ベンガルールってどこだ!?

 英語での都市名がボンベイからムンバイ、マドラスがチェンナイ、そしてカルカッタがコルカタなど、ここ十数年の間に次々と変わったが、ここにきてバンガロールもそれに続こうとしている。同市を州都とするカルナータカ州政府により提案されているのが「ベンガルール(Bengaluru)」という名前であり、地元カンナダ語での呼称に近い表記であるとのことだ。
 ヒンディー語ではどうなっていたかな?と思い、地図や時刻表など開いてみた。बंगलोर (バングロール)あるいは बंगलौर(バングラウル)といった英語のそれに近いものもあれば、 बेंगलूरु(ベーンガルール)と原語の音をデーヴァナガリで置き換えたものもあった。インド有数の主要都市の名前とはいえ、その表記についてはけっこう揺れがあるようだ。
 もともと「バンガロール」とは植民地時代に英国が彼らにとって読みやすいように変更したのだからということだが、独立後60年近くも経っているのに何で今ごろ?という気がしないでもない。


 同市を本拠地として世界に進出しているインド企業、あるいはここを拠点にインドでのビジネスに精を出す外資系企業なども含めて、IT関係産業の発展を中心に世界的に有名になった「バンガロール」ブランドをめぐり、混乱が生じることを危惧する声も上がっていると、下記リンク先の記事には書かれている。
 世界を見渡してみても、英語での呼称と地元のコトバでの名前が違う国や都市は決して珍しくない。タイの首都バンコクは「クルンテープ」(本当はクルンテープの後に「ジュゲム」のごとく長々と文句が続くのだが)、ピラミッドなどの遺跡で多くの観光客を引きつけるエジプトは「ミスル」であることなどはよく知られているところだ。
 だがインドでの英語というものの役割を思えば、「ガイジンのコトバ」「ヨソの人たちによる勝手な呼び名」ということにはならないだろう。英語は確かに「インドのコトバ」でもあるがゆえに、こうした事柄について問題提起され得るのだ。
 しかし都市名が変わるということは、それにかかわる手続きその他で並大抵のことでないことは容易に想像がつく。名前変更に関する立法と発布を行えば済むものではなく、施行後は少なくとも政府関係機関などをはじめとする公の分野では新しい表記に習わなくてはならないことになるし、民間でも多くも次第にそれに習うことになろう。
 生活している市民ひとりひとりがやらなくてはならないことはごくわずかであっても、社会全体で見れば相当な費用と労力がかかりそうだ。名前の変更を周知させることから始まり、基本的にはありとあらゆる表記を変更しなくてはならないことになるのだから、本来ならばそのまま使えたものを廃棄したり、わざわざお金を払って作成したりすることになる。官民合わせていくらかかるのだろうか。
 こんな面倒な思いをしたところで、たとえば改名された道路の名前について眺めてみれば、都市名にしても通りの名前にしても、生活レベルでは古い名前が従来どおり通用していることは珍しくない。同じ道路にふたつの名前がそのまま使われていては、特にヨソからやってきた人たちにとってはややこしくて不便なだけだ。
 そもそも街の改名は複数の市が合併して名前が変わるのと違い、行政が効率化されてムダが削減されるわけではない。ただ「名前が変わる」だけであるのだから、なんだか空虚な思いがする。
 ローマ字表記の地図を手にして大都市以外の部分に目を向けてみれば、たとえばオリッサ州南部のジェープルをJeyporeと綴るあたりなど、なんだか「英国風」な感じがするし、西ベンガルは「ウエスト」ベンガルである。
 旧ポルトガル領のゴアには「ヴァスコ・ダ・ガマ」「ドナ・パウラ」、旧仏領のポンディチェリーには「ポルト・ノヴォ」など、欧州風の地名が沢山残っているし、街中の通りの名前も同様である。旧宗主国との文化その他のつながりはもちろん、結局それぞれの土地の政治のマターなので、地域によって実にさまざまであるのは面白い。
 いつしかデリーが「ディッリー」となる日がやってくるのかどうかわからないが、今後もこうした動きは散発的に各地で出てくるのだろう。地名のみならず、一部排他的な民族主義勢力により国名を「ヒンドゥスターン」に変えようという動きが出ていたことを記憶している方も多いだろう。
 たかが名前、街の呼び名が変わったからといって、特に何か変わるわけでもない・・ ・のは間違いない。しかし単に地名が変わるという現象面だけではなく、そうした動きの背景にはいったいどんなものが控えているのか、今後も関心を持って見ていきたいものである。 だがこれまで慣れ親しんでいた、あるいは惰性でそのまま使ってきた名前を敢えて今ごろになって変更することのウラには、「ここに来て何か変わった」ものがあるからではないのだろうか。
City plan for ‘boiled beans town’ (BBC South Asia)

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