悪玉センセイ

投降した女盗賊、プーラン・デーヴィーの彼女の半生を描いた映画『Bandit Queen』が制作されたのは1994年。その2年後に社会党から立候補して国会議員に選出され、これまた話題を呼んだ。2001年にニューデリーで殺害されるまで、『元犯罪者』の議員として何かと世間の耳目を集める人物であった。
はなはだ残念なことではあるが、インドの政治家の中には犯罪にまつわるさまざまな疑惑を抱える者(政敵に「まんまとハメられて」罪に問われるケースだってあり得るだろうが)『現役の犯罪者』は少なくないし、在任中に有罪判決を受けて服役する例も決して珍しいことではない。
目下、鉄道大臣として手腕を発揮しているRJDのラールー・プラサード・ヤーダヴにしてみても、元映画女優にしてAIADMK党首でもあるジャヤーラリターにしてもみても、これまで汚職その他のスキャンダルには事欠かなかった。清濁併せ呑む度量の大きさは、大国をまとめる大衆政治家の器の証としては言いすぎだろうか。
前者については、昨年だったか彼の大学生の娘のボーイフレンドが死亡した状況が不審であったということで、ひょっとして?という憶測が飛んだりもした。娘と付き合っている男性(大学の同級生)が一緒のキャンパスの友人カップルたちとピクニックに出かけた先の渓谷で急死し、川の中から遺体が発見されたというものである。死亡時の目撃者はいない。
ラールー・プラサード・ヤーダヴ率いるRJDの元RJD党員にして国会議員でもあったパップー・ヤーダヴは、対立する人物を殺害したかどで終身刑の判決を受けた。
コングレス、BSP、BJPと所属政党をいくつも変えてきたアマルマニ・トリパーティーは、元U.P.州政府大臣を務めたこともある有力政治家だが、やはり脅迫・殺人その他の大きな疑惑を抱えてきたが、2003年には不倫相手の女性を手下に殺害させたことにより。夫婦そろって終身刑に。
JMM党首で、元ジャールカンド州首相シーブー・ソーレーン。以前秘書として雇っていた男性を殺害して終身刑を受けるも、その後証拠不充分で釈放となった。あるいは明らかにヤバい人物、あるいは限りなくクロに近いグレーな人物が政治家であったり、しかもかなり高い地位を占めていたりする。


