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投稿者: ogata

  • インドでアーディワースィー(先住民)の大統領誕生なるか?

    次期のインド大統領選について、ちょっとビックリするニュースが入ってきた。先住民の女性がインド大統領、つまり形式上は英領時代の「インド総督」の立場に相当する存在であり、国家元首である。

    インドの先住民族のひとつであるサンタル族出身の女性が、そういう立場に就く可能性が高いのだ。BJPを中心とするNDA(National Democratic Alliance)と国民会議派が率いるUPA(United Progressive Alliance)がそれぞれ候補を立てて、国会の上院と下院、連邦直轄地の立法議会の議員及び各州の立法議会の議員による投票により選出される。

    出馬することが決まったのはBJP所属の先住民女性、ドラウパデイ・ムルムー氏。政治に関わるようになったのは出身のオリッサ州でBJPに加入し、同党のオリッサ州組織の先住民部族部会の長を務めるまでになった。

    BJPが駆け出しの頃には都市部の中間層をコアな支持基盤としていたが、その後急速に都市部では国民会議派や左派政党の地盤、地方でも国民会議派や地方政党の票田を切り崩しながら支持を広げていった背景には、こうした地元の人々をも囲い込み、そうした人々を登用したうえで、先頭に立って働いてもらったことも背景にある。

    反ムスリム、反クリスチャン的な行動で、社会の亀裂を深めているいっぽうで、社会の底辺にいたり、容易に社会から差別される存在になり得る低いカーストの人たち、先住民などを広い懐で包み込んで、機会を与えていることについては、正当に評価されるべきだろう。現在首相のモーディーだって、先住民やアウトカーストではないが、テーリー(油絞り)という低いカーストの出だ。

    ブラーフマン、カーヤスタ、ラージプートといった高いカーストの人たちが政界を牛耳る時代はずいぶん昔に終わり、80年代後半以降はヤーダヴを始めとする「その他後進諸階級(OBCs)」が台頭した。90年代のビハール州は、そうした「成り上がり」を抑え込もうとするタークルその他、古くからの在地支配層と急伸するOBCsの間で暴力的な衝突、誘拐、報復などが相次ぎ、「カースト戦争」とまで揶揄された時代があった。

    90年代以降のビハール州の政界のリーダーシップは、OBCsとダリットの三つ巴、四つ巴の戦いの場となり、今後もずっとアッバーカーストの人たちが牛耳ることはないだろう。

    どこの州でも多かれ少なかれ、そういう流れになっており、政治の分野ではカーストの上下ではなく、カーストをベースとするコミュニティーの人口規模の多寡が政治力を左右するようになっていると言ってもよい。そうした背景がヤーダヴを筆頭とする後進階級出身の政治家たちが持つ、汲めども尽きぬパワーの源泉だ。

    ビハールから部族地域が分離してできたジャールカンド州のように、マジョリテイーが先住民部族の人々の州となると、もう政界上層部、中層部を牛耳るのは部族の人々、州政府の閣僚も普通は部族という、政界ではあたかも部族でなければ人ではない、というような感じにすらなっている。

    さて、このムルムー氏だが、その後はオリッサ州政府の大臣職を歴任。そしてジャールカンド州では知事にもなった人。対するNDAからの候補者は、現在トリナムール・コングレス所属のヤシュワント・スィンハー氏。この人は以前はBJP所属で党副総裁を務めていた頃もあったし、ヴァジペイー政権で財務相、外務相を歴任したこともあった大物政治家だったが、党と袂を分かちNDAとは対立関係にあるUPAにあるトリナムール・コングレスに加入。

    どちらが大統領職に就くことになるか判明するのは7月20日過ぎになるが、やはり全国的に数で優勢なNDAの擁立するムルムー氏が勝利する可能性のほうが高いのだろう。

    大統領職は名目上の立場であり、実権は首相が率いる内閣の手にあるため、シンボル的にマイノリティーであるムスリムが擁立されたり、スィク教徒が就任したり、女性がその職に就くといったことはこれまでもあった。

    ・・・とはいえ、かつてインドを支配した総督の立場に、独立後のインドでも引き続き社会の底辺にいた先住部族民出身の女性が就任するかもしれない、ということは、インド社会が大きく変化したことをダイナミックに象徴しているようで興味深い。

    7月後半、この人が本当にインド大統領となることが決まったら、日本のメディアでもおそらく取り上げられることだろう。ドラウパデイ・ムルムーという彼女の名前は記憶しておくと良いかもしれない。

