日本出張

ただいま、川崎のビジネスホテルに宿泊中。川崎市にある日本支社で仕事をするためである。
そのホテルには、同じくバンガロールから出張でやってきたプロジェクトマネージャーとエンジニアも泊まることになっていた。そこで私はチェックインの際に、ホテルの人に
「ニーランジャンさんはもうチェックインしていますか?」
と尋ねた。するとホテルの人から、
「あぁ、外国人の方ですね…。マーシー様はまだご到着されていないようです。」
と返答が返ってきた。彼はMurthyをムールティーと読まず、エイゴ読みしてマーシーと読んでしまったらしい。インフォシスのナーラーヤン・ムールティーも日本のどこかでナラヤン・マーシーさんとか呼ばれているのかもしれない。
さて、朝8時に1階ロビーで待ち合わせして日本支社に行くことにした。アヌパムさんは既に日本支社に行ったことがあるらしく自慢げにどうやっていくのかを説明してくれた。
「JR川崎駅からニンブー線で2駅目だよ。」
・・・南部線が、語感が似ているため「ニンブー(ライム)線」となってしまったらしい。ムールティーをマーシーと言う日本人もいれば南部線をニンブー線と言うインド人もいる、というわけだ。
川崎駅についたが、彼らは改札口に向かって一目散に歩いていた。ここぞとばかりに私は人差し指を立てて
「あそこで切符を買うんだよ」
と2人に言った。すると2人は
「僕らはSuicaを持っているんだよ」
と言った。
ガーン。
私はスゴスゴと切符を買いに自動券売機のところに行った。Suicaを持ったインド人を待たせている間、ひとりで切符を買いにいかなければならないとはなんとも寂しかった。
          ○   ○   ○
会議が始まった。
これがインドなら、オフィスボーイがお茶やコーヒーを運んできてくれるのだが、日本支社では私がやるか、あるいは自分達で給湯室に行ってお茶やコーヒーを用意しなければならない。
アヌパムさんに
「日本では、一番下っ端か女性がお茶を準備するんだよ」
と説明したら
「知ってる。オフィスボーイがいるのはインドだけなんだよね。雇用を創出しなければならないからね。他の国ではそういう人がいないっていうことはアメリカに行った時に知ったよ。インドで普通の人がお茶を出せと命令されるのはとても恥ずかしいことなんだよ。でも下っ端や女性がお茶を準備するという文化は似ているよね。今、うちでは13歳になる息子がお茶を作っているよ」
と言っていた。
          ○   ○   ○
お昼ごはんは近所の中華料理屋に行った。1人だけヴェジだったので、野菜炒め定食というのを特別作ってもらった。他のノンヴェジの人にはエビチリ定食を食べてもらった。チリが入っているとは言えど、辛さがイマイチだったらしく、インド人は、
「甘酸っぱいだけだな」
などと言っていた。
会議は5時ごろに終わったのだが、その後インドのオフショアチームと10時までテレビ会議をしていたため彼らは夕食をコンビニの食べ物で済ませたらしい。何を買ったのかは明かしてくれなかった・・・。
          ○   ○   ○
その夜、彼らは遅くまで家族とインターネットで通話をしていたらしく、次の朝、寝過ごしていた。時差ボケがあったため、私も寝過ごしてしまった。起きたら8時15分でビックリした。
会議は午前だけで終わった。お昼ごはんに行こうという頃になってなぜかケーララのハウスボートの話で盛り上がってしまい、お互いにノートパソコンに入った写真を見せ合いっこしていた。アヌパムさんは構図を考えて写真を撮る人らしく、結構な腕前の写真であった。
ハウスボートは高い。
「4000ルピーはするんだよね」
と言ったら、
「それは一番安いものだ。普通、5000とか6000とかするよ。食事を支度する人と船頭がついてくるんだ。食事はおいしかったよ。室内にファンがついていて、蚊も気にならなかった」
などと言っていた。やはり日本駐在やプロジェクトマネージャーとなると5000ルピーを厭わないほどリッチなのネ。
この日のお昼、マクドナルドに行った。ヴェジのニーランジャンさんは、Lサイズのフライドポテトを頼み、ひたすらポテトだけを食べていた。この人、あと2週間日本にいる予定だが、栄養失調にならないか心配である。
そのほかのノンヴェジの人はチキンバーガーを頼んでいた。ただし、ケチャップがないと味がしないらしかった。ハンバーガーを分解し、ポテト用の四角い入れ物に入ったケチャップをひっくり返してケチャップをかけて食べていた。
         ○   ○   ○
