パーキスターン系英語文学者の台頭

インド系英語作家が注目されて久しい。ところがお隣パーキスターン系の英語作家が注目されたことは、あまりなかった。だが、ここ10年でパーキスターン系英語作家が着実に存在感を増しているらしい。1月28日のタイムズオブインディアが特集していた。
大方の想像どおり、英語で執筆しているパーキスターン系作家の殆どは、イギリスやアメリカで教育を受けたり仕事をしている人たちだ。ただ興味深いことに、彼らの多くがパーキスターンに戻って来るというUターン現象が起きている。
報道を見た限りでは、パーキスターンでは毎日のように、どこかでテロによる死者が出ており、非イスラーム的な文化が原理主義者たちによって否定されている印象だが、作家達は「パーキスターンは別に、創作に断固反対な国ではない。ズィア政権の時代とは全く違う」と言う。彼らによると「パーキスターンには変化の嵐が訪れている」のだそうだ。「民主主義が再び根付いたし、メディア産業も活発、民間団体や弁護士達の運動も盛んだ」と。
暴力事件が絶えないのは事実だが、驚くべき立ち直りの早さで文化活動が行われているのも事実だそうだ。例えば、カラーチーでは1年を通して暴動数回、ゼネスト3回、たいていは流血沙汰になるコミュニティ間紛争が断続的に起こっているが、その間にも大成功を収めた映画祭が開催され、40回の音楽コンサートが行われ、20以上の演劇が上演されたそうだ。想像を絶するしたたかさで、パーキスターンの人々は逆境を乗り越えようとしているようだ。
この歴史の岐路においてパーキスターン系作家が英語にて創作していたら、西側の読者から「発見された」というわけだ。以下は、注目されている作家と代表作品の一覧だ。2010年の読書リストのご参考までに。
Mohsin Hamid
プリンストン、ハーヴァードで勉強、ニューヨークやロンドンでマネジメント・コンサルタントとして働く。パーキスターンの都市部における性、ドラッグや階級間摩擦を描写した『Moth Smoke』(2000)で、A Betty Trask Award受賞。本作品は『Daira』としてテレシネマ化され、パーキスターンでテレビ放映された。
ラーホールのカフェで、パーキスターン人青年がアメリカ人に、アメリカへの愛と、9・11にそれを失ったことを吐露する『The Reluctant Fundamentalist』(2007)は、ブッカー賞の候補にノミネートされた。
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Mohammed Hanif
BBCのウルドゥー語放送を統括していたが、イースト・アングリア大で文芸コースを受講して作家に転身。現在、カラーチー在住。『A Case of Exploding Mangoes』が、Guardian Fist Book Awardの候補に選ばれた。
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Kamila Shamsie
カラーチー生まれ。ハミルトン大、マサチューセッツ大で文学を学ぶ。ガーディアン紙のレビュー担当やコラムニストとして活躍していたこともある。『Burnt Shadow』が2009年オレンジ賞候補に選ばれた。21才の日本人女性が9・11に居合わせるという話らしい。
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Ali Sethi
84年ラーホール生まれ、ラーホール在住。90年代のラーホールと、それを取り巻く環境を、2人の子供を通して描いた作品『The Wish Maker』(2009)で華々しくデビュー。そういえばデリーのブックフェアで、この本のキャンペーンが行われていた。
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Daniyal Mueenuddin
ラーホールとアメリカのウィスコンシン州育ち。アメリカで弁護士業をする傍ら執筆していたが、今はパンジャーブ南部の農園に住んでいる。
パーキスターンの封建主義社会を描いた『In Other Rooms, Other Wonders』(2009)を執筆。ワシントンポストに「広く読まれることになる初のパーキスターン人作家になるだろう」と賞賛を受けた。
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Nadeem Aslam
親が共産主義者であったため、ズィア政権の時に家族でイギリスに移住。10代をウエスト・ヨークシャーで過ごし、マンチェスター大で生化学を専攻するも3年目にして中退。執筆に専念した。殺人の話を通して、イギリスのパーキスターン人移民の暮らしを細かく描写した『Maps for Lost Lovers』(2004)が代表作品。
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HM Naqvi
外交官の息子だったため、いろいろな国を廻って育った。アメリカで教育を受け、しばらく経理として働いていたが、現在はカラーチー在住。代表作に『Home Boy』がある。
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Bapsi Sidhwa
1938年カラーチー生まれのパールスィー。9歳の時に分離独立を経験する。ディーパー・メヘターとも、一緒に仕事をしている大御所作家。現在はアメリカのヒューストン在住。
『Cracking India』(1991) が代表作となっている。ポリオ患者の若いパールシー女性の目を通して描いた分離独立の話。
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映画は、異文化を理解するための最高の情報源なのだが、文学も然りだ。これらの著作を通して、ニュースからでは知ることのできない、しかも同世代の若者の目から見たパーキスターンの内情を、細かく知ることができそうだ。
今後の楽しみがますます増えたのは良いが、なにしろ読書には時間が必要。時間がいくらあっても足りない。どうしよう!
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