    Teacher, MLA, Jharkhand Governor: Meet Droupadi Murmu, First Adivasi Woman To Become Presidential Candidate (Outlook)

    蛇足ながら、こちらの動画は大統領候補となったムルムー氏を祝福するために彼女の自宅に集まる支援者たちとそれを迎えるムルムー氏の姿を伝えるもの。偉ぶらない人柄と謙虚な態度が感じられるようだ。

    People Gather To Greet Draupadi Murmu At Her Residence (Kanak News)

  • ついにゴアでも「復興運動」を展開へ

    ヒンドゥー右翼たちにより、デリー、アーグラー、マトゥラー、バナーラス等において、イスラーム教関係の施設や遺跡などに対して、「元はヒンドゥー教の寺であったものを、イスラーム教徒侵略者たちが破壊してモスクその他のムスリムの施設などに変えた」として、いろいろな運動が展開されているのはご存知のとおり。

    そうした中で同時多発的に裁判も進行中で、「ヒンドゥー教徒による礼拝を認めろ」だの「ヒンドゥー教寺院であった証拠はこのリンガム状の物体だ」などとして、専門の学者ではなく、裁判所に認定を迫るかのような姿勢で、既成事実化して、しまいにはそれらの施設や遺跡を乗っ取りそうなムードだ。

    これらは少なくとも表向きはBJPその他のサングパリワールと呼ばれる一連の関係団体によるものではなく、ごく普通の市民が縦横の連帯すらなく、自発的に始めた運動のようになっている。しかしたとえばバナーラスやデリーの事例のように、普通の主婦たちがわざわざそんなことに血道を上げるだろうか。いかにも怪しい。

    こうした上げ潮の勢いが先日のBJPの広報担当者による預言者モハンマドを侮辱したとされる発言が出るまでに至ったのだろう。こうした動きはこれまで北部が中心であったが、イスラーム教徒ではなく「クリスチャンに侵略されたゴア」でも始まった。かつて存在したヒンドゥー教寺院、ポルトガル当局に破壊されたお寺を復興しようという動きだ。

    ポルトガル時代に9割を越えたクリスチャン人口は、ポルトガル当局による苛烈なヒンドゥー教への弾圧に加えて、改宗すれば人種の違いに寛容なポルトガル植民地社会というインセンティブもあり、多くの人々がヒンドゥー教から離れてカトリックを受け入れたことが背景にある。

    そんなゴアだが1961年のインドによる軍事侵攻により陥落し、強制的にインドに併合された後、当然のことながら相互で人口の大きな移動があり、現在はゴア人口の7割近くがヒンドゥー教徒となり、カトリックはマイノリティーに転落して久しい。

    インドによる脅しと侵略への恐怖が現実化していた1950年代後半には、ゴア市民はこうなる事態、すでに「ゴアン」としてのアイデンティティーを確立していた人々は、インド人の大海に呑み込まれてしまうことを危惧していたのだ。当時のゴアはインドに対して比較的裕福で、インドはとても貧しかったこともそうした嫌インドの背景にあった。

    インドがポルトガル領ゴアに経済封鎖を実施していた頃は、ポルトガルが支配するところのゴアとパキスタンは蜜月状態にあり、生活物資、食料その他の必需品がカラーチーの港からパナジの港へと大量に運ばれたという。

    これまでゴアでクリスチャンとヒンドゥーの関係は悪くなかったが、こうした右翼の動きが浸透していくようなことがあれば、すでに多数派となっているヒンドゥー社会からクリスチャンが次第に排除されていく未来もあるのかもしれないし、今の時代を生きるカトリックのゴアンの人々の間から嫌インドという動きも出てくるかもしれない。

    今後の推移を見守っていきたい。

    Goa’s Own Gyanvapis: Govt To Reconstruct Temples Destroyed During Portuguese Regime? (Outlook)

  • もしかしたら朗報?効力停止されていたインドの発行済e-visa(tourist)も復活?

    2020年春に効力停止されたe-visa(tourist)が、いつの間にか再度有効になった?昨年10月あたりに、観光ヴィザ以外は再度有効化のアナウンスが出ていたと思うけど、ついに観光のも息を吹き返したのか?

