シャンカル・マットにて

先日、歌のレッスンの間じゅう師匠はソワソワしていた。携帯のショートメッセージを送ったり電話したり、奥様に目配せを送ったり。あまりにもソワソワしていて、レッスンにならなかったので
「午後から結婚式にでも参加するんですか?」
と聞いたら、
「プログラムがあるんだよ。」
と言っていた。話によると、朝いきなり出演依頼が来たらしい。そのためタブラ奏者、ハールモーニヤム奏者の手配に忙しかったみたいだ。
たまには師匠の公演でも見て勉強してみるかと思って
「何時にどこであるんですか?」
と聞いてみた。
「来たいの?」
と言って師匠は目を丸くした。
                ?     ?     ?
こうしてやってきたのは、シャンカラプラムにあるシャンカル・マット(教団)。てっきり多くのアーティストが出演する音楽コンサートにでも参加するのかと思ったら、宗教的な集会でバジャンを歌うことになっていたらしい。いや、場違いな所に来てしまった。
施設の前に立って、どうしようか迷っていたら痩せたおじさんが私の顔を見るなり、上の階に案内してくれた。階段を上がったら、そこにはテーブルがあり、ワダ(ドーナツ型に揚げられた朝ごはんアイテム)が配られていた。痩せたおじさんが、またやってきて
「朝ごはんがあるから食べなさい」
と薦めて来た。せっかくなので、お言葉に甘えてワダを食べ、コーヒーまで飲んでしまった。会場の中では既に説教が行われていたが、私が登場したせいで聴衆は注意散漫となり、私の方をジロジロと見ていた。当然だ。ヒンドゥーの集会に身なりも異様な日本人が登場してしまったのだから。
朝ごはんを食べてしまったし、私も一緒に説教を聞くことにした。カンナダ語なので、さっぱり分からないのだが「ダルマ」や「サンスクールティー」だのの言葉が使われていることだけは分かった。説教している人を観察していると、ポンナッパさんの風刺画に出て来る政治家そっくりである。また、話を聞いているおばちゃん達もポンナッパさんの風刺画に出て来そうな婦人ばっかりだった。ポンナッパさんは絵がうまいんだなぁ。
説教した人3人に対し、司会の人から花輪とバナナの盛り合わせとショールがプレゼントされた。貰った人達は花輪が肩までかけられるのを拒否するかのように、すぐに取り外して、そこらへんに置いていた。いつも不思議なのだが、貰ったものをそこらへんに置いて失礼にあたらないのだろうか。
予定より40分遅れて、師匠の演奏の時が訪れた。司会が師匠の名前を呼んだ。いつもの名前にパンディトが付けられて紹介されていた。ウーン、大演奏家みたいだ。師匠は肩から細いマフラーのようなものをぶらさげたクルター姿でステージに上った。
師匠は若手のタブラ奏者、ハールモーニヤム奏者、シタール奏者の真ん中に座った。そして、どのラーグのバジャンを演奏するつもりなのかマイクで伝えた後、おごそかに演奏を始めた。
師匠は演奏中も、やっぱり歌の先生のようであった。「さぁ、私の後に続いて」というようなジェスチャーをするので聴衆は先生に続いて「ジャヤ・ラーム、ジャヤ・ラーム」と繰り返した。こうして、ノリの良いバジャンが6曲くらい歌われた。聴衆は音楽に合わせて手を叩いていた。合計45分ほどバジャンを聞いていただろうか。冷たい石製の床に薄い敷物をしいて座っていたため、お尻が冷たくてたまらなかった。バジャンがやっと終わった時、助かった〜と思った。
バジャンの後、食事が振舞われることになった。飛び入り参加にもかかわらず、異教徒の外国人の私も食事の仲間に入れてもらえた。インドは懐が大きいなぁとつくづく感じた。
床に列を作って座ると、腰巻一丁の人によって目の前にバナナの葉が並べられた。次にカップに水が配られたので、それを少し手に取ってバナナ葉に振りかけて、バナナの葉の掃除をした。周りの人が「クリーン、クリーン」と言って教えてくれた。次にバーミセリが入ったパイサム(甘い液状のデザート)が配られた。周りの人を見たら、うまく手に絡めとって食べていた。いつも食事の前に甘いものが配られると躊躇するのだが、観察していたらやっぱり甘いものを先に食べずに後に残している人を発見。私も後に残しておくことにした。
次にアチャール、塩、ココナツの果肉が混ぜられたサラダみたいなもの2種、細かく刻んだインゲンの炒め物、ナスのゴッジュ(カレー)、チャパーティー、白いごはん、プラーオ、ダール、サーンバール、ラッサムが配られた。また、ごはんの上にスプーン一杯のギーが垂らされた。
皆で「いただきます」のお祈りがあった。師匠はと言えば、ブツブツとつぶやきながらカップから水を少々手にとってバナナの葉の周りの床に振り撒いていた。また、白いご飯を少し手にとり、それもバナナの葉の周りに振り落としていた。
食事中、おじさんが前に出てきて
「さきほどパンディトによる素晴らしい演奏があった後で、まことに恐縮なのですが、ここで一曲披露させていただきます。パンディトさん、よろしいですか?」
