11月12日はポリオ予防の日

 11月12日、インド全国でポリオ予防のため5歳までの幼児たちを対象にワクチン投与が実施される。首都デリーではこの日2万2千人以上のスタッフを動員して、7500近くもあるブースでワクチンの投与を行なうとのことだ。またヘルス・ワーカーやボランティア、行政関係者やNGOスタッフなどによる『捜索』を通じて、この機会を逃す子供がいないよう努めるという。
 また人々の出入りが多い国際貿易フェア会場や観光地などでもこうした機会を設けるようだが、『移動中の列車内』でもワクチン投与を行なうというのはなんだかインドらしい気がする。市民の保健衛生に関する事柄がシステム化されていないため、何かこうしたことを行なうとなるとどうしてもランダムで大掛かりになってしまい、手間ヒマかかる割にはずいぶん効率が悪い。
 以前、『ポリオ・ワクチン』として書いたとおり、この病気を罹患、発病したとしてもおよそ95%は特に自覚症状が出ることなく生涯有効な免疫ができるし、残りの多くもまた中枢神経系に現れる症状もない不全型の発病となる。そして1〜2%ほどの率で非麻痺型の無菌性髄膜炎になる場合があると言うが、実はこのあたりまで特に治癒後に影響を残すことはない。
 だが1%未満の低い確率で弛緩性の麻痺が生じるケースがあるとされ、まさにこれが ポリオの恐ろしいところなのである。命の危険とともに生涯に渡る後遺症を残すことが多い。そして中年期以降にかなり高い確率で筋肉の能力が低下するポリオ後症候群の発生がある。
大多数の自覚症状さえないケースにおいても、免疫を持たない他人に感染させる危険がある。またそのワクチン自体が生ワクチンであることから、ごく稀ながらポリオの免疫を持たない親が、ワクチン投与された自分の子供から感染して罹患してしまうというケースも耳にする。そのためどのみちすべての人々がポリオの予防ワクチンにより免疫を得ることは必須なのである。


 インドはこの病の最多発国であり、例年千数百名の患者が発生している。しかし興味深いことにその大部分がUP州西部の特定地域に住むムスリムに集中しているという。まるで特定地域のあるコミュニティに固有の病気みたいに見えなくもないが、確かにワクチン投与の普及を阻む土壌を持つ地域があることから、ポリオはある意味『風土病』であるのかもしれない。
 このほどグジャラート州のゴードラーで、ムスリムコミュニティに対して政府によるポリオ予防ワクチンを子供たちに投与させないようにという内容の『アラビア語で書かれたパンフレット』が出回ったという。これはさらにコピーされたうえで相当数配布されたとのことだ。現在聖職者たちがこのワクチンについての見解をまとめるところであるとか、インドで生産されたものではなく、イスラエルから輸入されたものであるなどとも書かれており、これにより(将来子供たちの)性的不能や不妊が引き起こされると警告しているのだそうだ。これを真に受けた人たちの中にワクチン投与対象年齢にあたる子供たちがあれば、今後のポリオ罹患者予備軍となっていくのだ。
 これをただの狂信者たちの仕業と片付けるのは簡単だが、こうした時期に同種の怪文書や噂などがいつも流布することの背景にあるものをたやすく取り除くことはできない。誤ったメッセージがそのまま宙に浮いてしまうことなく、これに従う人々もまた少なくないことには、マイノリティの中のごく一部の中に現在のインド政府に対する抜き差しならぬ疑義と不信と社会の分断の証でもある。
 ポリオ撲滅への道のりはまだまだ遠いことはもちろんのこと、社会のためまた個々の子供たちのためにぜひとも必要な予防接種ひとつ取ってみてもこうした状態であることに、インドという国をひとつにまとめあげることの難しさを垣間見る思いがする。
Next pulse polio immunization programme on Nov 12 (News Kerala)
Pamphlets ‘warn’ against polio drops (The Times of India)

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