ハイダラーバードでニカー

グループの友人からレズビアンだとからかわれていたハイダラーバード出身のムスリムの同僚がついに結婚することになった。
日本にオンサイトに行き、エンジニアとしてのキャリアを順調に積んでいた彼女は、周りが結婚していくに従って、自分の結婚も意識するようになっていた。友人が
「Bharat MatrimonialとShaadi.comのアカウント、まだ持っているよ。お婿さんを探してあげようか?」
とボランティアを申し出ると彼女は、はにかみながらそれを断っていた。
そういえば会社に一時期、ムスリム帽にアゴ髭姿のいかにも原理主義的な格好をした社員がいた。グループの友人は
「会社で宗教を強烈にアピールするような格好をするのは良くないよね」
とコソコソと話しながらも彼女のことを気遣い
「あいつはどう?話をつけてあげようか?」
と言ってあげていた。彼女はその時
「ナヒーン!(イヤ!)」
と答えていた。
「なんで?やっぱりレズビアンだから?」
と皆が不思議がったら
「ムスリムなら誰でもいいわけじゃないの。少なくともハイダラーバード出身のムスリムじゃなければ駄目」
などと言っていた。
その後、彼女のお父さんが花婿探しをし、どうやら2、3度お見合いをしたらしい。だが、どの男性もしっくり来なかったらしく、結局彼女は以前から求婚されていた従兄レヘマーン氏と結婚することにしたそうだ。早速、自宅で婚約式が行われ、結婚式の招待状が刷られた。
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これが結婚式の招待状。白と銀を貴重にしており、ヒンドゥーの招待状に見慣れてしまった目にとっては新鮮に映る。
招待状に使われた言語は英語だった。一番上には「アッラーの御名において」、日付の前には「インシャーッラー」とアルファベットで書かれてあった。日付には、ヒジュラ暦も併記してあった。左が花嫁の両親からの招待状で、右側が花婿の両親からの招待状になっていた。ナルホド。
        *     *     *
ということで、ヒジュラ暦1429年シャッワール月14日、ハイダラーバードに行ってきた。結婚式が平日に行われたため、車中2泊3日の強行スケジュールで行ってきた。
行きの交通手段には鉄道大臣ラールー・プラサード・ヤーダヴが始めた貧者の乗り物こと「ガリーブ・ラト」を利用した。これは全車両A/C付きの電車。だが、チケットが普通の列車より100ルピーも安い。
実際の車輌を見たら、車体の大きさが同じでも、より多くの乗客を運べるように工夫がしてあった。通路沿いの寝台は通常2段になっているのだが、ガリーブラトでは3段になっていた。また寝台の大きさを通常よりも小さくしてしているみたいだった。身長170センチを越えると、通路沿いの席の人は特に体を伸ばして寝れないのではないだろうか。ちなみに、シーツと毛布は有料(25ルピー)だ。
とはいえ車輌は新しいし、何箇所も電源プラグがあるし(乗客は、これを携帯の充電に使う)スイッチ類にはそれぞれ何のスイッチなのか記してあるし、暗い中でも座席を探せるように寝台番号の書かれた誘導灯があるし、通路側の跳ね橋状になっている座席の形にも改善が見られた。
平日なため車内は空いていた。にもかかわらず、制服を着た人が絶え間なくチップス、ビスケット、トマトスープ、チャーヱ、コーヒーを売りにやってきて購買欲をそそっていた。これも鉄道を黒字に変えるための工夫なのだろう。
列車はバンガロールのヤシュワントプル駅を午後8時45分に出発し、スィカンダラーバード駅に午前8時半に到着した。ハイダラーバードが近づくにつれて駅名の下にウルドゥーの文字が見られるようになってきて、私的にはワクワクした。
到着後、とりあえずハイダラーバードでは最も有名なレストラン『バーワルチー』にビルヤーニーを食べに行った。店内には大きな水槽があり、平凡な魚が泳いでいた。壁には『我々は支店を持ちません』と書かれた貼紙が何枚も貼ってあった。IndiaToday誌における紹介記事のコピーや、賞状のコピーも貼ってあった。曰く、ラマザーン中、毎年恒例の美味しいハリーム(小麦粉、マトン、スパイスから作られたグレービー)コンペティションで、今年もバーワルチーのハリームが1番になったらしい。
暗い店内では、ボーイさんが忙しく動き回る中、チキンビルヤーニーとチリ・チキンに舌鼓を打った。以前、食べた時は辛すぎてスプーン3杯も食べられなかったが、今回はあまり辛さを感じなかった。それだけ舌がインドの辛さに慣れてしまったということか。
        *     *     *
ニカー(結婚式)が始まるのは7時30分ということになっていた。そこで7時に会場に向けて出発しようとしていたのだが、例によって友人達の間で写真撮影大会が始まってしまった。「この背景で撮って」とか「今度は全身を撮って」とかキリがない。私は心を鬼にして「もう60枚も撮った。電池がなくなって肝心の結婚式が撮れなくなる」と言って自分のカメラをしまった。これでようやく出発したのだが、とはいっても、この時時計は既に7時40分を刻んでいた。
「有名な『クブール・ハェ(同意します)』を見逃してしまう〜」と言いながらタクシーで会場に急いだが、さすが大都市ハイダラーバード。ここも交通渋滞が酷い。30分で着く予定が、会場に到着するまで1時間かかってしまった。