    何しろ「(i) Currently valid e-Tourist Visa issued for five years, which was suspended since March 2020, shall stand restored to nationals of 156 eligible countries with immediate effect. Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.」と書かれているのだ。しかし取り直したほうがいいような気もする。よくもわるくもインドであるし、「Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.」ということなので、「新たに取得してもいいよ」というわけだ。

    以下はインドの入国管理局ウェブサイト内の「観光ヴィザ、観光E-VISAの効力回復」の記事からの引用。今年の3月に発表されたものとのこと。

    Restoration of Tourist/e-Tourist Visa for Foreign Tourist

    MHA O.M No.25055/24/2022-F.V/F.I Dated March 15, 2022

    In continuation of this Ministry’s O.M. of even number dated 21.10.2020 on the above mentioned subject and keeping in view the improvement in COVID-19 situation in India, the Government has considered the need for further relaxation of visa and travel restrictions.

    1. Accordingly, with immediate effect it has been decided that:

    (i) Currently valid e-Tourist Visa issued for five years, which was suspended since March 2020, shall stand restored to nationals of 156 eligible countries with immediate effect. Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.

    (ii) Currently valid Regular (Paper) Tourist visa with validity of 5 Years, issued to foreign nationals of all countries, which remained suspended since March 2020, shall stand restored. Fresh Regular (Paper) Tourist visa up to 5 years validity may also be issued to the nationals of the eligible countries subject to the restrictions imposed from time to time.

    (iii) Currently valid old Long duration (10) Regular Tourist Visa which remained suspended since March, 2020 shall stand restored for the nationals of USA and Japan. Fresh Long duration (10) Tourist Visa can also be issued to the nationals of USA and Japan.

    1. The Foreign nationals of Tourist/ e-Tourist Visas may enter into India only through designated Sea Immigration Check Posts (ICPs) or Airports ICPs by flights, including those under the Vande Bharat Mission or ‘air bubble’ scheme or by any flights as allowed by the DGCA or Ministry of Civil Aviation. In no case the foreign nationals will be allowed to enter through Land border or riverine routes on Tourist Visa/e-Tourist Visa. Order for opening of Land ICPs and riverine routes will be communicated separately.
    2. These instructions will not be applicable to Afghanistan nationals who will continue to be governed by the separate instructions issued by this Ministry regarding grant of e-Emergency X-Misc. Visa. All other health/ COVID-19 related matters, extant guidelines of the Ministry of Health and Family Welfare shall be adhered to.

    以下は、インドのe-visaの申請サイト。

    Bureau of Immigration (e-visa application)

    観光用で有効期間30日間は25ドル、有効期間1年間だと40ドル、5年間になると80ドルということになっているが、日本旅券であれば期間にかかわらず一律で25ドルなので、5年間を申請するのがよいだろう。可能な入国回数はマルチプルで、1回の滞在は180日間を越えないことというのが条件になっている。

    e-visaの場合は陸路入国が認められないというハンデはあるものの、大使館で申請する従来型のヴィザよりも有効期間が長いこと、大使館に出向く必要がなく、往復の航空券の提示も求められないなど、メリットは多い。申請から発行まで、現在のところは大変スムースで、多くは翌日には発行されているのも魅力だ。

    そんなわけで、今すぐに行く予定はなくても、とりあえず取得しておいて、いつでも渡航できるようにしておくのもよいかもしれない。

  • AGNI PATH

    17歳から21歳までの期間限定 インド軍のAGNI PATHという新たなリクルートのスキームがニュースになっている。AGNI PATH(アーグニ・パト=炎の道)という、昔のアミターブ・バッチャンの映画にあったようなタイトルだが、17歳から21歳まで4年間のみ限定のリクルートの形だという。

    軍というものは、若くてフレッシュなマンパワーを大量に必要とし、年齢が上がってくるとそうした下のランクの兵士たちは不要になってしまう。そんなわけで、インド軍ではこのような形で毎年4万人程度の新兵を期間限定で採用し、22歳に至ったら除隊して社会に戻ってもらうというもの。その代わり、在籍する間の給与は思っていたよりも良さげな感じだ。

    ただし、兵士といっても中途半端な期間と熟練度で、4年後に社会に放り出されても何もできない若者が毎年4万人も発生するとして、退役軍人からも批判があるようだ。アメリカのいわゆるGI BILLのように、一定期間従軍後、大学進学のための奨学金を払ってくれる(ゆえに「GI BILL」と通称される)ような制度であれば良かったかもしれない。

    Agnipath scheme for four-year military tour of duty unveiled (India Today)

