さよならベンガルール

あっという間に引越しの日が来た。1週間前あたりから周りの人に『パッキング、大丈夫?』と心配されていたのだが前日、夜中2時まで作業した甲斐があり、どうにかなった。
パッキングといっても、会社が懇意にしている引越し屋が段ボールを携えてやってきてくれるから、荷物を分類して玄関に寄せるだけで済む。家具付きの部屋に住んでいたため、テレビ、テーブル、ベッドの運搬の心配もなかった。
当日、約束の時間よりやや遅れて10時に引越し屋の人が3人やって来た。1人は監督役、2人は肉体労働者だった。肉体労働者2人が段ボールを組み立て、荷物を詰め、厳重に封をしている間、監督役の人はソファにゆったり腰掛け、話をしながら段ボールに届け先の住所をマジックペンで書いたり、請求書に荷物の明細を書き込んでいた。
荷物は結構ぞんざいに扱われた。ギュウギュウに詰めるため、チューリヤーンがペタンコに潰れてしまった。『引越し屋は、ネコババをするので注意をしなければならない』と多くの人から聞いていたが、そういうことはなかった。むしろ私の荷物に全く興味がなさそうなそぶりだった。金も銀も、高価な電化製品も持っていないせいか?
唯一、興味を持ってもらったのはフォトフレームに入れてあったバンガロールの古い写真だった。監督役の人が写真を目の高さに持ち上げては、「これは素晴らしい」と何度も言っていた。肉体労働者の人も写真を覗き込み、「バンガロールか」「これは、いいネ」と言っていた。
2時間ほどでパッキング作業は終わった。テンポ(オートに荷台が付いたようなトラック)に、段ボールを全て積み込み、デリーまでの運び賃として段ボール1箱あたり1000ルピー払った。監督役の人は「デリーまで荷物が到着するのに、最長で6日かかる」と言って去っていった。まさか、テンポのままデリーまで行くのだろうか?一抹の不安を感じつつ、テンポの後姿を見送った。
引越し屋が去った後、処分しなければならないゴミが大量に残った。それらをアパートのごみ捨て場に運搬するのもひと苦労だった。そんな中、大家が鍵を回収しに来てしまい、焦った。彼にはテレビの前に座ってもらって、私はひたすらゴミ処分をした。朝から何も食べずに引っ越し作業をしていたので、お腹からは轟音がしていたが、何とかごまかした(と思う)。
2時過ぎに、やっと片付いたので、大家に鍵を渡した。それと引換えに敷金10ヶ月分(16万ルピー)の小切手を返してもらった。その後、Meru Cabを呼んで空港に行った。折りしもメークリー・サークルからベッラーリー・ロードにかけてラリー(デモ行進)が行われていたらしく、車はノロノロ運転となった。FMラジオの電波は途切れ途切れだし、運転手は客と話したくなさそうだったので退屈してしまい、猛烈な眠気が訪れた。バンガロールも見納めだったのだが、車内で居眠りをしてしまった。
こうして午後6時のキングフィッシャーのフライトでデリーに飛び立った。3年半過ごしたバンガロールを去るのは寂しかったが、悲しくはなかった。ただ、キング・フィッシャーの機内放送でR.K.ナーラーヤンの小説を元に作られたテレビ・ドラマMalgudi Daysを見てカルナータカ州は良かったと思いつつ、自分はバンガロールに住んでいることを活かして有意義に過ごしてきたのだろうかと思った。
日もとっぷりと暮れた午後8時すぎ、「渚のアデリーヌ」が流れる中、機体はデリーの空港に着陸した。周りのインド人がシートベルトを外し、頭上の荷物を取り出したり、携帯の電源をONにしていた。その時、誰かがサンダルウッド映画「Mungaru Male」の挿入歌アニスティデの着信音を鳴らしていた。だが、アニスティデの着信音を聞くのはこれが最後となった。一度、デリーの空港を出たら完全にヒンディー語の世界だったのだ。着信音も皆、ボリウッドの挿入歌になった。
こうして2009年3月1日から、ヒンディー語にまみれたデリーでの暮らしが新たに始まることとなった。

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2 Responses to さよならベンガルール

  1. puspam says:

    眼下に見えたバンガロールはいかがだったでしょう。
    数々の興味深い記事をありがとうございました。
    デリーは歴史的な都市。記事の掲載を楽しみにしています。

  2. ケヘカシャーン says:

    ご愛読ありがとうございました。
    今は空港が北部のデーヴァナハッリに移動してしまったので、デリー方面に飛んだ時にバンガロール市街は見ることができませんでした。3年半の滞在中プロペラ機からも市街を眺めたので、ヨシとします。

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