仕事帰り、ニンブー線上に住んでいるディネーシュ君にも会った。
ディネーシュ君は今年の2月からオンサイトで働いているカンナディガである。イタズラ好きで、誰かのIDカードをそっと抜き取って隠したり、誰かのアイスクリームに塩を入れたりと日々、クリエイティブなイタズラの発明に余念がない。そんな彼が「お金を稼ぐため」と一大決心をして日本にやってきて、日々仕事にいそしんでいる。お金を貯めるために携帯も持たず、お昼はお弁当持参で安くあげているらしい。
そんな彼のために、MTRのウプマmixや、Haldiramのミクスチャ、レトルト食品、ソーンフ、スパイスがまぶしてあるカシューナッツを持ってきてやったので、待ち合わせをして会いに行った。
駅に現れた彼の第一印象は「黒ッ!」であった。インドで見ると普通の彼が日本で見ると色黒に見えてしまう。フシギなものである。ところが、先方も私のことを「黒ッ!」と思っていたらしい。「あまりにも黒いから遠目で分かっちゃったよ。やっぱりインドにいるからねぇ・・・」と憐れみを込めた声で言われた。ガーン。
ディネーシュ君と、ルームメイトであり同じ会社で働いているダヤー君が私をお家に招待してくれたので、ちょっとだけお邪魔することにした。安くあげるためか、駅から遠い物件であった。アパートには、うちの会社のインド人が大勢住んでおり、インドハウス状態であった。
部屋は2DKだった。2人住んでいいことになっているが、3人住んでは駄目と言われているらしい。家賃は8万2千円だそうだ。
2つ部屋があるとは言えど、1人1室使うわけではなく、ひと部屋にフトンをふたつ並べて寝ているそうだ。インド人は寂しがり屋なのである。結果として、1部屋無駄にしてしまっていると言っていた。
ディネーシュ君が日本人の女の子に、
「同性の友人と部屋をシェアしているんだ」
と言ったら
「エー!キモーイ!」
と言われたらしい。私も同性のルームメイトと部屋をシェアしているため
「ケヘさんも、キミーイの部類に入るよね」
とディネーシュ君に言われた。
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ダヤー君は米を炊く傍ら、フライパンでスパイスを炒め、手際よくフライドライスを作ってくれた。そして2枚しかないステンレスのお皿で食べさせてくれた。スプーンも2本しかなく、しかも会社カバンからおもむろにスプーンを取り出していた。かなり節約生活をしているらしい。
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ディネーシュ君とダヤー君は土日は遅く起きて、日本語の教室に行ったり、ジムに行って過ごしているらしい。
他のインド人から数々の報告を受けているとおり、彼らも
「日本人に道を聞いたら親切に目的地まで連れていってくれるんだよ。」
と言っていた。しかし、
「だから、悪くって最近は道を聞かないようにしているよ。」
とも言っていた。
ディネーシュ君は
「最初ケヘさんを見た時、なんでそんな挙動をしているのか分からなかったけれど、日本に来てやっと分かったよ」
などと謎のコメントをくれた。私のどんな行動がインド人にとって不審だったのだろうか。
部屋では
「これは何て書いてあるの?」「これは?」
と訊かれた。そこで日ごろの疑問に答えてやった。冷蔵庫の「強」「弱」であったり、ADSLモデムの「電源」であったり。全て日本語で書かれているため、分からずじまいにしているらしかった。
最後にアパートの掲示板に書かれてあるポスターの意味について訊かれた。それは「空き巣に注意」というポスターで、割られた窓ガラスを見て叫んでいるおばさんの絵が描いてあるものだった。
彼は、そのポスターをずっと「騒音を立てないように」という注意書きだと勘違いしていたらしい。というのも、彼らが窓を開けっぱなしにしたまま、やや騒いでしまった次の日にそのポスターが貼られたから。
「なーんだ、空き巣に注意のポスターだったのかー!」
と、ディネーシュ君はかなり開放された様子で言っていた。かと言ってこれから、騒音を立てないと良いのだが・・・。
彼らはたまに日本支社を訪れるらしい。そこでは、日本支社の日本人スタッフがまるで彼らを小さな子供であるかのように扱ってくるらしい。それを聞いて笑ってしまった。だが、ちょっと分かるような気もする。自分が送り出した我が社のインド人エンジニアは自分の子であるかのように、可愛いものなのである・・・。私も年をとったのであろうか?