  • コミュナルなテンション

    コミュナルなテンション

    BJPの広報担当者によるイスラーム教預言者に関する侮辱的な発言があったとして、インド各地そして世界各地から非難の声が上がっている。イスラーム諸国では駐在しているインド大使が現地政府に呼び出されて叱責を受けたりなど、受難が続いているらしい。

    インドでは政治問題等に関する討論番組が盛んだが、そうした場への出演者のひとりが「インドネシアのような小さな国の政府に我がインドの大使が呼び出されて叱責を受けるとはまったくもって心外な侮辱的な扱いである。BJPはこれを甘受しておるのか?」などと、まったく的外れな発言をしていたとともに、インドネシアを小国呼ばわりするのにも驚いたりした次第。

    先週末は、金曜礼拝後にインド各地で同時多発的にムスリム群衆による抗議活動が巻き起きたとニュースになっていた。デリー、ラクナウ、ハイデラバード、スリナガルその他、いろいろな街で時を同じくして一斉蜂起のように発生したことが伝えられていた。ラダックのレーのような小さな町でもそうした活動があったという。これらの背景に相互に繋がりはないのか、焚き付けた者がいないかどうかなど、各地の警察が連携して調査しているとも報じられた。

    この2日ほど前、大衆に対する煽動的な言動があったとして、AIMIMのリーダー、アサードゥッディーン・オーウェースィーに関するFIR(First Information Report=犯罪報告書)が出されたことがニュースになっていたため、彼やAIMIMを中心とする、あるいは経由するネットワークに疑いの目が向けられているのだろう。

    関連ニュースでは、デリーからの報道でDCP(Deputy Commissioner of Police)から談話を取っていた。シウェター・チョウハーンという、いかにもキレ者という感じの喋りで自信に満ちた堂々たる対応であった、年齢はまだかなり若いと思われる女性で、おそらくデリー警察ではなくIPS(Indian Police Service)採用だろうか、男社会の中では毎日突っ張っていないと甘く見られそうだし、部下や同僚も本人よりもかなり歳上のようだ。エリートはエリートで、それはまた大変なのだろうなぁとか、いろいろ想像してしまう。実際、エリート官僚のまだキャリアの浅い頃には、なかなか周囲とうまくいかないことやハラスメントもいろいろあったりと、苦労も多いものらしい。

    インタビューに応じるDCP (ニュースチャンネル「AAJTAK」の放送画面から)

    話は抗議活動に戻る。先日はカーンプルでムスリム暴徒による大規模な投石事件が報じられていたり、それに先んじてこのところデリー、マトゥラー、バナーラスなどで、それぞれイスラーム関係施設が元はヒンドゥー寺院であったとして、調査を許可せよだの、ヒンドゥー教徒たちの礼拝を許可せよだのと、裁判所に訴え出るなど、マイノリティーへのパワハラとでも言うべき事案が相次いでいる。

    そこに来てのBJPのヌールプル・シャルマー(広報担当の女性)による発言であり、これを受けての「一斉蜂起」であった。こんな具合だと、インドにおいて、ここしばらくはコミュナルなテンションは続くのであろう。

    Two killed as Muslims and Hindus clash in India (REUTERS) 

  • 最大級の舌禍と放送局のスタンス

    BJPの広報担当のヌールプル・シャルマー。コロナ禍以降、私たちの社会でZoom、webexその他によるオンライン会議が定着した。

    同様に、報道番組等テレビプログラムの中でも同様にオンラインでコメントを取ったり、スタジオと参加者自宅や仕事場を結んでの討論会が当たり前になった。結果として、政党関係者、宗教関係者、学者その他が目の前でしゃべっている様子を目にする機会が増えた。

    すると、やはり寄稿したりなど、文字で意見を表明するのはうまくても、対話とりわけ討論には強くない人もあれば、弁舌が立ち見た目も良い人もあり、喋りは上手くてもあまりに慇懃無礼で、司会から退場を命じられて番組進行中にスタジオからオンラインを切られてしまう出演者もたまにいるなど、向き不向きもかなりあることがわかる。そんなことから番組ごとに討論番組に出てくる参加者、特に政党から出てくる人となると、党の方針から踏み外すことなく主張できる人物となるため、だいたい固定化されている。

