２０年ほど前の『エスニックブーム』以降、またバブル以降には海外旅行する日本人や仕事や留学その他で来日する外国人が急増したことなどもあり、日本の都会では世界各国地域の料理がオリジナルに忠実とはいわないまでも、一応それらしきものを試すことができるようになっている。
従来から外国料理としてはもっともポピュラーな中華料理も幅が広がった。日本在住の中国系の人々の数が増えるのに比例して、北京、四川、上海、台湾と様々な地域色を主張する店が増えているし、それらの多くはやはり華人たちの経営する店だ。
上野や大久保では延辺料理なる看板を掲げるところも見かける。これは中国東北の朝鮮族料理の専門店で、ちょっと日本の焼き鳥を思わせる串焼き肉がビールのおつまみに最高だ。
さいたま市にはウイグル料理の店もあり、ラーグー麺というトマト風味のアンかけうどんやプラオ、サモサ（ウイグル式の）などを食べることができる。こちらは現在閉店しているという話も聞くが、実際のところどうなのだろうか。
ともあれ日本の中華料理の世界はなかなかディープになってきた。
韓国料理も旧来の焼肉一辺倒ではなく、野菜をたっぷり使う家庭料理を出す店も増えている。全州が本場と言われる（在日韓国人の発明という説もある）石焼ピビンパプをはじめとする『ピビンパプ』類については単品で独自の地位を築きつつあるようで、ピビンパプ専門店もチラホラ見かけるようになってきている。
モンゴル料理もなかなかいける。中華料理と見分けがつかないメニューも多いが、いかにも遊牧民らしい骨付羊肉の豪快な盛り合わせ料理もある。みんなでワイワイ取り分けながら馬乳酒ならぬモンゴル直輸入の牛乳酒をグビリとあおるのも楽しい。
東南アジア料理についてもタイ東北地方、いゆわる『イサーン』料理を名乗る店がいくつか出てきているし、特に東南アジアの華人たちの間でポピュラーな料理『海南鶏飯』専門店も見られるようになっている。
おそらく他国の料理についても『××国料理』という大枠の中からさらに一地方に特化してローカル色を出したものがいくつもあるのではないかと思う。
アジアの中でもとりわけヒマラヤの東側の地域はダシの食文化圏といわれるだけに、味覚に共通する部分が少なくない。そのため私たち日本人の舌に合う料理が多いのかもしれない。あるいはアジア東部の食文化は濃淡の差こそあれ中華料理の影響を受けているため何を食べても『どこか懐かしい』あるいは『判りやすい』おいしさが感じられるのだろうか、とも想像できる。
そうした中、日本にありそうで、その実なかなか専門店が見当たらないアジア料理といえばチベット料理だろうか。巷にあふれる『インド・ネパール料理屋』でチベット風のメニューも提供しているところはいくつもあるが、『チベット料理』を掲げた専門店は少なくとも東京周辺ではまだ見たことがない。
インドではチベット仏教の最高指導者ダライラマはもとよりチベットから流入した人口が多く、昔から国内にいるチベット系少数民族も抱えているため都市部、仏蹟、ヒルステーションなどでチベット料理の店が沢山あるのとは対照的だ。日本における馴染みの薄さは居住する人口が少ないことも大きな理由のひとつであろう。
チベットの食生活にはバター茶のような国民的飲料やツァンパ（麦焦がし）のような固有のものも少なくないが、モンゴル料理がそうであるように、チベット料理も全般的に中華から入ってきたアイテムが多く、餃子や肉饅似たもの、汁ソバや焼ソバの類もあれば、ギャコックという鍋料理もある。
私にとって中華料理との違いといえばマトンをよく使うこと、中華料理ではほとんど使うことのないチーズをよく使うこと、肉などの臭みをあまり気にしないためか出来上がった料理からは素材のストレートな味がすること、魚料理はあまり見かけないことくらいだろうか。
もっとも私が言うところのチベット料理とは、インドやネパールで味わうものなのでそれらの多くはインド化されたものであるのかもしれない。
ところで日本にもチベット料理の専門店はないものだろうか・・・と調べてみると京都に一軒存在することがわかった。
……………………………………………………………………………………
チベットレストラン『ランゼン』
所在地：京都市上京区土手町丸太町下ル駒ノ町554-3
電 話：075-256-0859
営業時間：11:30〜14:00,17:00〜22:30(火曜定休)
……………………………………………………………………………………
京都を訪れる機会があれば（あるいはお住まいならば）お店まで足を伸ばしてみるのもいいかもしれない。私も近くまで行く用事があればぜひ一度立ち寄るつもりだ。またチベット料理について『他にもこういうお店があるよ』といった情報をいただけるとありがたい。