ついさきほどアップロードした『退屈は幸せだ』の続きである。
本日、11月27日に元首相のV. P. Singhが亡くなった。それがごく小さなニュースに見えてしまうのは、現在進行中のムンバイーでのテロ事件のインパクトがあまりに大きいがゆえである。
現在までのところ、デカン・ムジャヒディーンという聞きなれない名前の団体が犯行声明を出しているものの、おそらく偽名に違いないとするのが大方の意見のようだ。アルカイダによるものではないかという推測、インディアン・ムジャヒディーンのことではないかと疑う説なども出ている。
だが今の時点ではテレビニュースで真実味をもって語られているのが、カラーチーからやってきてグジャラートに上陸した男たちが昨夕ムンバイーに到着し、深夜前後から犯行を開始したという説だ。
武装した男たちの集団が一気に突入して無差別銃撃を開始、武力でターゲットを占拠してメディアのカメラを目の前にして、時間をかけて人々に最大限の恐怖心を与えたうえであげくに玉砕という、テロ行為の多くの部分が『中継される』というヴィジュアルな効果を計算したうえでの新しいパターンのように思える。
またある種特別な場所でありながらも、宿泊客以外の不特定多数の人々がごく普通に出入りするのが当たり前で、そこを舞台に大きな事件が起きれば世間の注目も大きな高級ホテル、しかも国際的にも有名な五ツ星ホテルを標的にするというのも、今後の『トレンド』になるのではないかという悪い予感をおぼえるのは私だけではないだろう。
21世紀に入ってから最初の9月に起きたアメリカの同時多発テロその他の航空機を狙ったテロが続いた後、乗客に対するセキュリティチェックはかつてないほど厳しくなった。その結果、以前のような大胆な犯行は実行しにくくなっている。そこにくると相変わらず『甘い』のは、常に不特定多数の人々が出入りする都市におけるセキュリティである。
その『危険に満ちた』街中で、バーザールの一角を吹き飛ばすよりも大きな効果が考えられるのは、やはり有力者、セレブな人々、富裕な外国人が出入りする特別な空間ということになるだろう。
昼間、今回の事件に関する報道を読んでいると、犯行グループは現場でアメリカ人とイギリス人を特に重点的なターゲットとしたことを示唆する記事が複数あった。まともな考えを持つ人にしてみると、国籍を理由に狙われるなどということは、あまりに不条理に過ぎるが、彼らにとってはどちらも『象徴的』な意味があるのだ。そのためにも国際的に広く知られた高級ホテルという場所は都合が良いことになる。
国外に与えるネガティブな印象も相当なものだろう。本来ならば『セキュリティがしっかりしている』とされる最高級ホテルを舞台に未曾有の惨劇が展開された。本来ならば街中でヨソ者にとってもっとも安全であるはずの空間が最も危険な空間に早変わりしてしまった。
その結果、普段インドとの関わりがない国外の人々に対してこの事件ひとつで『恐ろしく治安の悪い国』というイメージを植えつけることになる可能性が高いことは容易に想像できる。
現場となったふたつのホテルに至っては、事件後に原状復帰してみたところで、商売にならないのではないだろうか。元々の姿を感じさせないほどの大規模な改修をするか。あるいは建て直しでもしないとこれまでのような形では営業できないのではなかろうか。
今回の事件が鎮圧された後、これら現場となったホテルに取材陣が入る。犯人たちが立てこもっている間に起きたであろう建物内での陰湿な残虐行為のすべてがメディアを通じて生々しく描写されるのだ。きれいに修復されたとしても、そんなところに誰がわざわざ泊まりたがるだろうか。
今後各種メディア等を通じて事件の様々な背景が読み解かれていくことになるのだろうが、その結果がどうあれ、ムンバイーのみならず全インドに大きな影響を与える凶行であることは言うまでもない。
このところの世界的な不況を受けてのインド国内における経済成長の急な減速の中、テロによる海外からの投資意欲の減退を引き起こすだろう。すでに始まっている6州(チャッティースガル、マディャ・プラデーシュ、ラージャスターン、デリー、ジャンムー&カシミール、ミゾラム)の行方はもちろんのこと、来年5月までに予定されている国政選挙についても、大きな影を投げかける。