    それはそれで構わないのだが、こうした機会のある人でもときに踏み外して大変なことになるケースも出てくる。このヌールプル・シャルマーがその典型。BJPの広報担当の人物だ。イスラーム教の預言書について、テレビでたいへん不適切な発言をした結果、国内外で大きな波紋を呼び、さすがの反響の大きさにBJPからは除名され、彼女のもとには脅迫が相次いだことから、警察による庇護を求めている。

    国外ではイスラーム教の国々、インドネシア、マレーシアそして湾岸諸国などでインド大使が現地政府に呼び出されて叱責を受けるという異例の事態になっている。またこうした地域の過激派組織からも激しい非難が表明されている。

    政治関係者による舌禍としては最大級のもののひとつに見える。この人が出た件の番組は見ていないのでなんとも言えないのだが、およそ民放の討論会というものは、5、6人から10人前後の出演者たちが司会とともに行うのだが、敢えて討論が炎上するように両極端なキャラを揃えたり、司会も火に油を注ぐような進行をするので、そうした環境の中で意図的に引き出された発言だったのかもしれない。

    そういうヘイト発言と感情が衝突する場を「討論番組」として連日垂れ流している放送局にも自制を求めたいところだ。

    Nupur Sharma: The Indian woman behind offensive Prophet Muhammad comments (BBC NEWS)

  • ラッパーの死

    5月29日に、パンジャービーのラッパー(パンジャーブ州議会議員でもある)のスィッドゥー・ムーセーワーラーがクルマで移動中に十数発の銃弾を撃ち込まれて殺害されるという凄惨な事件があった。関与が疑われているのは、パンジャーブ出身のギャング、ローレンス・ビシノーイーだが、現在デリーのティハール刑務所に収監中なのになぜか?と言えば、塀の中からスィッドゥーを脅迫していたローレンスは、彼の殺害を決めて、在カナダのパンジャービーギャング組織と連絡を取り、カナダからパンジャーブ現地の手下だか協力関係にある者たちがスパーリー(ヒットマン)として送り込まれたらしい。今どきのインドらしい国際間の連携とも言える。

    こうしたリスクを抱えている有名人たちには、先の州議会選挙で国民会議派が負けて庶民党政権となるまでは、手厚い警護が付いていたのだが、政権交代後は「セレブを特別扱いしない」という庶民党の方針から警護体制の簡略化が実施されており、まさにそれを突いての犯行であったとされる。

    それまでスィッドゥーは防弾処理を施された車両で複数のガードマンたちと往来していたとのことだが、この日は自家用車で、後続車両におそらくライフルを手にした護衛が付くのみであったといい、高性能銃器を手にしたプロの殺し屋による奇襲には対応できなかったようだ。

    サルマーン・カーン自身も、ローレンスからずいぶん前から脅迫されてきたひとりで、身の安全が危惧されているため、この事件後は警護が大幅に強化されることになったと聞く。

    インドの音楽関係者にしても映画人にしてもこの手の脅迫にかかる事案は昔から多く、かつてはグルシャン・クマールのような超大物さえも殺害されたことを記憶している人は多いだろう。

    Salman Khan’s security beefed-up outside his Mumbai apartment after Sidhu Moose Wala’s murder. Here’s why (THE ECONOMIC TIMES)

     

  • Tejo Mahalayaの本

    Tejo Mahalayaの本

    デリーのクトゥブ・ミーナール、バナーラスのギャーンヴァーピー・マスジッドの論争と時を同じくして展開しているアーグラーのタージ・マハルが「ヒンドゥー寺院を改変して建てられたもの」という主張。

    「タージ・マハル」ではなく「テージョー・マハーラヤ」であるとする論争だが、元々ジャイプル藩王国所有の地所であったという主張等々のニュースが日々インドから流れる中、ヨタ話であってもネタ的には興味深い部分もある。インド雑学の見地からは、とうてい看過できないものがある。インドアマゾンのKindle本を検索すると、書籍の概要からしてドンピシャのものが見つかったので購入。今話題になっている「テージョー・マハーラヤ」の元ネタはだいたい網羅されていそうだ。

    正しい歴史認識が最も大切であることは言うまでもないし、ヨタ話を擁護するつもりももちろんないのだが、そうした言いがかりの根拠としているもの、でっち上げの内容と根拠とするものについて把握しておくことは大切だ。

    編集者兼著者のStephen Knappという人物は、インド(及びその他の国々)でヴェーダ関係の書籍をいくつも出しているなど、西欧人(たぶんオーストラリア人)ながらも、極右勢力とは親和性がとても高いように思われる。

