シェカーワティーに行こう3 屋敷町の行く末は?

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 現在、ハヴェリーの主たちの多くはすでに外の土地へ出てしまっていることが多く、かつての使用人家族が番をしていたり、屋敷内の部屋を幾世帯もの他人に貸し出していたりといったケースが多いらしい。主が不在なので手入れは当然おろそかになる。貧しい間借人たちが、建物の特に壁に描かれた絵の保守に関心を持つこともないようで、ハヴェリーの内も外もひどく痛んでいることが多い。
 先述の元は寺院であった建物が他の目的に使われている例にもあるように、大型のハヴェリーの中には学校に転用されているものがいくつかある。一階部分の外側が店舗として利用されているものもあり、ペンキで書かれた屋号や下着や乾電池の広告のイラスト等が、美しい壁画の上に大書きされているのを目にすると胸が痛む。そうでなくとも厳しい日差しに焼かれて雨に洗われ、せっかくの見事な壁画が次第に失われていく方向にあることは間違いないようだ。
一部にはこうしたハヴェリーをはじめとしたこの地方独特の建造物を観光資源として地元の活性化に利用しようというアイデアはあるらしく、私設博物館として入場料を徴収したり、ホテルに改修したりするところも出ているようだ。だが今のところ、これらを地域の文化遺産として保存や修復しようという流れにはいたっていないようだ。 しかしこれらは私有財産であるし、今も人々が暮らす住宅であることから難しいのかもしれないが、このまま放っておけばカラフルなハヴェリーが建ち並ぶ景観はやがて姿を消して行くことだろう。また精緻な細工のなされた木製の扉や欄干などが本来あった場所から取り外されて、骨董品市場に流出しているケースも少なくないと聞く。こうした多くの屋敷の原型が失われないうちに、行政による何らかの手立てが必要だ。


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 保護すべき文化遺産に恵まれながらも、財政的に貧しいラージャスターン州政府には、こうしたひとつひとつの規模が宮殿などと比べて小さな建物の修復にまで手を差し伸べる余裕がないこともあるだろう。文化財同士が競合してしまうという、羨ましくも哀れな現実がある。シェカーワティーが見所に乏しい国や地域にあれば、内外からの観光客を呼び寄せる人気スポットとなっていたのであろうが。
 昔、カルカッタの博物館で目にしたある光景を思い出した。貴重な文化財が目白押しに陳列されているホールを出たところにある通路に、テーブルほどのサイズの大きなアンモナイトの化石が通路の端のゴロンと置かれており、しばしば入場者たちはこの上に腰掛けて休んでいた。てっきり化石風にあしわれたベンチなのかと思ったが、足元にはちゃんと説明の書かれたプレートがあった。れっきとした展示品であった。
インドはあまりに文化財や観光資源が豊富すぎるためだろう、「本流」を外れたところの歴史的遺産についてはずいぶん無頓着なところがある。
 東にはジャイプルやアーグラー、南にはアジメールやプシュカル、西にはビカーネールやジャイサルメールと、知名度の高い観光地に囲まれているがためか、観光地としてはまださほど手垢がついていない。時の政権や宗教勢力によるものではなく、民間の住宅であるため注目されにくいのかもしれない。
 しかしながらこの地域への交通の便はすこぶる良い。デリーのサライ・カレー・カーンISBT発のバスに乗れば6時間程度で到着するし、同じくデリーのサライロヒラ駅からジャイプル駅までを結んでいるシェカーワティー急行も利用できる。デリーを深夜近くに出発して翌早朝にナワルガル及びジュンジュヌに停車する。もちろんジャイプルからのバスも利用できる。周辺の他の観光地と合わせて訪れると良いだろう。デリー首都圏からマイカーで乗りつけるインド人観光客の姿もみかける。
 首都圏からの交通の便にもかかわらず、近年の経済成長の恩恵はまだこの地域に浸透していないようだ。「中産階級」が大都市で急増しているが、この地域にはそうした層がほとんど存在しないためもあり、またラージャスターン州内外の有名な観光地と違って訪れる人が少ないために、外食産業なるものはほぼ存在しないに等しい。
 食堂を併設しているホテルを除けば、外のバザールで見つかるものは、サモサとジャレビ、その他ナムキーン等の菓子少々という具合だ。素朴な田舎町の風情に浸ることができるが、食道楽にはちょっと寂しいものがある。
 
 なおシェカーワティー地方のハヴェリーその他を詳しくご覧になりたい方は、非常に優れた写真集がインドで出版されているのでご参照願いたい。
書名: SHEKHAWATI
著者: Pankaj Rakesh, Karoki Lewis
出版社:Lustre Press Pvt. Ltd.
ISBN:81-7437-003-X
<完>
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