『情報ノート』に想う 1

 インドを紹介するガイドブックは数多いが、東北部に特化したものはこれまで少なくとも日本語で書かれたものはなかった。
 このほど旅行人ウルトラガイドのシリーズの『アッサムとインド東部』が発行されたが、これが初めてのものとなるのではないだろうか。インド北東部七州のうちの四つ、アッサム、アルナーチャル・プラデーシュ、メーガーラヤ、トリプラーの各州の旅行情報が記載されている。おかげでこの夏以降、この地域を訪れる日本人が急増(?)するのだろうか。
 この旅行人ウルトラガイド/旅行人ノートと題するガイドブックのシリーズには『客家円楼』『海洋アジア』『西チベット』といった、旅行先としてはマイナーな地域をカバーしたもの、そして『シルクロード』『アジア横断』『アフリカ』のようにまとまった期間で長距離を旅するバックパッカー向けの本もあり、日本国内の他社から出たガイドブックとは一線を画している
 この中にはインドものもけっこう出ており、先述の『アッサムとインド東部』以外にも『ラダック』『インド黄金街道』『バングラデシュ』が発行されている。
 読者層が幅広く、利用者たちからの豊富やフィードバックも多いロンリープラネット社のような古参の大手会社と違い、新たなガイドブックを編纂するのはとても骨の折れる作業に違いない。それだけに手にとってめくってみれば、作り手の情熱や書き手の思い入れが伝わってくるようだ。旅行を産業として眺めた場合、かなりニッチな市場に特化しており、対象となる地域も記事内容もまた商売っ気がないのだが、旅に必要な情報を淡々と語る生真面目な旅行案内書だ。
 そんな飾り気のなさからだろうか、インターネット出現前に旅行者たちの溜り場に置いてあったり、コピーが旅先で出会う人たちの手を介して伝えられていったりした『情報ノート』を彷彿させるものがある。
 今ではちょっとネットにアクセスするだけで、いろいろな旅行関係のサイトや掲示板などで情報が入手できたり、何か大きな出来事が起きれば、まさに『今この瞬間』の情勢を伝えあったり意見を交換できたりする。だから書いた先から内容が風化してくる雑記帳の存在意義はなくなった。
 けれども『情報ノート』が重宝がられていたのはそんな大昔のことではない。世の中の誰も彼もがパソコンでインターネットに接続するようになり、どこに行ってもネットカフェの看板が見られるようになったのは、Windows95が発表とともに爆発的に売れ始めたころ、そう90年代半ば以降からのことだと記憶している。
 ともあれ、取材者(たち)が額に汗して現地をリサーチしてまとめてくれた旅行ガイドブックの価値は今も昔も変わらない。情報ノートの書き込み同様、これとて時とともに事情は変わってしまうのだが、大量の断片的な情報が手のひらのうえでひとつの本の中に系統立ててキチッと納まっていること、目次や索引などから必要な情報を必要とするときにすぐに取り出せることに存在意義がある。『案内書』とは本来そういうものだ。

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