    著者 : Stephen Knapp
    ASIN : B06ZZ6GXN5

  • ジョージアのタンドゥール

    ジョージアのタンドゥール

    ジョージアに滞在中の方のFB上で幾度もタンドゥールやそれで焼かれたパンの類の写真を見かけた。ググッてみると、やはりジョージアでは伝統的にこうした窯の利用が多いらしい。なんとなく欧州文化圏のような気がしていたが、同時に中央アジアとも接している地域でもある。文化圏を信仰面のみで区別することはナンセンスだということを感じる。

    生活文化に信仰が与える影響には、食のタブーであったり、祝祭等の内容やサイクルであったり、通過儀礼等々があったりするが、信仰を同じくする国々などへの心理的距離の近さ、それとは裏返しに信仰が異なる場合の距離感の遠さなどいろいろあるかもしれないが、それ以外の自然環境であったり、それぞれの信仰が浸透する前から地域で引き継がれている伝統であったり、信仰や人種を超えて地域で共有してきた文化や習慣といったものの深みは当然あるはず。

    タンドゥールが伝播した北限がどこなのかは知らないが、ジョージアのような「タンドゥール文化圏」の北周縁部の人たちが、その文化圏の南端とも言えるインドのパンジャーブ地方を訪れたならば、自分たちのものとは少し異なるけれども似たような用途で用いられるその土窯を見て、多少のエキゾ感はあっても、懐かしい思いにかられるのではないかと思う。その意味では正教徒である彼らが自国の食文化の延長線上にあるものをペーシャーワルであったり、オールドデリーであったりといったイスラーム教徒の料理屋の店先で目にすることになる。

    同時にタンドゥール文化圏外、例えばタミルナードゥ州の人たちがジョージアを訪問することがあったら、自分が暮らすバンガロールやマイソールなりの街で見かけるムグライやパンジャーブ料理店などで目にするタンドゥールと同じようなものがあり、ジョージアでもイスラーム文化圏起源であると思われるタイプのパンが焼かれているのを見て、母国インドが中央アジアを経て、このジョージアにまで食文化でゆるく繋がっている部分があることを感じ、主に米食の自分たちにとってアウェイ感のある北西インドのイスラーム系料理に対して、ますますの距離間を感じてしまうなどということもあるのかもしれない。

    人間が政治的な意図で引いた国境、民族や宗教を背景にする文化圏、急峻な山岳その他厳しい地形等条件などによる地理的な障害など、世界を区分するボーダーというものは重層的に存在しているが、その中にはこうした食文化の繋がりないしは断絶をベースにした食をベースにしたボーダーラインのようなものも存在する。もちろんその境界とは目に見えてきっぱりと区分されているわけではなく、ゆるく重なり合っていたり、融合しあっていたりするものだ。

    それだけではない。ときにはスペイン系の食文化が大きく飛んでラテンアメリカにも広がっていたり、中国起源の麺料理の影響がイタリアに飛んでいたり、その他の中華料理の手法なども東南アジアで華人移民たちを通じて伝播していたりなど、いきなり飛び地が存在していることもあるなど、食文化というものは文化、民族や地域を越えて縦横にクロスオーバーすることもある非常にダイナミックなものである。

    He Dives Into Ovens to Bake Bread (Youtube)

  • ムンバイのヒンディー語映画「ANEK」にナガランド出身のヒロイン

    ムンバイのヒンディー語映画「ANEK」にナガランド出身のヒロイン

    ナガランド出身でムンバイで活動するモデル、アンドレア・ケヴィチュサー。15歳の頃から時折モデルの仕事などもしていたとのことだが、メガーラヤ州都シローンで高校を卒業した2019年、ムンバイに拠点を移して本格的にモデルの仕事に従事するようになった。そしてこのほど封切となった作品「ANEK」で映画デビューを果たした21歳。

    私たちと同じモンゴロイドでボリウッド映画に出演する人は皆無ではないものの、ハードルの高い世界。今後も役柄に恵まれて活躍する場を持てるとよいと思う。北東部出身の人たちへの差別感情の解消にも繋がることを期待したい。

    こちらは映画デビューに際しての本人、アンドレア・ケヴィチュサーさんへのインタビュー動画。日本でJRに乗っていたら誰も「インド人」とは思うはずもない「和風顔」である。

