車内の人間模様

 通路挟んで隣に座った家族連れの人たちは気の毒であった。夫婦と小学生くらいの息子の3人連れ。ガタゴトと揺れる車内で、携帯電話に入ったショートメッセージを深刻な表情で見つめていた夫は、それを深いため息とともに妻に見せた。とても驚いた表情をしていた彼女は、やがて泣き崩れてしまった。突然の出来事で落ち着かない表情の夫だが、子供と一緒に彼女の手を取り、しきりになぐさめている。
 なんでも奥さんの身内に不幸があったとのこと。本当はこれから空路マレーシアへと向かうつもりでコルカタに出てきたそうなのだが、急な出来事のためそれを取りやめなくてはならなくなったが、この列車の終着駅ハウラーに着いてからどうすれば良いのかわからず戸惑っている様子。
 こうしたことがわかったのは、向かいに座ったU.P.州在住のムスリム老夫婦連れがこのベンガル人男性と話をしていたためだ。ともかくこの人は妻をなぐさめつつ、また携帯電話で彼女の身内らと連絡を取りながらも、正面に座る老人に一部始終を話していたので事情がよくのみこめた。こんなシリアスな状況下でも実によくしゃべるものだと感心。
 周囲の人たちは悲しみに打ちひしがれたこの家族連れに気を使い、彼らの取るべき行動、彼の奥さんの実家へたどり着くためのルートなどについて、さまざまな助言を与えている。
 ついさっき車内に乗り込むときの座席をめぐっての殺伐としたムードとは打って変わり、暖かい人情味あふれる空間に入れ替わっていた。
 しばらくパニック状態にあった夫はしばらく考えた末、カルカッタの親族だか知り合いだかと携帯電話で連絡を取り航空券の手配を頼んだ。しばらくして三人分の席がジェットエアウェイズで確保できたとの連絡が入っていた。彼らがハウラーに着いたら電話の相手が駅で出迎えてくれて、そのまま空港へと向かうことになったそうだ。
 やがて列車はハウラーに着き、家族連れは相席の人々に見送られて駅出口へと急いだ。

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