と言って、ステージの隅に腰掛けた。師匠は偉そうに
「許可したぞよ」
というジェスチャーを彼に向かって送っていた。おじさんの歌の披露が始まった。歌が終わると、「バーラト・マーター・キー…」という掛け声があったので、食事中ではあったが皆で「ジャーイ!」と言った。その後、間髪いれずに、今度は別の人が歌の披露を始めた。今度は、聴衆は掛け声に合わせて「ゴーヴィンダー!」と言わなければならなかった。
私は手でうまく食べられるようにと必死だった。また、残してはいけないと思って一生懸命食べた。完食して安心していると、隣に座っている師匠の奥さんは白いごはんだけを残して何かを待っている様子。ヨーグルトが配られることになっていたのだ。ごはんを残しておくのを失念してしまった、失敗。
隣の奥さんも完食して、すっかり安心していると、今度はオバットゥ(甘いベーサンの粉がはさまっているパラーターみたいなお菓子)が配られ始めた。だが、とても食べきれないと思って辞退した。師匠は「食べないの?」といいながら、オバットゥの上にギーをかけ、その上に熱い牛乳をかけてもみほぐしながら美味しそうに食べていた。お腹に余裕を残しておくんだった、失敗。
最後の最後に小さなバナナが配られて食事が終わった。手と口をすすいでからソーンフをキンマの葉で包んで口に放り込み、会場の外に出た。
こういう場合、皆が帰りの足を心配してくれる。
「オートで行くから大丈夫ですよ」
と言うと、必ず
「まぁ、ちょっと待って。何とかなるから」
と言って引き止められる。かといって、私の家の方向まで行くような人は誰もいない。そこでバスの話になる。会社の人に「バスで行くよ」と言うと「あんた、クレイジーなの?」と言われるが、こういう場所で会う人はバスを使うことが基本。
「マジェスティックまで近いから、マジェスティックまで行ったらいいよ。そうすればバスが頻繁にあるでしょう。」
「あそこからだったら、コーラマンガラまで行くバスがあるよ。」
「バナシャンカリ・バススタンドまで行くのはどうかね。」
と、いろいろ心配してもらった後、結局サウスエンドサークルまで師匠の知り合いの人のスクーターの後ろに乗せてもらうことになった。そこからバナシャンカリ・バススタンド行きのバスにのり、バナシャンカリから無事家に帰った。
最初は師匠の歌をちょっと聞くつもりだったが、地元のインド人コミュニティの中に入り込むというような貴重な体験をしてしまった。嫌な顔ひとつせず私を自然に受け入れてくれたコミュニティの人々に感謝である。また、見知らぬ私の帰りの足の面倒まで見てもらってしまって、インド人にはお世話になりっぱなしである。このインド人のスピリットは見習わなければと思う。
※追記(2/21)
ここは正式にはシュリンゲーリ・シャンカル・マットと言う。1911年に建築された。時のインド総督のハーディングが、シュリンゲーリのジャガルグル・シャンカラ・チャーリアとマイソールのマハーラージャの目前で、この教団のオープンを公式に認可したそうだ。この教団から、このエリアはシャンカルプラムという名になった。
20090115-map7.JPG

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3 Responses to シャンカル・マットにて

  1. SR says:

    今日は
    いさしぶりに読んだ。楽しかった。私もそのご飯を食べたくなりました。
    宗教の説教なのに、Jai Bharth Mata Kiといわれているのは、違和感を感じました。
    ナショナリズムの現れでしょう。
    では

  2. puspam says:

    実は毎回、歌のレッスンのお話は、興味深く読ませてもらっています。インドで働きながら、休日にレッスンとは、なんて素敵なライフスタイルなんでしょう(私もしたいくらいです)。
    アシュラムでの経験も、それ目的でインドを訪れなる方ならともかく、ワーキングヴィザを持っている方が経験するには、稀なケースではないでしょうか。kahkashaanさんの好奇心にワクワクです。

  3. SR avare
    namaskaara, neevu japan alli yen tintira ?
    puspamさんへ、
    こんにちは、
    いつも読んでくださり、ありがとうございます。幸い、会社は土日がお休みなので習い事をしています。
    3月からデリーに異動する予定です。残された時間で、できるだけバンガロール発掘もしようと思っています。puspamさんは、バンガロールをよく訪れているようですから、参考にしていただけるよう頑張りたいと思います。

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