    Andrea Kevichusa on Anek: ‘A day will come when actors will get cast not for their ethnicity, but for their talent’ (Firstpost)

    NAGALAND MODEL ANDREA KEVICHUSA’S FEATURE MOVIE ‘ANEK’ RECEIVES POSITIVE RESPONSE (Youtube)

  • インドとロシア

    ロシアへの武器依存度が高いインドがリスクヘッジのため新たな調達先を広げる動き。

    それでもロシア非難へとスタンスを変えることはないだろう。インド自身、1971年に武力による現状変更を実施した(第3次印パ戦争、これにより東パキスタン解消、バングラデシュ成立)ことがあるだけでなく、POK問題(パキスタン占領下のカシミール)過去がある。

    2年前にJ&K州からラダック地域を分離させ、ともに連邦直轄地としたインドだが、その分離前の州議会総議席111のうち、24議席はPOKに与えられている。(他国支配下にあるため、この24議席分の選挙区からは立候補も選挙の実施もなく空席)分離後のカシミールでもPOKの24議席は保持される。そう、隣国支配下にあるカシミール西部はインドからすると不可分の自国の領土。

    インドにとってこの地域でのパキスタンとの境界は一事的な停戦ラインにしか過ぎないLOC(実効支配線)であって、国境ではない。パキスタン+中国の同盟関係及び核の保有などもあり、LOCが西方に移動したり、POKがインドの手に戻る可能性は限りなく低いとはいえ、もし将来何かあって、力関係がインドに俄然優位に傾くことがあれば当然、インドは現状変更へと乗り出す可能性は高い。ウクライナ問題の向こうに透けて見えるのは、中国と台湾の関係だけではない。

    かつてインドによる武力行使のため、国土を大きく削られるとともに人口の半分以上(1971年当時、西パキスタン人口5,900万人、東パキスタン転じてバングラデシュ人口6,500万人)を失った過去があるパキスタン。今回のロシアによるウクライナ侵攻をメディアで目の当たりにしたことにより、核による抑止力を持つことの重大さを確信していることだろう。

    それだけではない。インドと友好的な関係にあり、両国国民が旅券なしで国境を往来することができ、査証なしで居住することも出来る特別な関係のネパール。近年は大きく中国の側に傾倒するとともに、印中両国の間でバランスを取っているように見えるが、将来中国軍の基地を置かせるような動きがあれば、インドは軍事行動を含めた大変厳しい態度で応対するはず。それに対して国連で非難決議が提出された場合、これを握り潰してくれるのはロシアということになる。そう、東パキスタンを潰したときも当時のソ連の後楯がなければ無理だったかもしれない。印露の仲は実に深い。

    インド、武器調達先の多様化模索 ロシア依存脱却へ (REUTERS)

  • リンガムか噴水か

    ギャーンヴァーピー・マスジッドで見つかったとされるシヴァリンガムの画像とのこと。右翼はリンガムであると主張し、彼らに同意しないものは噴水だとか。裁判所の仲介により、モスクに調査団を受け入れさせる前から、メディアではモスク内のヒンドゥー的な意匠、つまり建物内の持ち送りの梁や柱の構造であったり、壁面に掘られたヒンドゥー的なデザインを含む彫物であったりをも映し出しており、意図的にヒンドゥー寺院では?という視覚的な誘導を行うなどといったこともあった。

    しかし昔からヒンドゥーがマジョリティーであったインドの環境下でムスリムの建築物にヒンドゥー教徒の職人集団が関わることは、ごく当たり前のことで、ムガル全盛期の代表的な建築物郡群すべてにヒンドゥー的な要素は見られる。それは中東地域ではほとんど見られない庇であったり、インド起源のヒンドゥーや仏教の象徴でもあるハスの花の意匠であったり、ベンガル式のジョールバングラー型の屋根であったりと様々だ。もともとそうした多文化融合の造形がインドのイスラーム建築の特徴でもある。

    それにしても不思議なのは、このモスクの「ギャーンヴァーピー」という名称。普通はアラビア語やペルシャ語で、それらしい命名をするものだが、なぜサンスクリットで「知恵の泉」と名付けたのか。実に珍しい。

    まさにこれこそインドの多文化社会を象徴するようなもので、本来ならば内外に誇れるもののように思うのだが、その名前がゆえに標的になっているとすれば、なんと皮肉なことだろうか。

    Shivling or fountain in Gyanvapi mosque? Here’s what IIT-BHU experts say (INDIA TODAY)