小売外資規制緩和 日本からも熱い視線

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 インドの街並みを特徴づけるものとして、商業地域を担う主体が小規模な小売業者たちであることが挙げられるだろう。近ごろインドの都会に林立するようになった大型のショッピングモールにしてみても、喧騒の街角ではなく静かでモダンな建物の中であるという『器』が違うこと、多くがこぎれいで洒落た店であることを除けば、個々の業者たちが規模の小さな商いをしていることに変わりはない。
 日本のヨドバシカメラ、ビックカメラといった電化製品の総合アウトレット、あるいは大手ディスカウントストアと呼ばれるロヂャースやドンキホーテのような店舗、西友やダイエーといった大型スーパーのような大規模小売業者は見当たらないし、同一の看板を掲げて傘下の店舗を全国規模で展開するフランチャイズ式の商売も、ファストフードや携帯電話の販売店などを除けばあまり見ることができないのが従来のインドであった。一見これらに少々似ているものも確かにあったのだが、正確には従来型の規模の小さな小売業者がやや大型化したものという位置づけになるだろう。
 乱暴に単純化してしまえば、主要駅前や繁華街などに大型商業施設がドンと構えて地元商店街を睥睨する、いわば『大>小』『会社>個人商店』というシンプルな対立軸の中におけるある意味安定した華夷秩序的な構図が日本の街中風景とすれば、ひとクセもふたクセもあるオッサンたちや明日を夢見る血気盛んな若者たちが群雄割拠して、絶え間なく衝突しながら浮沈を繰り返す活気溢れる状態なのがインドの街中ということが言えるのではないだろうか。
 そんなインドは世界第八位の小売市場と言われる規模の巨大さから、小売業を生業とする海外企業からも今後の市場開放がどのように進むのか大いに注目されている。今年1月には単一ブランドを販売する場合おいては51%を上限とする外資本の参入を認められるようになったものの、ウォルマートのような外資の大型店舗による小売業者の進出を認めるところにはまだいたっていない。
 とはいえ、小売外資規制緩和が『あるのか?』ではなく、すでに『すぐ目の前!』という差し迫った状態になる中、近ごろ本格的なスーパーやコンビニをチェーン展開し始めた国内勢力が、やがて始まる外国企業による攻勢を迎え撃つ地盤を固められるようにと政府が時間を稼いでいるのが昨今である。
 風雲急を告げる中、『日本小売業協会』による『インド最新流通視察ツアー』なるものが来年3月に予定されている。欧米の郊外型アウトレットを展開する企業が進出を控えていることを踏まえたうえで、同種の事業を急ピッチで進める国内財閥系企業の動きを学ぶとともに日本の小売関連企業の進出の可能性を探るのがこのツアーの趣旨らしい。
 近い将来、デリーやムンバイーなどで『伊勢丹』で買い物したり、夜半に『ファミリーマート』にノコノコ出て行き弁当を買ったり・・・といった日常がフツーになってしまうようなことがあるのかどうかわからないが、インドのすぐ東に位置するアセアンの国々の都会ではそれなりに長い時間をかけて(国や地域によって時期はさまざまだ。第二次大戦後間もなくからという地域もあれば、日本や欧州が『戦後』から抜け出した60年代からというところもある。あるいは80年代以降の好調な経済成長を受けて外国資本の注目を浴びるようになった国々もある。ともあれ東南アジアでは外国企業による小売業のチェーン展開や大型総合店舗の上陸という現象がかなり前からジワジワと進行してきたことになる。その中で進出企業の『撤退』まで数多く経験している。
 これに対してこれまで数々の規制等により『未開地』として残されてきたインドでは、多くの国々が経てきた数十年におよぶ時間を飛び越えて一気に奔流にさらされることになるため、相当大きなインパクトを受けることは容易に想像がつくものの、実際それがどれほどの規模のショックとなるのかちょっとわからない。もちろん地域や業種によっては細々と単品あるいはごく限られた品数を小売しているだけでは商いが成り立たなくなるケースも出てくるのだろうが、影響は決してそれだけではなく『インドで流通革命!』と表現されるような一大事が起きるのではないだろうかとも思う。
 もちろん外資をはじめとする大型商業施設が林立してみたところで、従来の小売業者たちがいなくなってしまうわけではないのは日本のみならず東南アジアの国々を見てもわかるとおり。また外国企業や国内大手資本がターゲットとする中間所得層よりも下の部分には貧困層を含むさらに膨大な人口を抱えているが、彼らまでもが新しい顧客層として取り込まれるわけでないことは言うまでもないだろう。それでも商業地内での力関係が、それ以前の『群雄割拠型』から『華夷秩序型』へとシフトすることは間違いないように思われる。
大型商業施設の進出は、小さな店舗で客を待つ『一国一城の主』たちにどの程度の影響を与えるのかは今後人々が目にしていくことになる。そして街中の風景も今後ずいぶん変わっていくことだろう。

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