いいバスは嬉しい

ASTC Rhino City Service
以前、シリグリーから国道31号線でビハール州のキシャンガンジ経由で南下するバスに乗っていたとき、コルカタへつながる34号線と交わるあたりでアッサムのバス公社に陸送される市バスの一群を見たことがある。凹凸が少なくツルンときれいなフォルムの低床バスだ。ボディは赤と紺に塗り分けられてASTC RHINO CITY SERVICEと書かれており、前後の間隔をゆったり広く取った大きめのシートはクリーム色。ヨーロッパの街中で見かけそうなモダンさと快適そうな様子に、ひどくインド離れした印象を受けた。
それと同じタイプの車両を、今回シブサーガルのバススタンドで見た。そのまま日本に輸出して東京都内を走っていてもおかしくないくらい良いバスだ。こんな田舎町で何故?と不思議に思ったが、近郊地域を結ぶ中距離バスとして使われているらしい。フロントガラスに向かって左側に置かれたプレートにはベンガル文字を用いるアッサミー語で「シブサーガル」「・・・・」と往復する地点が書かれている。前者はなんとか見当がついたものの、後者は読めなかった。やはり字くらいは覚えておくと便利かもしれない。


ゆったりした車内
今日はグワーハーティーに向う。私が乗るバスはどんな具合かとぼんやり待っていると、やってきたのは感動的なほど素晴らしいバスだった。とても新しくシートは右側二列、左側一列である。クロス貼りの座席はリクライニング付き。インドのバスとしては足元のピッチも広く悠々と足を組むことができる。
『おお!これはいいなあ』と背もたれを大きく傾けたり、クロスを撫でたりしている私をよほど田舎者と見たのか、他の乗客が『この路線にはヴォルヴォのバスだって走ってるんだぜ』と自慢気に声をかけてくる。さきほど乗車券を買うとき気がついたのだが、シブサーガル始発で各地に向う長距離バスは多い。ただの田舎町と思っていたが、ここアッサムにあってはかり重要な『都市』なのかもしれない。
ASTCの長距離バス
自分が乗ったバスが大当たりであることに気をよくしていた私だが、よく見ると急速に『標準化』が進んでいることを否定できないのは少々悲しかった。理由はただひとつ掃除をしていないからである。シートはもちろん天井や壁もスチールのむき出しかペイントしただけのものではなく、ちゃんと丁寧にクロスが貼られていることが災いしてどんどん汚くなってしまうだろう。窓枠にはパーンを吐いた跡もあるし、私の前の座席の背面には汚れた手を拭いたような跡がベッタリと付いている。お客たちはもう少し大切に使い、バスのスタッフはちゃんとメンテナンスすれば良いのにと思う。
窓の外に目をやると、同じタイプの車両はいくつか目に入ってくるのだが、けっこうくたびれた感じのバスも少なくない。やがて『席が広いボロバス』に成り下がってしまうのだろう。
運転台への入口ドアには 「シブサーガル発午前8時15分、グワーハーティー発9時15分と書かれている。アッサム公営バスとはいえ、車両と運行は州公社の事業を請け負った民間業者によるものらしく、半官半民のバスということになる。近ごろはどこに行っても(インドに限らず)民営化が時流だ。
右斜め後ろには地元の10代後半くらいの姉妹が乗っており、可愛いスピッツを連れている。バスの中で行儀良く抱っこされている。ときたま何かに吠えたりするものの、概ね「いい子」にしていて感心だ。姉妹の間でしばらくキョロキョロしていたが、こういうバスだとペットも気が楽なのかすぐに寝入ってしまった。私を含めた乗客たちも全席指定で身体的に楽なバスなので気分的に余裕がある。ひた走るバスの中で終始リラックスした和やかなムードであった。
同乗のスピッツくん
通過したのはずっと平坦な大地だ。グワーハーティーへ向う国道37号線の広くてスムースな路面を滑るようにしてバスは進んでいく。途中幾度か茶畑が広がるエリアを通った以外は、農閑期の茶色い田畑と豊かな緑が左右に広がるのどかな風景だ。沿道の様子はインドの他の地域とあまり変わらないようだが、雨季の降雨量が非常に多いので切妻型の屋根、つまり東南アジアによくある家屋の真ん中を頂点として左右に勾配がついたトタン屋根が多いことが特徴だ。もちろん大きな建物はインド中、いや世界中どこにでもある鉄芯入りのコンクリートの枠とレンガ積みの壁からなるものが主流だが。
グワーハーティーが近づいてくるころひとつ丘陵地を越えた。そこではなぜだか家やアパートや会社らしき建物などすべてを取り壊している。もともとそれらの建物が違法であったものなのか、それとも何かの目的で土地が政府に接収されたものなのかわからない。あたかも大地震で倒壊したかのように、すべて取り壊している様は異様だ。やがてバスはグワーハーティー郊外に入ってきた。

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