しばらく前に、マフィアの大物ブリジェーシュ・スィンがオリッサで逮捕されたとのニュースが話題を呼んでいた。彼の兄チュルブル・スィンはBJP所属のU.P.州議会議員、甥のスシールはBSPから同州議会の議員になっている。彼のライバルでもあり、UPのバナーラス界隈を根城として暗躍するこれまたパワフルなヤクザの親分、ムクタール・アンサーリーもまた無所属のU.P.州議会議員、ふたりの兄のうちひとりは社会党所属の国会議員、もうひとりは州議会議員でもある。どちらのマフィアも政治的バックグラウンドは強力だ。
ムクタール・アンサーリーもまた、ある意味飛びぬけた存在である。一見ごく普通の中年男性に見えるのだが、炭坑や建設業などを取り仕切るアウトローなお方。加えて暴動への加担と放火、恐喝に殺人といったさまざまな凶悪な事件に深くかかわってきた。
兄の政敵であり、ムクタール自身の宿敵ブリジェーシュ・スィンから資金面で協力を受けていたBJPの政治家クリシュナナンド・ラーイ(この人自身も犯罪的背景を持つ)の殺害事件にいたっては、前々から被害者本人がアンサーリーによる自身への襲撃の危険を広く世間に訴えており、死の直前にはこの二人の間の確執と合わせてインディア・トゥデイなどのメディアにも取り上げられていたくらいだ。それにもかかわらず、すぐ直後に殺害が実行されてしまった。
ムクタールは、昨年のU.P.州選挙において、獄中から立候補して見事(?)当選を果たすなど、地域の民意を集約できる力をも持ち合わせている。もちろん炭鉱や土建といった産業界との縁が深いこともあるのだろうが、彼の祖父はムクタール・アハマド・アンサーリー。インドを独立へと導いたフリーダム・ファイターのひとりとして国民会議派とムスリム連盟の党首をそれぞれ務めたことがある。偉大な愛国者として尊敬を集めた人物の孫だけに、父祖から引き継いだ地縁や人脈があるのだろう。少なくとも次兄のアフザルはこの祖父の地元を地盤としている。
ムクタール自身は無所属だが、友好関係にある政党を幾度も換えている。周囲や自身が置かれた状況に応じて自分を高く売る、世渡り能力の高さがこういうタイプの人物には求められるのだろう。
他にもラージャー・バイヤーことラーグーラージ・プラタープ・スィン(旧アワド王家と血縁関係にあり家柄は良い)やモハンマド・シャーブッデインといった比較的若いながらも数々の誘拐、恐喝、殺人等々の重大な容疑や疑惑を数多く抱える要注意人物が、逮捕、収監などを経ながらも、着実に政治家としてキャリアを積んでいる。
一部のこうした人物にサポートや重要なポストを与えたりする政界について、これを『腐敗』と見る人もあれば、これを『器の大きさ』ととらえる人もあるかもしれない。もちろんこうした悪玉センセイたちも、選挙区の人々に票を託されたがゆえの立場であるのだから、ある部分の民意を代表しているともいえるのかもしれない。
部分的なネガティヴ面のみを示してインドの政治がどうだと言うつもりはまったくない。 インドはまぎれもない世界最大の民主主義国であるし、高い理想を掲げるとともに立派な見識と人格を兼ね備えた政治家も数多いことだろう。
民主主義のプロセスや政治駆け引きのダイナミズムが実にヴィジュアルに、派手に展開されている面について、とても関心をそそられるものがある。もちろん日本にも疑問符の付く人物、アンダーグラウンドな世界とのつながりが揶揄されている政治家などは何人もいるが、往々にして幾重にもオブラートがかかっていて見えにくかったりする。
かといってインドの政界、政治家たちは何もかもあからさまというわけでは決してなく、水面下ではオモテに出てこない様々な動きが静かに、しかし重層的に進行していく奥深さがあり、何をとってもインドという国は興味深いなぁとつくづく思うのだ。
政治・・・といえば、インドのお隣りパーキスターンの総選挙は本日2月18日に実施される。こちらも無事に投票がなされるのか、公平な選挙となるのか、どういう結果が出るのか、その後パーキスターン政界はどういう風に再編成されていくのか等々、とても気になるところだ。本日の投票にしたところで『全国で平和裏に・・・』というわけにはなかなかいかないのだろう。今こうして書いているときにはピンピンしている元気な人が、選挙がらみの事件やトラブルで、明日のいまごろこの世からいなくなってしまっていたりすることは想像に難くない。
日本で『選ぶ権利』がまるでごく当り前のように与えられていながらも、政治に無関心でいることがとんでもない罪であるように思えてしまう。自分たちで選ぶということがいかに大切なことであるかをよくよく考えたうえで、信ずるにふさわしい候補者のために貴重な一票を行使するようにしたいものである。

「悪玉センセイ」への3件のフィードバック

  1. こんにちは はじめまして
    ゆかと申します。
    ネットサーフィンをしていたら
    このサイトにたどり着きました。
    2006年の8月16日の日記にありました
    インド国内の飛行機のキャンペーンというのは、今もございますでしょうか?
    はじめて見たものですから、衝撃で。
    よろしければ、お返事お待ちしています。

  2. こんにちは。
    マレーシアやタイなどといった東南アジアの国々にやや遅れて格安航空会社が乱立するようになったインドですが、今は格安航空会社がいくつもあり、それぞれ何かにかこつけていろんなキャンペーンを打ってますよ。
    ただしどこの国でもそうですが、あまりに安い料金が提示されているフライトは利用しにくい時間帯だったり、そもそもそういう価格で販売される席の数に限りがあったりします。やはり人目を引くためのツールみたいなものなので。
    それと料金以外に空港使用料やら保険料やらいろいろかかってくること、すでに予約した内容を変更する際の手数料がかかり、これがかなり高いことがあることもどうかおわすれなく。
    でも、こうした会社が林立するようになる前、大手会社が大空を支配していたころに比べて、便数は増えたし、ずいぶん安く飛べるようになったことは確かです。そのぶん空港がやけに込み合うようになったし、そのおかげで遅延もかなり増えたようですが。

  3. インドの政治家は恥ずかしいです。モラールが低くなり過ぎてもの言えない。
    誠実な方もいるけど、政治家として生きるためには、周りの汚職も見ないふりをしますね。昔はモラール高い人は結構いましたが。今の政治家と官僚たちの4割は必ず賄賂を取っていると思います。私は政治家が悪いというより官僚たちが悪すぎると思います。

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