここからトリプラー・スンダリー寺院行きの乗り合いオートが出ているのだ。
マーター・バーリー・マンディル
この寺は別称マーター・バーリー・マンディルとも呼ばれている。特に私の目にはどうということのない、よくあるベンガル風のお寺でしかなかったが、実はインド全土、いやパーキスターン、バングラーデーシュ、ネパール、スリランカにまで広がるシャクティ信仰51聖地のひとつである。
寺院入口手前にいくつか軒を連ねている店のひとつで靴を預けて境内に入る。寺の背後に広がるカリヤーン・サーガルという池の景色もなかなか美しかった。
アガルタラーとその近郊など州西部はまるでベンガルの一部であるように見えるが、北部や東部にはモンゴロイド系の少数民族が暮らすトリプラー州。
また機会があればそれらの地域にも足を伸ばしてみたいと思うが、インドの他地域からトリプラー州を含む北東部へのアクセスがあまり良くないことがネックではある。このことについてはまた別の機会に考えてみたい。

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