ハリウッド白黒映画に見るインドの英軍

livesofbengalancer_.jpg
 モノクロ時代のハリウッド映画「ベンガル槍騎兵(The Lives of Bengal Lancer)」を見た。
1935年製作のこの作品は、若き日のゲイリー・クーパーが出演する英領インドを舞台にした冒険もので、相当好評であったらしく第8回アカデミー賞にノミネートされている。あらすじは以下のとおりだ。
……………………………………………………
 ストーリーはゲイリー・クーパー扮するベンガル槍騎兵第41連隊のマクレガー中尉に新しいふたりの年下の後輩たち、挑発的で生意気なフォーサイス中尉とやんちゃで子供っぽさの残るストーン中尉が加わったところから始まる。舞台は現在のパキスタン西部のアフガニスタン国境近くということになっているらしい。
 何かと先輩マクレガーの手を焼くストーンは、なんと連隊の所属する守備隊のストーン司令官の子息。しかし軍の中での規律を何よりも重んじる司令官は、息子への愛情とは裏腹に、周囲から自分の子に対するえこひいきととられるようのないよう、公平に振るおうと努める。その結果、周囲の人々から見ても不自然なほどに息子を遠ざけることになり、父親の「冷たい仕打ち」にストーン中尉は大いに失望する。
 そんな中、英軍からの武器弾薬の援助を依頼している地元豪族モハメド・カーンが、実は周辺の他勢力とともに守備隊に謀反を企てているという情報が、カーンの身辺に潜伏中のイギリス側のスパイからもたらされた。
 企みが露見したことを知ったカーンは、策略を変えて強引な手法に訴える。夜な夜な外出しては遊び歩くストーン中尉を捕らえられて人質にしたのだ。
 父親である司令官は「これは英軍をおびきよせて殲滅させる企みである」として、息子を救出するため自軍を展開することを拒否するとともに、彼に服従せず「それでも父親か!」と詰め寄るマクレガーには「軍法会議にかけるぞ」と脅しをかける。
 そこで一計を案じたマクレガー、「同志」のフォーサイスとともに行商人に変装してストーン救出へと向かうがすぐに相手に身元が割れて、ふたりも同様に囚われの身となる。
現地に駐屯する英軍への補給路を絶ち、武器弾薬を横取りしたいカーンとその手下たちは、物資輸送にかかわる機密を聞き出そうと三人の人質に厳しい拷問を加える。マクレガーとフォーサイスは必死に耐えたがストーンは簡単に口を割ってしまい、二百万発もの弾丸を含む大量の武器がカーンたちの手に渡る。
 装備で大幅に上回ることになった地元勢力を前にして、ストーン司令官率いるベンガル槍騎兵300名は、守備隊の存続を賭けてイチかバチかの大勝負に臨むべくモハメド・カーンの一味に急襲をしかけた。
 カーンの城砦の中で、マクレガーとフォーサイスは機知をめぐらせて牢獄から脱出。相手の機関銃を奪い敵兵を次々と倒す。カーンの弾薬庫に火を放ち大爆発を起こさせたマクレガーだが、英軍の進軍ラッパが響いてくる中で命を落としてしまう。
それまでまったくの厄介者の過ぎなかったストーン中尉は、マクレガーの死を無駄にしてはならぬといきり立ち、敵軍の混乱に乗じて不倶戴天の敵モハメド・カーンを首尾よくナイフで仕留めた・・・・。


……………………………………………………
 主題は英国の守備隊内部の人間関係なので「インドを描いた映画」とは言いがたいが、インドの植民地軍隊をテーマにした数少ない作品のひとつだ。現在はパキスタンとなっている北西辺境州あたりという舞台設定も珍しい。
 作品の性格上、地元兵を率いる白人軍隊=善玉、地元勢力=悪玉となっており、「支配者の視点による正義」が描かれている。白人勢力による支配に対して勇気を持って立ち上がるインドの同胞たちを取り上げたラガーンのような作品とは正反対のスタンスである。
 ちょうど「戦場にかける橋」にときおり出てくるヘンな日本語のように、しばしば出で来る「現地語」のセリフが怪しいし、登場するイスラーム教徒のありかたにしても町中や建物のセットにしても何だか奇妙であるが、ハリウッドというフィルターを通して描かれたのだから、まあそんなものだろう。
 手に汗握るストーリーが展開する中で主人公たちの熱き友情、親子の情と軍人としてのけじめとの板ばさみになって苦しむ親子の葛藤、規律と自己犠牲の尊さにスポットを当てている。70年もの長い時を経過してもなお色褪せない(白黒だが)冒険スペクタクル名画だ。
 原作のフランシス・イーツ・ブラウンによる同題の小説「The Lives of a Bengal Lancer」(ISBN: 089760976X)とあわせて楽しむのもいいかもしれない。
LivesOfABengalLancer.jpg

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください