異星の生き物

1898年発表の古典SF小説の名作、THE WAR OF THE WORLDSで、著者であるイギリス人作家H.G. ウェルズは火星人による地球侵略を描いた。秀逸な作品であるがゆえに、映画が一般化する前のアメリカでラジオドラマになったり、幾度か映画化されたりしている。
それらの中で最近のものといえば、スピルバーグ監督による2005年のWar of the Worlds (邦題『宇宙戦争』)である。

この作品を観たとき、子供の頃にUFOや宇宙人の話を本で読み、広い空のどこかで奇妙な動きをする物体を見つけることができないものかと目を凝らしてみたり、宇宙人と出会った夢などを見たりしたことなどを思い出した。映画の中の宇宙人たちは、子供心に描いていた平和で友好的なものではなく、地球への侵略者たちであったが。


話は、主人公の男性と子供たちがいる町が、奇妙な連続する稲妻と落雷に襲われることから始まる。雷の落ちた地点から、大地を引き裂いてトライポッド(三つ足、三脚)と呼ばれる三本足のロボットが出現する。これに驚いてカメラやビデオなどを向けている人々に対する襲撃が始まる。ロボットが発するレーザー光線を浴びると、衣類だけを残して人間の肉体が消失してしまう。映像効果、音響ともに迫力に満ちたものであった。
トライポッドは、同時に世界中で出現しており、世界各地からの被害のありさまがニュースで流れる。映画の舞台となっているアメリカでは、軍が出動して宇宙人たちへの反撃を試みるが、私たちよりも高い知能と発達した科学を持つ彼らに対抗することはできず、人々は、成す術のないままどんどん追い込まれていく。
もはや人類滅亡か・・・と思われたころ、どうしたことか圧倒的に優勢だった宇宙からの侵略者たちが、次々に力を失って自滅していく。最後に残ったトライポッドから出てきた宇宙人が、外に姿を現したかと思うと、体中からおびただしい出血(?)とともに息絶える、といったあらすじの作品である。宇宙人たちが自滅していったのは、地球上に存在する微生物という彼らの想定外の『敵』により、相次いで感染症にかかって病死したということになっている。
その微生物とは、地球上に普遍的に存在するもので、この星で悠久の彼方の時代から暮らしてきた私たち人間をはじめとする多くの生き物は、それに対する免疫を持っている。しかし外界からやってきた宇宙人たちには、その免疫が全くなかったという設定だ。
映画の始まり部分で描かれた主人公の個人的な家族関係にまつわる部分から、突然の不可解な稲妻の発生、得体の知れない侵略者たちの登場、彼らが繰り広げる暴虐の数々と人類に及ぼすおびただいし被害のありさまと、息をつく間もないスピード感とスリル溢れる展開、そして窮地に追い詰められ、人類が絶体絶命のピンチに追い込まれるクライマックス部分まで、スケールの大きな展開が繰り広げられていた。
しかし、エンディングは人類が存亡を賭けた決戦を果敢に挑むという、ヒーロー役の機転、正義感、加えて火事場のクソ力で逆境を跳ね返すといったハリウッド的な手法ではなく、主人公を含めた登場人物たちが、異星からの侵入者たちに対して劣勢挽回の強烈な一撃を加えることなく、当の宇宙人たちがいつの間にか微生物に感染して全滅という、他力本願な結末であったため、スピルバーグ作品としてはちょっと不評であったようだ。
だが、ちょっと考えてみるまでもなく、実はかなり現実的なストーリーかもしれない。目に見えない微生物は、なかなか厄介な存在であり、これまで出会ったことのないウイルスや細菌に出会うと、思わぬ災厄が発生することがある。
地球上に昔から存在してきた動植物であっても、それまで人類と出会うことがほとんどなかったというケースは珍しくない。それがゆえに新たな種類の魚類なり、草花などが『発見』されることとなる。これが肉眼で見ることのできない微生物ともなると、なおさらのことだろう。
ごく人々の生活圏が拡大し、以前は人々が住んでいなかったところにまで開発の手が及ぶようになると、それまで知らなかった微生物に邂逅することもある。ときにはその小さな生命体が、重篤な感染症を引き起こしたりもする。例えばアフリカの特定の地域に棲む霊長類の間でのみ感染していたエイズウイルスが、人類の間でも広がるようになったように。
また、限定された地域内で人々の間で流行する風土病であったものが、人々の行動範囲が拡大することにより、世界的に広がるようになったものもある。新大陸を発見したコロンブス一行が欧州に持ち込んだとされる梅毒がその好例だ。
東西冷戦時代に、アメリカとソ連による宇宙開発競争が始まり、軍事目的もさることながら、両国の国威発揚、緊張関係にあった東西両陣営の文化・科学技術の優越性の誇示の目的等もあり、各種人工衛星の開発、月、火星、金星等の探査等々、華々しいプロジェクトが続いた。
冷戦構造の終結後は、スペースシャトル、国際宇宙ステーション等々のプロジェクトにより、多国間の協力のもとで様々な試みや研究がなされるようになっている。従来から宇宙開発に取り組んでいるアメリカ、ロシア、フランス、日本等に加えて、同時にインドや中国のような国々もこの分野に進出し、商業目的のみならず、宇宙スペースでの軍拡競争の様相をも呈するようになってきている。
インドでは、バンガロールを本拠地とするISRO(Indian Space Research Organization)が、衛星通信・テレビ放送、気象データ収集、軍事偵察等々、様々な目的の人工衛星を軌道に乗せている。昨年10月に月探査のためにチャンドラヤーン1号が打ち上げられたのも記憶に新しい。
他にも韓国、ブラジル、イラン等も宇宙への進出を試みているとともに、従前は国家が取り組むプロジェクトであった宇宙開発に、民間会社も独自に参入する動きが出てきていることは特筆に価する。リチャード・ブランソンによるVirgin Galacticがその一例だ。途方もない費用を負担する経済力があれば、宇宙旅行が可能となる日はそう遠くないらしいが、いつしか庶民にも手の届くものとなるのだろうか?
『宇宙人っているのかな?』『他の星にも生き物がいるんだろうか?』と素朴な好奇心を抱いていた人類が、今や盛んに宇宙に進出している。宇宙を有人飛行する機体や国際宇宙ステーションなどで作業する人々は、まさにUFOに乗った宇宙人たちである。
そんなわけで、今や人類が地球の外の生命体に邂逅する可能性はかつてなく高いものとなってきているらしい。だが子供たちが夢見る『宇宙人』のような高度に知的な生命体に出会うよりも、微生物を発見するチャンスのほうが近いだろうと誰もが思っていたが、ついに後者がより現実味を帯びてきた。
以下、11月27日にイギリス紙Timeのウェブ版が報じたニュースである。火星からの隕石に、バクテリアのような微生物が存在した痕跡が認められるということだ。
Evidence of life on Mars lurks beneath surface of meteorite, Nasa experts claim (Times Online)
異星に生命体!ということで、ちょっとワクワクする報道ではあるが、それが生きたままで地球に持ち込まれるようなことがあると気にかかるのは私だけではないだろう。それが私たち人類に重篤な病気をもたらすもので、感染した人々が次々に治療法不明の激しい症状とともに命を落としていく・・・といった、先述のスピルバーグ監督の作品『War of the Worlds』で死滅した宇宙人のようにならないまでも、自然環境や在来の動植物に悪い影響を及ぼさないかということだ。
近い将来、私たちがその存在を確認することになるかもしれない異星の生命体とは、果たして私たちにとって友好的かつ有益なものなのか、それとも敵対的で災厄をもたらすものなのだろうか。

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