テロ対策についての弱腰を野党陣営とりわけBJPをはじめとするサフラン勢力にとっては、こうした注目度の高い事件は『追い風』として作用する。
また今回の事件のお膝元であるムンバイーで、過激なマラーター至上主義で大いに物議を醸しているラージ・タークレー率いるMNSも何らかの漁夫の利を狙って今後いろいろと画策するのではないだろうか。
テロリストたちが『カラーチーから船で渡航してグジャラートに上陸』したものだとする説など、パーキスターンあるいはそこをベースとするグループによる犯行という見方が有力視されるようになれば、ここしばらく良好であった印パ関係にも深刻な影響を与えることは必至であるし、政府は関与を否定してもパーキスターン当局の『当事者能力』にこれまで以上に大きな疑問符が付くことになる。
近視眼的な見方ではあるが、クリスマス前後の休暇シーズンを当て込んでいる観光地にとっても深刻な打撃を与えることになるかもしれない。外国に暮らし、普段インドにあまり馴染みのない人にとっては、インドで何か大きなことが起きると、極端な話たとえ自分が訪れようとしているのがアンダマン&ニコバールであっても『ああテロが起きたからやめておこう』ということになるかもしれない。
クリスマスには欧州から直行のチャーター便も飛ぶゴアにいたっては、地理的にも近いことからキャンセルが多発するのではないかと心配している観光関係者も少なくないのではないだろうか。
このような事件がインドで起きたことについて、個人的にも非常に深い悲しみを感じずにはいられない。こうして書いている今も、事件はまだ鎮圧されておらず、ニュース番組の画面からは、闇夜の中で治安部隊が必死に解決へと努力を重ねている様子が伝えられている。突然、オベロイ・ホテルの窓から大きな火の手が上がるシーンが映し出された。
明日になれば、すべては当局のコントロール下に収められ、次第に被害の全容が明らかになってくるのかもしれないが、それはすべての人々を非常に陰鬱な気分にさせるものであろう。突然起きた想像もできなかった大事件で亡くなった方々についてはご冥福をお祈りするしかないが、あまりに不条理なこの世との別れだ。本人たちはもちろんのこと、ご家族の方々の気持ちを思うとなんともやりきれない。
今回の事件がインドにとって何かひとつの大きな転機となるのかどうかはわからないが、このテロによりインドが失うことになるものは非常に多く、そしてあまりにも大きすぎる。
いずれにしても今回のテロは手口、規模、影響力からしてこれまでのそれとは大きく違う。それはテロ行為の進展が『中継』されているということに留まらず、現場には軍の部隊まで展開していることからも見て取れる。テロ事件というよりもむしろ武装グループが仕掛けた『市街戦』と表現しても大げさではないと私は考えている。
11月28日(金)インド時間正午過ぎになってもまだ占拠は続いてます。これまでかなりの数の人質が解放されているようですが、ニュースの情報も錯綜しています。
タージホテルからは全員脱出と伝えられていましたが、実はまだ旧館のほうには人々が閉じ込められているとのこと。ダンスフロアーにテロリストが潜んでいるらしいとも。
ホテル外で遠巻きにズラリと並ぶメディア陣。午前中の映像ですが、ナリマーン・ハウス(ユダヤ教施設)屋上にヘリコプターから降り立つマリーン・コマンドーたちの姿。
今はもう、この事件が早く終結してくれることを願うのみです。
私は普段無宗教でありますが、このような形で突然命を奪われた被害者の方々の魂が、どうか天に導かれ安らかなることを祈らずにはいられません。
さらに個人的な希望ですが、元々はインド人の誇りから建設されたタージマハル・パレス・ホテル、100年以上あの場所でインドの歴史と共に生き残ってきたのだから、今回のテロの被害に屈せず、ぜひ完璧に元通りの姿に復元して頂きたい。
そしてまたこのホテルを訪れ、以前の活気を共に取り戻したいと思う。