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3 Responses to 日本出張

  1. puspam says:

    面白すぎます!
    日本に来たインドの人たち、文化の違いから、日本で相当、苦労しているんだろうなと思ってました。彼らは真剣なんでしょうけど、インド人だからでしょうか、かなり笑わせてくれますね。久々の日本はいかがですか?

  2. SR says:

    インド人の間で、南部線はニンブ線となっているのはなかなか面白い。日本語ができない人にとっては覚えやすいかも。
    日本からインドへ行くと結構黒く見えます。なんで鼻が高く、目が大きいのと思ってしまう。何人かインド人を見てGandhara彫刻みたいな人だね思ってします。
    日本に戻ってきたら何でそんに黄色+白いなのと思ってしまう。
    彼がかなりかなり質素な生活していますね。
    たぶん歳をとったせいということではないと思います。”情がうつる”ということかも知れません。誰か特定な人に対してではなく、〈インド〉全体に。私も友人や私の学生さんがインドに留学したい・観光したいといわれた時、インドへ行って帰って、無事に旅が終わったと会いに来るまで、とても心配します。  
    不思議ですね。
    飛行機に乗るインド人にとっては1000ルピーは別にたいした金額ではない。交渉もしない。金がない人は飛行機を乗ったりしないと思う。
    では

  3. kahkashaan says:

    puspamさんへ、
    人によっては日本で適応してうまくやっているらしいです。ただ、家族や友達がいなくて寂しいとそれを紛らわすかのようにたくさん仕事をしてしまう人もいるみたいですね。それが気の毒であり心配でもあります。
    久しぶりの日本では、コンビニのジャンクフードを楽しみました。またいろいろな種類の缶ビールを楽しみました。インドで右手での物の受け渡しに慣れてしまったため、レジで左手でお釣りや品物を渡されると体に微量の電流が走ったかのように感じられちゃったりして。慣れってオソロシイです。
    深夜、川崎駅前で小さな横断歩道を渡ろうとしたら、車が来ないにも関わらず日本人が律儀に青信号を待っていることにドキッと感じました。最近は電車内での化粧までもが禁止になったんですねぇ。日本の細かいルールを破らずに生きていけるかどうか若干、心配になりました。
    SRさんへ、
    namaskaara
    インド人の横顔を見て、ミニアチュールの絵そっくりだね思うこともあります。肌の色ですが、昔は日本では日焼けした肌が流行っていたのですが、最近はインド帰りの私には不利な状況になりました。
    うちのディネーシュ君は節約しながらもインターネットで情報を集めて日本を楽しんでいるようです。ゴールデンウィークにはバスで京都旅行に行き、6人部屋のドミトリーに宿泊して安くあげたらしいです。
    エンジニアが客先で無事にお仕事をこなし、しかも日本を楽しみながら元気に暮らしているのを知るのが何よりの喜びであります。情がうつったということでしょう。きっと実際にお世話をしている日本支社の人はもっと気を揉んだりしているかもしれませんが。
    それでは

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