店名から見るインド料理店

 前にIndo.toでも紹介していたが「全国インド料理店データベース」というウェブサイトがある。
 これをザッと見みると、日本にあるインド料理店には、「デリー」「ボンベイ」「ジャイプル」といった地名系、「クリシュナ」「ラクシュミー」「ガネーシュ」といった神様・人名系など、ありきたりな店名が多いことがわかる。
 海外の日本料理店に「YAMATO」「TOKYO」「FUJI」あるいは「SAKURA」「ZEN」といった看板をよく見かけるのと同じようなもの。お客さんが一目見て「○×料理だな」とわかるように名付けているのだろう。そんな中「グルガオン」(ハリヤナ州にあるデリーのベッドタウン)なんて名前を見つけると、「ローカルな味」を楽しめそうな気がして期待してしまう。


 以前、在日パキスタン人オーナーによる「インド・パキスタン料理店」について書いたが、同様にネパール人オーナーによるレストランも、「インド・ネパール料理」という看板を掲げていることが多いようだ。一口に「ネパール料理」といっても、この小さな山国は民族のモザイク状態。大きな食文化圏の境目にあり、ひとくくりにするのは難しい。
 日本側から見てヒマラヤより手前は「ダシの食文化圏」、向こうは「マサーラーの食文化圏」と区分けできるという人もいる。ネパールはまさにその境にまたがっているので、北インドとひとつづきの南ネパール平原部ではインドと同じようなカレーなどが、標高の高い地域ではチベット系料理であるモモ(肉饅頭)・トゥクパ(汁ソバ)・鍋物などが食べられる。つまり、異なる食文化が混在しているのだ。(ただし、東南アジアのミャンマー、マレー半島などでも印中両国の食文化が影響しあっている。「食文化圏」は安易に線引きできるものではないだろう)
 ともあれ「インド・ネパール料理店」でモモやトゥクパといったアイテムがあっても、実は厨房に立っているのは北インド系料理人で、インド料理に力点が置かれていることはけして珍しくない。「インド料理」という分かりやすいコピーを掲げることで客を集め、「ネパール料理」をというカラーで他店との差別化をはかっているのだ。
 ここ10年間ほどで日本のインド料理店はずいぶん増えたが、ムグライ料理やパンジャーブ料理といった北インドメニューが主体。地方色に欠けるため、どこで食べてもそう大差ないように感じる。
 むやみにレストランの数だけ増え、マンネリ化しつつある中、豪華なグジャラーティー・ターリー(味わいをうまく言葉で表現できないのは残念)の専門店などが都内にオープンしないものだろうか。そんな店ができたら「ヴェジタリアン料理とは、こんなに華やかなのか!」と日本人を驚かせてくれるに違いないが、目下そういう気配はないようだ。
 近年、着実に増えている南インド系ITプロフェッショナルたちの存在が、日本のインド料理事情に影響を与えてくれることを祈るばかりだ。
(OGATA)

「店名から見るインド料理店」への5件のフィードバック

  1. 地方色ある料理で、あまり日本では目にしないけれど、もし、あったら結構人気集まるんじゃないか…って思うものって、けっこうありますよねー。
    ケララ料理とかって、魚介類とか使うし、味付けも他の南インド料理に比べてマイルドなものが多いし、いけるのではないか!?…と。魚のバナナ葉包み蒸し焼き料理や、ふかふかのアッパム、ビーフンのようなイディヤッパムなど日本人の嗜好にあいそうだなぁ。
    いわゆる日本のエスニック料理世界の中では、タイ料理に続くくらいメジャーな位置になれるのでは…。

  2. 最近(というか、以前からですが)、一部のツウな人達が南インド料理、南インド料理とうるさいので(気を悪くされたらごめんなさい)、危うくこちらまでマインドコントロールされそうになってしまいましたが、やはり私は自分に正直に生きたいです。誰がなんと言おうと私はリッチでコテコテのパンジャーブ料理が好きです。
    誰も私のことなんか聞いてないかとは思いますが

  3. ツウな人ではありませんが(苦笑)、アーンドラ料理ファンです。すいません。
    マインドコントロールする気もないし、別に分かってもらいたいともそんなに思わないのですが、折角地方色豊かなインド料理なのに、日本では限定された地域の食べ物しか紹介されないのは寂しいなぁ…と思っています。
    「インド料理」ではなく、「パンジャーブ料理」「グジャラーティー料理」「アーンドラ料理」「ベンガリー料理」「ゴア料理」「シッキム料理」などなどそれぞれの地方の括りで料理店が選べたら面白いのになぁ、と思います。(理想、もとい妄想ですが)
    別にパンジャーブ料理が駄目だ!という話ではないで、自信を持ってパンジャーブ食い尽くしてください。別の国の食べ物だと思っていますから、食べたい人は食べればいいわけで。

  4. ご理解ありがとうございます。確かにそうでうよね。
    しかしいるのです。1部のツウな人の中には、自分の価値観を押し付けてくる輩が。
    それはそうとして、「アンドラ料理」などの地方色をだすというのは、大都会ならともかく、地方都市では難しいのではないでしょうか?
    地方都市の飲食店は、土日以外は全く客が入らない状態。
    1日の来客数が10にも満たないということも珍しくありません。
    そんな状況なので、オーナーは知名度の高いムガルやパンジャブ料理を選択するのではないでしょうか。
    いや、あくまでも推測ですので、お構いなく

  5.  実は私もリッチで味わい深いパンジャーブ料理とムガル料理が一番好きなのです。
    ただ、ちゃんとしたインド料理専門店が珍しかった昔と違い、いまはあちこちに沢山できているので、料理の種類がもっといろいろあったらなぁ・・・と思うのです。
    インド料理とひとくくりにしてしまうにはもったいないくらい、いろんなバリエーションがありますし。「多様性の国」と言われる割には、日本でのインド料理事情はずいぶんまとまりが良い(?)みたいですから。
    しかしwasiさんのおっしゃるとおり、客層が幅広くてインド料理屋を頻繁に利用してくれるお客が多い大都市圏でないとムズカシイでしょうねぇ・・・。

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