会場に到着したら何だか閑散としており、客がまばらだった。「『クブール・ハェ』は、終わっちゃったのか!遅かったか!」と思い、一同がっかりしていた。すると、花嫁の母親であるラズィーア・マダムがザナーナ(女性部屋)の奥から出てきた。花嫁の方の儀式は終わってしまったが、花婿の方は到着が遅れており儀式がまだ済んでいないとのことだった。
私達は花婿がやってくるまでザナーナに入って花嫁と話をしたり、贈り物を渡すことにした。
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花嫁は、白い舞台の上に赤い絨毯を敷いて、その上に座っていた。クッションはあったものの、椅子なしで座るあたりが他の結婚式と違う印象を受けた。婚礼衣装は赤と緑のガグラー・チョーリーだった。チョーリーブラウスは大きめに作られており、袖も長め。とても控えめだった。ガグラーは細かい刺繍がほどこされており重くて高そうだった。
花婿は9時を廻っても、まだ来ない。外で様子を伺っていると、カメラマンが会場の入口で照明を付けだした。花婿が到着したのだ。
花婿は花を生け花のように貼り付けてある車に乗って現われた。そして車から降りると颯爽と男性用の会場の舞台にあがり、絨毯の上に座った。首からたくさん花輪をぶらさげていた。恐らく花がヒンヤリ冷たくて首がさぞ冷えたことだろう。
花婿が座るや否や、帽子を被ったカーズィーと、花嫁の父親が花婿の前に座り、契約書への記入を開始した。そんなこんなで、花婿レヘマーン氏と話をする機会がなかった。
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花嫁と花婿は椅子に座っていなかったが、ゲストの食事用は立食どころか椅子とテーブルまでも用意されていた。テーブルにつくなり、食事係の人が焼きたてのローティー(パン)を持ってきてくれたりと、何かと世話をやいてくれた。食事は会場の裏の大釜で薪による火で調理したもの。これがなんとも美味しかった。実はハイダラーバードに着いてから食欲がなくてバーワルチーのビルヤーニーでさえも大して美味しいと思わなかったのだが、この食事だけには舌が美味しいと叫んでいた。
料理は基本的にノンヴェジ(肉入り)だったのだが、ヒンドゥーのヴェジタリアンのゲストもいることからヴェジ料理も別セクションで用意されていた。これも美味しい料理だったらしい。
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契約書のサインは終わった。この後、深夜になったら新郎がザナーナに行き、パルダー(帳)ごしに新婦に面会するらしいのだが、残念ながらバンガロール行きのバスの最終は10時15分だったため、9時45分に会場を後にしなければならなかった。
バスのチケットは花嫁の母親ラズィーヤさんに取ってもらった。彼女は
「バスは私が言えば30分ぐらいは待ってくれるわよ」
と言って、ガハハと笑っていた。バスのチケットを届けに来た旅行会社の人は高笑いをしているラズィーヤさんの前で萎縮しているみたいだった。
ラズィーヤさんが手配してくれたタクシーに乗り、バス停へと急いだ。ライトアップされたチャールミーナールを右手に見て、スパンコールがキラキラ光る布屋を眺めながらバス停にダッシュ。ハイダラーバードは中央分離体が少ないので、反対車線の車が飛び出してくるのを交わしながら走らなければならない。しかもかなりのスピードを出してのことなので、何度も『ヒヤリ、ハッと』させられた。
途中、カラーチー・ベーカリーというところでフルーツ・ビスケットを買った。これがハイダラーバードのお土産として有名で、ただものではなく美味しいのである。490グラムの箱を1つ買った。
(*お土産を会社で配ってから知らされたのだが、今やこのカラーチー・ビスケットはバンガロールのアヴェニューロードやマッレーシュワラムでも入手可能らしい。)
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プライベートのバス・スタンドに着くと、カウンターにいる人が私達を見るなり
「ラズィーヤ・マダムか?」
「ラズィーヤ・マダムの!」
「ラズィーヤー・マダムだって?」
と口々に言い出した。そして案内されるがままにバスに乗り込むことになった。ここまで名が知られているラズィーヤ・マダムは何者だと首をかしげつつ・・・。
        *     *     *
こうして、バンガロールに戻って来た。
ところで今回も、結婚式の贈り物を何にするか揉めた。結局、TITANのペアの腕時計にした。
レズビアンを描写した映画『FIRE』と、そんなことをしたらレヘマーン氏にぶたれるぞという意味で『Rahman Hits』
(A.R.Rahmanのヒットソング集)をあげようという冗談のアイデアもあったのだが。
小耳にはさんだところによると、レヘマーン氏の母親が花嫁側の結婚式の手配に難癖をつけ、早速嫁姑問題が始まろうとしているらしい。従兄と結婚しても、この問題は起こってしまう運命なのか。とりあえずレヘマーン氏とは仲良くやって幸せになってもらいたいものである。

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